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400 踊る機械 ①

本編400話目!

不定期なのは変わりませんが、どうぞこれからもよろしくお願いいたします。

「うぉぉぉッ!!」

「……」



 トリーシュの大剣と、ティアの大剣がぶつかり合い、火花を散らす。その衝突が大きな音となり、渓谷に響き渡る。



「そこっ!」

「……」

「今ッ!」

「……」



 二人がつばぜり合う隙をつくように、ロゼッタの剣がティアを狙う。ティアは素早くトリーシュの剣を弾くと、跳躍し、ロゼッタの剣を躱す。

 そのタイミングを狙い済ましたバンクが、矢を放つ。だが、ティアは平然と剣を盾のように構え、その矢を弾いた。



「クソッ……なんて奴だ……!」

「近づいたら大剣に襲われ、離れていても簡単に防がれる……ホント、厄介な相手ね……!」



 トリーシュ、ロゼッタ、バンクの三人は、目の前の敵に苦戦していた。

 傍から見れば、善戦しているように見えて、その実、常に主導権を握られ続けている。そんな戦いを強いられていた。

 その最たる原因は、ティアにあった。

 なにせ、トリーシュの持つ大剣以上に大きく、重い大剣を持ちながら、軽装すぎない程度に軽装なロゼッタ以上の速度で動き、その大剣を、まるで木の枝でも振り回しているかのように、平然と振り回してくるのだ。


 本来、人や物が動く時、慣性というものが働く。

 人や動物が急には止まれないように、動いているものは、外力無くして止まれない。そして、質量や速度によって、必要となる外力は変わってくる。

 だが、ティアは慣性などまるで無いかのように、人一人ぶんはある大剣を振り回してきている。

 それは、ティアが機巧人形(マギアドール)であるからなのだが、機巧人形(マギアドール)という種がどういうものかを知らないトリーシュたちからすれば、理不尽極まりない存在、という認識になっていた。



「忠告。これ以上の戦闘は不毛と判断。撤退を推奨致します」

「……馬鹿言え。逆境程度で音をあげるような冒険者になったつもりはねぇよ」

「提案に対する決裂を確認。攻撃を続行します」



 ティアが立ち止まり、撤退を促すも、トリーシュはそれを拒否。言葉にこそしなかったものの、ロゼッタとバンクも同じく引くつもりは無いようだった。

 その姿を見て、ティアは一瞬、少し寂しげな表情を浮かべたものの、すぐに元に戻り、地面を蹴り、一飛び。そしてそのまま、振り上げた壊剣(フェレズ)を、トリーシュたちめがけて振り下ろした。

 ティアの攻撃に対し、三人は三方向に分かれて回避する。さすがのティアでも、空中ではどうしようもないらしく、そのまま壊剣(フェレズ)を地面に叩きつけた。

 その瞬間、地面がひび割れた。


 比喩でもなんでもない。壊剣(フェレズ)を中心とした十メートル弱の地面に、大きな亀裂が作られたのだ。

 それを見たロゼッタとバンクは戦慄していた。あんなものを、軽々と振るっていたのか、と。

 だが、トリーシュは違った。自分とティアが剣を交えた時、あんな威力は出ていなかった、と。

 確かに、非常に重い攻撃ばかりだったとはいえ、あんな威力を出せるのなら、とっくに自分は潰されている。

 そもそも、トリーシュたちを敵と認識しているわりに、撃退ではなく、撤退を促してくることにも疑問を浮かべていた。


(まさかコイツ、意図的に手を抜いている?)


 トリーシュはその考えに至ると、ティアに対し、怒りの感情を芽生えさせた。

 確かに、ティアの力は本物である。それこそ、最初から本気で来られていたら、数秒ともたずにやられていたと、本気で思えるほどに。

 だが、ティアはあからさまに手を抜き、あまつさえ撤退しろと促してくる。絶対的な力を見せつけるのでも、ねじ伏せに来るのでもなく。

 それは、こちらに対する最大限の侮辱ではないのか―そうトリーシュは考えた。



「……ふざけるなよ」

「疑問。ふざけるな、とは?」

「とぼけるな!お前、今もさっきまでも、完全に手ぇ抜いてるだろ!」



 初撃を躱されたティアは、地面に突き刺さった壊剣(フェレズ)を軽々と引き抜くと、そのままトリーシュへと追撃する。

 トリーシュはその攻撃を真正面から受け止め、自身の考えに確信を得た。

 その事を問い詰めた瞬間、無表情なティアの顔がほんの一瞬だけ陰り、ロゼッタとバンクは「えっ?」という声を洩らした。



「否定。手を抜いてなど――」

「だから、とぼけんなつってんだろ!」

「……!」



 トリーシュの剣が、ティアを押し返す。ティアも、言われなければ気づけないくらい、僅かに驚いたような表情を見せる。

 だが、トリーシュはそこで止まらない。

 押し返されたことで、本当に僅かな一瞬だけ体制を崩した隙を狙い、更なる追撃を叩き込む。当然のように、ティアはその攻撃を受け止めるが、トリーシュは二撃、三撃とさらに叩き込んでいく。

 ティアはそれらの攻撃を、的確に防いでいく。だがこの瞬間、間違いなくティアは「攻める」側から「攻められる」側になっていた。

 その瞬間、ロゼッタとバンクが、ティアに向かって仕掛ける。

 例え、先のトリーシュの言葉の理解が出来ていなかろうと、このチャンスを物にできないような二人では無かった。



「はぁっ!」



 バンクの矢が、先ほどまでよりも早く、より正確に、ティアを狙って飛んでくる。しかし、ティアはそれを見切り、すでに回避に動いていた。

 この時、ティアの身体は壊剣(フェレズ)ではなく、回避することに重きを置いていた。そこを逃さず、トリーシュは剣で壊剣(フェレズ)をかち上げ、初めてティアから、大きな隙を作り出すことに成功した。

 そしてすかさず、迫ってきていたロゼッタがティアの懐に入り込む。



「〝羅刹斬り〟!」

「……ッ!」



 ロゼッタの剣が、無防備なティアの腹部を捉える。体勢を崩されたティアは、まともに防御をすることができず、そのまま突き飛ばされた。

 ―そう、斬られたのではなく、突き飛ばされたのだ。



「なっ……!?」

「……被弾確認。当機の破損、及び異常確認のため全身スキャンを開始」

「どういうことだ……?まさか、羅刹斬りが上手く入らなかったのか?」

「……そんなこと無いわ。今のは間違いなく入った。手応えもあった。それなのに……!」

「スキャン完了。破損、異常共に問題なし。戦闘続行可能と判断」

『……っ!』



 三人の連携から繋げた渾身の一撃を受け、平然と立っているティア。

 その姿に、トリーシュたちが戦慄している中、ティアは一人、己の考えを改めようとしていた。


 ティアが本気を出そうとしなかったのは、人と機械では、純粋な地力の差があるから。

 機巧人形(マギアドール)であるティアは、一切疲弊することなく戦闘を続けられるうえ、出力においても、ケインやガラルのような例外を除けば、ほとんどの生物に勝る。

 だからこそ、ティアは自身がどう戦うのかを定めた。強者は全力を以て相対し、弱者は差を以て戦意喪失させると。

 あの日―最初で最後の、人殺しをした日に、そう決めたのだ。


 だが、そんな戦い方は間違いであると、ティアは考えを改めた。

 ティアの思う強者とは、ケインや不抜の旅人の仲間たち、そして勇者一行のことであり、他の者はそうではないと思っていた。

 しかし、現実は違った。

 ティアが弱者であると思っていた彼らは、力の差があると分かっていながらも食らい付き、ティアに一撃を与えた。

 例え無駄になろうと、例え意味が無かろうと、真っ直ぐに挑み、突き進んでいく。

 その意思は、間違いなく強者のもの。

 どんな者であろうと、その意思さえあれば、強者になり得るのだと―そう、改めた。


 故に、ティアは今度こそ、真にトリーシュたちに向き合った。

 互いに、無言で睨み会う。ロゼッタとバンクの額に、緊張の汗が流れる。

 そんな中、ティアが動き出す。壊剣(フェレズ)を持った腕を上げ、三人に向け、突きつける。

 そして、それを口にした。考えを改めさせてくれた彼らに対する、敬意を込めた絶望(アイコトバ)を。



「――壊剣(フェレズ)分解(パージ)

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