397 嫌悪の偏見 ②
大変……大変お待たせ致しました……っ!
・キャラの改変等による構成変更
・リアルのごたつき
・新作ゲームが楽しすぎてやめられない
等の理由により更新が滞ってしまったこと、この場で謝罪させていただきます。大変申し訳ございませんでした。
それでは本編、どうぞ
「はあぁぁぁ!!」
「く――っ!?」
「セシリア!アル!」
「「はい!」」
「チィ……ッ!」
ジャンヌの無駄の無い綺麗な剣捌きをなんとか回避し、距離を取ろうとするリザイア。だが、そんなリザイアの逃げ道を塞ぐかのように、二人の剣士が先回りしてくる。
背後が駄目なら空中に――そう考える者もいるだろうが、ジャンヌの背後で杖を向けている二人の少女が居る。
彼女たちは、離れたところから常にリザイアの動きを警戒し、いつ空中に飛び出して来ても撃ち落とせるよう睨みを効かせていた。
結果、リザイアは自身の得意とする距離感を封じられ、近接戦闘を余儀なくさせられていた。
とはいえ、リザイアもただやられっぱなしという訳ではない。ジャンヌたちが攻撃に専念している間に、気取られないようゆっくりと仕込みを続けていた。
そんな中、ジャンヌは少しの間、攻撃する手を止め、リザイアと向き合った。
「どうして、反撃してこないのですか?その武器がどのようなものかは存じ上げませんが、先ほどから使う素振りが見えません。やはり貴方は――」
「勘違いするな。我は貴様ら相手に撃てないのではない。撃たないだけだ。それに……すでに〝種〟は撒き終えている」
「種?それはいった――」
その瞬間、僅かにジャンヌたちの視界が揺らめき――背後に、正気を失った男たちが現れ、ジャンヌたちに襲いかかった。
「――ッひ……ッ!?」
ジャンヌの背中に突如としてのし掛かる、人ひとり分とは思えない重み。背後から伸びてきた手は、ジャンヌに抱きつこうとするかのように曲がっていき、耳元に「ぁあぁ」「ぅあぁ」といった、理性の欠片も感じないような声が届く。
不意を突かれ、何に抱きつかれたのかを察したジャンヌは、一気に顔色を真っ青に染め上げた。
「―――――――ッ!?」
ジャンヌが、声と認識できないような叫び声をあげ、完全に抱きつかれる寸前のところで片腕を掴んで阻止、そのまま身体を回転させた。
それにより、手にした剣で抱きつこうとしていた男を斬り伏せ、なんとか群れた男たちに押し潰されることだけは避けることができた。
だが、ジャンヌにそんなことを考えている暇はなかった。
「触……っ、触られ……っ!?」
正確には、直接肌を触られた訳ではない。手の方も素手ではなくグローブを着けているため、ジャンヌから直に触れた訳でもない。
だが、ジャンヌからすればそんなことは些細なもののようで。ただひたすらに「男に触られた」という事実だけが、ジャンヌの思考を埋め尽くしていた。
「ひっ……嫌……っ!」
「やめ、やだ……っ!?」
「――ッ」
そんな中、背後から恐怖に震える仲間の声が聞こえてくる。その声でギリギリ現実に戻ってこれたジャンヌは、振り向きながらの一閃を放つ。その一閃は、仲間たちにのし掛かっていた男たちの大半を吹き飛ばし、残った男もジャンヌが斬り伏せたことで、二人を救出することに成功した。
「二人とも、大丈夫ですか!?」
「「は、はひ……ひぃ!?」」
一瞬とはいえ襲われかけ、着ている服も若干乱れてしまっている二人を起きあがらせようとするジャンヌ。
だが、ジャンヌに顔を向けるべく顔を上げた二人は、背後に見えた光景に、思わず顔を青ざめさせ、声をあげてしまう。
何事か、とジャンヌも背後を見れば、思わず絶句してしまう光景が広がっていた。
そこにいた――いや、倒れていたのは、一人の少女。衣服は剥ぎ取られたのか何も着ておらず、汗や泥やらで、綺麗だったはずの身体は見るも無惨なまでに汚れていた。
開いたままの眼は焦点が合っておらず、最早閉じ方すら忘れた口からは、濁った唾が溢れていた。
「――ッ!!」
ジャンヌは、本気で吐いてしまいそうになった口を咄嗟に押さえる。だが、すでに喉まで上がってきていたものを押さえるにはあまりにも遅すぎた。
幸いだったのは、あまり上がってくるような両を食べたりしていなかったことだろうか。それでも耐えきれず、ジャンヌはその場で吐いてしまった。
「……が、ゲポっ、ぁ、ッ……!」
「おや、貴様には少々重すぎる光景だったか?」
そんな中、ジャンヌの耳元で、リザイアの声が囁くように聞こえてくる。その声に思わずハッと顔を上げ、周囲を見渡すジャンヌだったが―誰も居ない。
それどころか、気がつけばジャンヌたちは、正気を失った男たちに取り囲まれていた。生気を失ったその瞳は、自分たちをロックオンしていた。
「ひ……っ!?いつの間に囲まれて……!?」
「クックック……さて、いつからであろうなぁ?」
「っ、そもそも、貴方もどこへ行ったのですか!?どこから声を……」
「ふん、敵に易々と情報を渡すわけ無いだろう?そんなことよりも、ほら、来るぞ?」
『ォオォォォォォオォォッ!』
「――ッ!」
リザイアの言葉に合わせるかのように、雄叫びのような奇声を上げながら、裸体の男たちが波のように迫ってくる。
それはジャンヌたちにとって―いや、女性にとって、見たくもないような悪夢の光景。当然、未だジャンヌの足元で立ち上がれずにいる二人は、その光景に顔を青ざめさせている。
勿論ジャンヌも、顔色は酷く真っ青に近い。だが、だからといって何もしなければ、そこで倒れている少女と同じ末路を辿るのみ。
仲間と自分を守るために、ジャンヌに残された道は、一つしか無かった。
「あぁッ、はあぁぁぁぁぁぁッ!!」
ジャンヌは、迫り来る男どもを斬る。切って斬って伐り続ける。時に剣圧で吹き飛ばし、時に刺し貫き、それでもひたすらに斬り続ける。
だが、どれだけ斬っても、数が一向に減る気配がない。それどころか、時々人を斬ったという感触がしない。
たとえ、質量があまり無いものや、柔らかいものであろうと、切った、という感触は手に伝わってくる。それが人サイズであればなおのこと。
だと言うのに、それが無いというのはおかしい。しかし、ジャンヌにそれを考えている暇も余裕も無い。……ハズだった。
(……ッ、どういう、ことですか……!?)
その異変は、唐突に起きた。
先程まで確かに人を斬った、という感触がする方が大多数だったというのに、その感触が極端に減った。
それなのに、押し寄せてくる男の波は止みそうもない。そもそもであるが、こんなにも男がいるという記憶もない。
確かに、ジャンヌたちがこの場所に来た時点で、すでにかなりの人数がいた。が、ジャンヌが今しがた〝斬った〟人数と比べれば、あまりにも数がおかしすぎる。
物陰に潜んでいた、とするにも異常であり、そもそもこの場所自体が平坦に近く、隠れる場所もほとんどない。
援軍が来て即座に……とも考えられたが、この惨状を目の当たりにすれば、少なからず反応があるハズ。それが無い時点で、その可能性は否定されているも当然。
それこそ、化かされでもしない限りは――
「――っ!」
そこに来て、ようやくジャンヌは一つの可能性にたどり着いた。
それは、本当ならば、最初に気がつかなければならなかったこと。だが、その事に意識を回せないような光景があったがために、今になってようやく気がついた。
(……そうです。あの少女は、夢魔族……!でなければ、あのような惨劇は産み出せません……!)
夢魔族は、性に通ずる種族。であれば、あの惨状を何とも思わない素振りにも納得がいく。
そして、ジャンヌ自身は見たことも聞いたこともないが、もし、夢魔どおりの能力、あるいはスキルを持っているのなら、この異常の説明にもなる。
それならば―と、ジャンヌはむやみに剣を振るうのをやめ、一つの構えを取った。
それは、端から見れば、直立したまま無防備に祈りを捧げているようにしか見えない構え。だが、その構えをした瞬間、ジャンヌの魔力が美しく、それでいて力強く整ったものへと変化していく。
そしてジャンヌは、剣を振るった。
――その瞬間、周囲の全てが吹き飛んだ。
群がる男たちも、ジャンヌが斬り伏せた死体も、こびりつくように纏わりついていた魔力も。
ジャンヌがなにをしようとしているのかを察し、ジャンヌの足にしがみついた二人を除けば文字通り、周囲一帯の全てを吹き飛ばした。
そして、吹き飛ばした魔力の中から、リザイアが姿を現した。
「……ほう、やるではないか」
「やはり、貴方でしたか……先ほどまでの光景は、貴方が見せてきた幻、そうですね?」
「ご明察。もう少し気づくのが遅れるかと思っていたが……やはり、最初に突撃しすぎたせいだな。これだからカタの外れた男というモノは……」
「……え?」
ジャンヌは、思わずこぼれたのであろうリザイアの言葉に違和感を感じた。
改めて見たリザイアの容姿や服装は、間違いなくサキュバスのそれだ。これまでの言動や行動を思い返してみても、性的嫌悪感などは抱いていないことが分かる。
だからこそ、違和感がある。
先の言葉を普通に考えるのであれば、理性を失っているがために暴走する男たちに対して呆れている、と取れるだろう。
だが、今の言葉には、間違いなく侮蔑のような気持ちが含まれていた。それは、ジャンヌの勝手な解釈などではない。正真正銘、リザイアの心象そのものであった。
「何故……どうしてなのですか?今の発言からして、貴方は男性を嫌っているのでしょう!?それなのにどうして、私たちに賛同してくれないのですか!?」
「ん?……嗚呼、聞こえていたのか。だが、勘違いするな。我は別に、男など嫌っておらぬ。というか、ケイン以外の男など、今や心底どうでもいい。欲望に溺れようが、勝手に潰れようがな」
「な、なぜそこまで……!?男はケダモノ、女の敵です!男の力などなくても、私たちは生きていける!それなのに――」
「そうかそうか、男手など必要無いと。なら――その剣、とっとと捨てたらどうだ?」
「――っ!?」
「嗚呼、それとその身に纏っているモノもだな」
軽い拍手をしながら言葉を遮り、すぐさま真顔になって、そんな言葉を突きつけて来るリザイア。
その言葉の真意を、ジャンヌは理解できなかった。当然だろう。この状況で「真っ裸になれ」と言われてなることなど、出来はしないからだ。
「な、何故そのようなことを……!?この場であられもない姿を晒せなどと、私に死ねとでも言いたいのですか!?」
「何を言う?貴様が言ったのだぞ?男の力などなくても生きていける、と」
「それとこれとにどんな関係が――」
「なら聞くが、その剣を打ったのは誰だ?」
「……え?」
「その防具を作ったのは誰だ?剣や防具の素材になる物を取ってきたのは誰だ?もっと言おうか。貴様がこれまで食してきたものを作ったのは誰だ?貴様が歩いてきた道を作り、整備しているのは誰だ?」
「それ、は……」
ジャンヌは、言葉に詰まった。
反論し、言い返すだけなら簡単だ。だが、それの反論には〝確証〟が無い。
ジャンヌたちが気にしているのは「結果」のみ。そこに至るまでの〝過程〟について、わざわざ深く考えるようなことはしてこなかった。
否、考えようとしなかったのではない。それがさも当然であると、勝手に認識していたのだ。
「別に、他者がどのような考えを持ち、どのように生きていようが、所詮は他人。そんなものどうでもよい。だが、貴様らは違う。
貴様らはただ、同じ思想を持つ者同士で集い、自らの意のみを信仰してきた。結果、貴様らは自らの思想こそが世界の心理であると錯覚し、それが絶対であると解釈した。
同じ思想で動くが故に、その道を正す者などおらず、同じ思想であるが故に、他者の思想も全て同じだと勘違いし、同じ思想を持つが故に、違う考えを全て異端と断じてきた。そうして貴様らは、都合のいい小さな世界に閉じ籠ったのだ」
「そ、そんなことはな――」
「ない、などとは言わせぬ。すでに貴様らは我を否定した。我の思いを蔑ろにし、蔑み、そして侮辱した!」
「――ッ!?」
次の瞬間、リザイアの持つヴァルドレイクが、その回転を一気に早めた。回転の速度が上がるにつれ、青い放電が強くなっていき、やがて、その色は黒いものへと変色していく。
そしてその銃口を、迷うことなくジャンヌへと向けた。
「この恋は我のものだ!この愛は我らのものだ!貴様らごときが、土足で踏みにじるなど、断じて許さぬ!」
リザイアが、引き金に指をかける。ジャンヌは慌てて動こうとするも、時すでに遅し。リザイアは躊躇いを見せることなく、その引き金を引いた。
「過剰充填〝黒雷懲罰〟!」




