41 レイラ
「久しぶりだね、ケイン」
少し無邪気な感じに笑う少女。
間違えるはずがない。
あの時、連れてこられた牢の中にいた少女、レイラがそこにいた。
「あ、あぁ、久しぶりだな……ところで、なんで浮いているんだ?」
「あぁこれ?どうやら私、ゴーストになったらしくて」
ゴースト。
人が死んでからも、自我を保ったままこの世を彷徨う存在。
一応モンスターとして扱われており、そのランクはE。
ただ、ランク付けはされていても、害が無い存在ゆえに、モンスターの中では特殊な部類になる。
なにかあるとすれば、ちょっとしたイタズラをされる程度なのだ。
「ゴースト……ということは……」
「うん。死んじゃったみたい」
「そう、か……」
「あぁ、気にしないで。今の私、すっごくいい気分だから。ケインにも会えたし!」
笑顔で答えるレイラを見て、少し罪悪感が無くなった。
「……えっと、ケイン?その子は誰なのかしら?」
「あぁ、二人は知らないよな。彼女は……」
「待ってケイン。私から話をさせて」
「……全部、話すつもりなんだな」
「うん」
「……分かった」
「ありがと」
そうしてレイラは、二人に自分の事を話始めた。
自分が本当の勇者の末裔であること。
家族を殺され、幽閉されていたこと。
そして、俺とであったこと……
レイラの話を、二人は真剣に聞き入っていた。
俺は、黙って見守るしかなかった。
そして、レイラの話が終わったとき、二人は…
「そう……大変だったようね」
「うん……かわい、そう……」
「気にしないで。それよりも、私の……私達のせいで貴方達にも迷惑をかけた。ごめんなさい」
「別に謝ることはないわよ」
「うん。悪いの、アイツ、だから」
どうやら、大事にはならなかったようだ。
メリアも普通に会話しているところを見るに、レイラとはどこか通じるところがあるのだろう。
「それで、どうしてここが分かったんだ?」
「それなら簡単だよ。ケインがそれを持っていってくれたからね」
レイラは、俺の魔法鞄を指差す。
その中には、上部分が欠けた証が入っている。
「私が目覚めたとき、すでに私はゴーストになったんだ、って自覚していたの。それで地上にでたら、町が消えていたの」
「……」
「そんな顔しないで。私が死んじゃった時点で、もうあの町には何も残っていなかった。でも、唯一それだけは残っていてくれた」
俺は、取り出した証を見る。
「それは、私が生きていた証拠とも言えるもの。だから私は、それに引き寄せられたんだと思う」
「それじゃあ、これを持ってきていなかったら……」
「大丈夫、ケインが想像していることにはならないよ。あくまでも、気配を感じてここに来た、ってだけだから」
どうやら俺の考えは見透かされていたようだ。
「それじゃあ、これはレイラに返した方が良いのか?」
「ううん。それはケインが持っていて。そもそも証なしでも、ケインを探すつもりだったし」
「それって、つまり?」
「ケイン。私も貴方達の旅についていきたいの。貴方達といると、楽しそうだし!」
「俺はいいけど……」
俺は二人の方を見やる。もしかしたら、嫌と言うかもしれないと。
だが、そんな心配は無用だった。
それは、二人の顔を見れば分かる。
「分かった。これからよろしくな、レイラ」
「うん!よろしくね!」
こうして決闘前夜に新しい仲間、ゴーストのレイラが加わることになった。
「そういえば、レイラ。さっき「色々渡した」って言ってたけど、どういうことなの?」
「あぁ、そこを言ってなかったね。ケインには、私のスキルを継承して貰ったの」
*
「ねぇ。貴方にお願いしたいことがあるの」
「……なんだ?」
「私の持つスキル、そのすべてを貴方に継承してほしいの」
「……なんだって?」
「さっき、貴方はスキルを発動させた。それなら、私の持つスキルを使えば、貴方と捕まってる貴方の仲間を助けられるかもしれない」
「だけど、それのせいでスキルは使えないんじゃ……」
「継承はスキルを使うんじゃなくて、お互いの魔力を使うの。だからこれをつけられてても継承することはできるの」
「だけど、そうしたら君は……」
「私は、一生ここにいることになるかもしれない……でも、貴方達を救えるなら構わない」
「……分かった。レイラの思い、受け取らせて貰う」
「ありがとう、ケイン」
*
「……という感じで」
「だからなのね。私がケインを見つけたとき、すでに枷とかが外れていたのって」
「お陰様で」
「それで?継承したスキルってどんなやつなの?」
「それは……」
「なるほどね……これならなんとかなりそう」
「私のおかげだね!」
ふんぞり返って胸をはるレイラ。
メリアより小さい……というより、全くないとか言ったら殺されそうなので、そっと言葉をしまっておく。
「というかケイン。こんなスキル貰ってたのなら言ってくれても良かったんじゃない?」
「うっ……それはすまん……」
「まーまー。怒らないであげて」
とにかく、明日は決闘だ。
できる限りのことをするだけだ。
*
一方その頃…
「……なぁリーダー。もう一度言ってくれよ」
「あぁ?しょーがねぇなぁ。まずはお前らがあの子達を足止めするだろ?」
「……」
「そしたらその隙にオレがあの野郎をブッ飛ばすだろ?」
「……」
「そうすれば、あの二人はオレの勇姿に惚れ、戦いを放棄してまでオレ達のところに来る!決闘にも勝って、彼女も手に入る!
どうだ!完璧だろっ!」
「「どこがだ(です)っ!!」」
「はぁ……そんな都合よく惚れたりするはずがないでしょ……」
「あぁ、全くだ。そもそも勝てるかどうかも分からんのに」
「なんだと!?そんなはずがない!オレはもうすぐCランク冒険者になる男だぞ!?そこら辺にいるような冒険者に負けるはずが無いだろう!」
「はぁ……まぁ敵を分断させるという作戦自体には問題がないですから、その方向で行きましょうか」
「だな。まぁ女子を傷つけるのは、少し心が痛むが」
「待っていろ二人とも!オレの勇姿、とくと拝ませてやる!」
*
―翌日正午、闘技場にて―
「なっ、ななな……」
「これは……」
「想定外、だな……」
「なぜキサマ一人なのだぁぁぁ!!!」
なぜって言われましても……
決闘開始まで、あと少し。




