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393 勝利条件 ①

「諦めろ。貴様らはすでに、完全に包囲されている。どれだけ策を労したところで、結果は変わりなどしな――」

「やなこっ、た!」



 植物と氷でできた矢倉の上から、ナーゼが矢を放つも、精霊王の側に居た一人が矢を切り落とす。

 そして、切り落とされた矢の先端が地面に刺さると、そこから小さな範囲一帯の植物が、毒によって徐々に枯れていく。

 その様子を見て、ますます精霊王は機嫌を悪くしていた。


 ウィルとナーゼ、ビシャヌの三人は、精霊王を対峙し、交戦を開始した。が、三人はケインやガラルのような力があるわけでも、ナヴィやイブのような、強力な札を多く持っているわけでもない。

 さらに言えば、三人とも戦える力はあれど、戦い自体は他の面々と比べれば苦手としている。

 結論を先に言うとすれば、戦闘を開始してからほんの数分で、壁際にまで追い詰められていた。


 とはいえ、ナーゼたちも黙ってやられるわけにもいかない。

 手始めに、ウィルの(ウォーター)にナーゼの(ポイズン)を混ぜ、それを散布。それによって、毒水が撒かれた位置を境目にして、植物が枯れ別たれた。

 次に、ナーゼたち側の植物を急成長させ、壁沿いに向かって矢倉を作り、それらをビシャヌの氷結(フリーズ)によって凍らせる。

 そうやって、無理矢理に〝高さ〟という優位を取ったことで、三人はなんとか持ちこたえていた。



「……貴様、またこのような毒を……っ!植物は、我らという命を産み出した、言わば母なる存在!その植物を自らの手で害するなど、あってはならないことなのだぞ!?」

「そうだね、ボクだって心苦しくない、とは言えないさ。でも、側近が撃ち落とさずに、キミが受ければ良いだけの話なんじゃない?」

「貴様が、毒の矢など射たなければ良いだけの話だろう!?」

「あくまでも、こっちが全部悪いってことか……ほんと、屁理屈ばっかりだね……っ!」



 だが、どれだけ守りを固めようと、どれだけ地の利を得られようと、〝数〟と〝技量〟の差が縮まるわけではない。

 現に、ナーゼが(ポイズン)麻痺(パラライズ)を付与した矢を何度も放っているが、その全てを完璧に撃ち落とされていた。

 ウィルも同様で、水刃を何発も飛ばしているが、距離の関係からか勢いが減衰してしまっており、簡単に書き消されてしまっていた。

 そんな中、ビシャヌは善戦していた。というのも、ビシャヌの扱う氷は、主に植物から産まれてくる精霊にとって、ほぼほぼ天敵と言ってもいいもの。

 寒さに強い植物から産まれた精霊、属性として氷を扱う精霊、そもそも植物から産まれる以外の方法で産まれてくる精霊など、冷気に対して耐性のある精霊も勿論いるが、数としては全体の一厘(いちりん)にすら届かない程度。

 そういった背景からか、二人よりは有利に戦えていた。……そう、二人よりは。

 結局のところ、ナーゼたちが追い込まれている事実にかわりはないのだ。



「くっ……!このまま持ちこたえるのも限界が来ますわ!」

「うん、そうだね……それなら、やっぱり……」

「っ、ナーゼさん。それは……」

「……分かってる。下手をすれば、ボクが壊れる。でも、()()ならやるしかない……!」

「……分かりました。覚悟はできているようですね。ウィル、私たちで」

「えぇ、ナーゼ。わたくしたちがサポート致しますわ」

「ありがとう。頼んだよ―っ!」



 そう言うと、ナーゼは矢倉から飛び出し、氷の上を滑り、精霊王たちの目前まで降りてきた。

 精霊たちは、突然のナーゼの行動に驚きはしたものの、素早くナーゼを取り囲んだ。



「どうした?投降する気にでもなったか?」

「まさか。そもそも投降したところで、キミたちはボクらを許したりなんかしない。そうでしょ?」

「当たり前だ。貴様らなど生かしておけぬ。貴様も、そこの二人も、その先にいる者たちもだ」

「……だろうね。嗚呼、分かっていたさ。キミたちとボクらじゃ見ている世界が違う。だから分からない、分かりあえない。だからこそ、ボクはキミたちを叩きのめす!この身にかけても!」

「っ!貴様、なにを―ッ!?」

「うぐっ、ぅあぁぁ……っ!ぁぁァァッッ!!」



 ナーゼは素早く取り出した注射器を、そのまま自身の肩に、衣服を貫通させながら突き刺す。

 当然、安全や向きなど、なにも考えずにそんなことをすれば、耐え難い痛みに襲われる。だが、ナーゼはそんな痛みすらも無視して、ピストンを押し込んだ。

 精霊王たちは、そんなナーゼの行動に、咄嗟に動くことができず、みすみすそれを許してしまう。

 そして、自身に何かを注入したナーゼは、注射器を抜き捨てる。当然ながら、注射器の刺し傷から血が流れ、白衣を赤く染めていく。

 だが、すぐにナーゼが苦しみだしたかと思うと、次の瞬間には、ナーゼの身体に異変が起きていた。


 精霊族のひとつ、ドリアードという種族は、両手を植物の蔦や根のようにしたり、植物そのものに変化させたりすることができる。

 だがもしその特性(ちから)を、意図的に暴走させたらどうなるだろうか?

 ナーゼの両手が、急成長を遂げた蔦のように変化、肥大化し、腕に絡まっていく。白衣を締め上げ、身体を侵食しながら足へと蔦は延びていく。

 やがて変化が収まりを見せはじめた時、そこには蔦に侵食され、変わり果てた姿となったナーゼがいた。



「貴様、その姿は……っ!」

「……言ったでしょ?ボクはこの身にかけても、キミたちを叩きのめす、って。これは、そのための力だッ!」

そういえば、前回で通算400話目だったみたいですね。全く気づいていませんでした……

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