401 踊る機械 ②
「――壊剣、分解」
ティアがそう口にした瞬間、壊剣の刀身に、虹色の光の線が走り出す。
その線は真っ直ぐに、時に緩やかな弧を描き、その線に沿うようにして、刀身の全てが弾け飛ぶ。
そして、弾け飛んだ刀身の中から、一振の大太刀が、その姿を現した。
「なんだ……?その、剣は……!?」
「回答。元より壊剣とは、この一振を指す名。これらの外装は、この一太刀を納める鞘、と言ったところです」
「……は?」
トリーシュの表情が、困惑したものから真顔に変わる。
当然だろう。先ほどまで全力を出されていなかったどころか、剣すら抜いて無かったと言われたようなものなのだから。
「鞘、だと……?貴様、どこまで俺たちを侮辱すれば気がす――」
「回答の訂正。確かに、壊剣の核はこの一振です。故に、鞘という表現を致しましたが……これらもまた、壊剣の一部。即ち―剣なのです」
そう言うと、ティアの周囲を浮遊していた壊剣の破片が、再び輝き始める。
それと同時に、ティアの背後に二対一組、計八個の機械で出来た手―イーリスが現れた。
「連結」
その言葉と同時に、破片たちが激しく動き出し、八つのイーリス、その目の前に向かって飛んでいく。
そして、全ての破片がそれぞれの場所に集まったその瞬間、破片が再び繋ぎあい、新たな形へと変化していく。
レイピア、大剣、タルワール、クレセント―全てが異なる変化を遂げ、そしてそれらを、イーリスが掴み取った。
「なっ……なんだよ、そりゃあ……!?」
「参ります」
「……ッ!くそっ……!」
驚いている暇も無く、ティアがトリーシュに向かって駆け出す。トリーシュも応戦すべく、ティアの剣を受け止めるが――
(ッ!?なんだっ、このっ、重さは……!?)
大剣状態と比べて、質量は少なくなっている。そのぶん、空気抵抗が減り、振るう速度に関しては早くなってはいるが―それを加味したとしても、その一撃は重すぎた。
それにすぐ、トリーシュは躱すのではなく、ティアの攻撃を受け止めようとしたことを後悔した。
なにせ今気にしなければならないのは、ティアの持つ大太刀だけではないのだから。
「――ッ!!」
ティアの攻撃を受けきれず、体勢が崩れたところに、三本の剣が追撃に入る。
それらの攻撃は、首や心臓のような、致命的な箇所を狙ったものではなかったが、それでも確実に、トリーシュを戦闘不能に追いやるための攻撃であった。
そして当然、攻撃がその三本で終わるハズもなく、次の剣が、攻撃の体勢に入る。その瞬間、ティアを挟み込むように、ロゼッタとバンクが現れ、同時に攻撃を放った。
しかし――
「「なっ……!?」」
ロゼッタの剣を、一本の剣が受け止め、バンクの放った矢も、これまた一本の剣が叩き落とす。
そして、残った三本の剣が二人に向かって襲いかかった。
『ぐぅぅっ……!?』
ロゼッタには、右肩と左足に。バンクには、左肩に、それぞれ剣が襲いかかる。どちらもトリーシュと同じく、生命に関わる致命的な箇所を狙ってはいない。だが、剣士と射手、それぞれにとって致命的な箇所に攻撃を受けてしまったのは、二人にとって大きな痛手となった。
そして、トリーシュも二人が攻撃されたと同時に、ティアが一度強く踏み込んでそのまま振り抜き、トリーシュをぶっ飛ばす。
その威力は凄まじく、トリーシュは何度も地面に叩きつけられ、十数メートル先でようやく止まった。
さらにティアは、そのまま地を蹴りロゼッタ、バンクへと向かっていき、それぞれに蹴りを食らわせ、トリーシュほどでは無いにせよ、こちらも強くぶっ飛ばした。
「ぅがっ……はぁ……っ、クソ……!」
身体中に強い衝撃を受け、フラつきながらも立ち上がるトリーシュ。本当なら、立ち上がらない方が良いのだが、冒険者としての意地が、彼を立ち上がらせたのだ。
そうしてフラつきながらも剣を構えようとしたその時、それに気がついた。
「……っ、これは……!?」
見つけたのは、大きなヒビ。それは、今しがた、ティアの壊剣を受け止めた箇所であり、一度でも振るえば、すぐにでも折れてしまいそうなほどのものであった。
だが、トリーシュが驚愕したのはそこではない。確かに、先ほどまで鞘に入った状態の壊剣による攻撃を何度か受け止めていた。
それらの攻撃も当然ながら強烈であり、それらの蓄積でヒビが入った、とも考えられた。
だが、それは違う。間違いなくこれは、先の一撃で作られたものであると、トリーシュの勘は告げていた。
「この壊剣は、何も切ることはできません」
「――ッ!?」
剣のヒビに目を奪われていると、不意にティアがそんなことを告げてきた。
当然、トリーシュはなんのことかさっぱり分からず唖然としていたが、ティアは気にすること無く言葉を続けた。
「マスターに命を救われたあの日から、当機はマスターに全てを捧げると、そう誓いました。同時に、もう二度と、人を殺めるようなことはしないと。……しかし、マスターの願いは、そう簡単なものではありませんでした。
ただ、大切な人と日常を過ごす。マスターの、たったそれだけの願いは、酷く血にまみれた道の先にしかありません。それは、当機の掲げた誓いの矛盾を、明確にするものでした」
もう誰も殺さないという、ティアの誓い。
血を流した先にしかない、ケインの願い。
ケインと共に生きることを誓ったティアにとって、その矛盾は、ティアを大きく悩ませるのに十分すぎるものだった。
「戦いとは、死合の場。当機は考えました。どうすれば誓いを守ったまま、共に戦えるのかを。その答えの一つが、この壊剣です。
殺さぬのなら、壊せばいい。戦う意思を、戦うための武器を。壊剣は、そのための武器です。……いえ、そう思い込んでいました。それを、貴方たちが教えてくださったのです」
「……なに?」
「人の心は、簡単に折れはしない。例え、絶対に敵わない相手だったとしても、諦めることはない。例え、どれだけ力の差があったとしても、立ち止まったりはしない。それが、人間という種の持つ心の強さであると、そう教えてくださいました。
ですので、当機も考えを改めることと致しました。誓いは変わらず、殺すことは致しません。ですが、戦いの場において、当機はこれ以降、本気で殺すつもりで戦うことを、新たな誓いと致します。
それが、当機が皆様に送ることのできる、最大限の敬意です」
『……ッ!』
瞬間、三人の額を、冷や汗が伝う。
ティアの表情は変わらず、無表情のまま。
手にしている剣も下ろしたままで、その他の剣も、変わらずティアの周囲に浮遊し、留まっている。
ティアはまだ、立っているだけ――それなのに、今三人は殺された。そう錯覚してしまうほどの恐怖心が、三人を同時に襲ったのだ。
そして、気がつけば――トリーシュの目の前に、ティアがいた。
「――っ!?」
トリーシュが接近に気がついた時には、もう遅い。
すでにティアは壊剣を振っており、トリーシュの肩に、刃の無い刀身が触れる。
瞬間、耐えられないほどの重さと、今までに感じたことの無い圧が、同時に襲いかかってくる。そして気がつけば、地面が目前に迫っていて――
そこから先でなにが起きたのか、トリーシュが知ることはなかった。
変形武器って、男のロマンですよね
まぁ、彼女は女の子(機械)ですけど




