390 裏切りの刃 ①
「アッハッハッ!ほら、どうしたどうした!?この程度でくたばるようなタマじゃねぇだろ!?」
「ぐはっ……!?この、化け物が……!」
「はっ、モンスター相手に化け物ってぇのは褒め言葉なんだ、ぜっ!」
また一人、騎士を冒険者たちの中に投げ飛ばしながら、ガラルは不適な笑みを浮かべ続ける。
最初の会合から、数十分と経過していることもあり、すでにこの場には何組もの集団が合流してきていた。
だと言うにも関わらず、ガラルは一人、彼らを相手にして、目立った傷も負わず、息切れ一つすることなく戦い続けていた。
「くっ、遠距離班!撃てぇい!」
『――――っ!!』
「……はっ」
最初に彼らに発破をかけ、自身も前に出つつ、全体の指揮を取っていた老騎士が、ガラルの周囲に誰も居なくなった隙を見計らい、冒険者たちに指示を飛ばす。それに合わせるようにして、ガラルの元へ矢やスキルが飛んでいく。
が、ガラルはそれを鼻で笑うと、スキルの隙間を縫うように動き、迫る矢は手にした武器で打ち落とし、一切の被弾をすることなく耐えきった。
「――嗚呼、いい。やはりいい!最高だ!最高に手に馴染む!」
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「アリス、ガラル」
「あ?なんの用だ?ご主人サマ?」
ガラルたちが、向かってきているであろう冒険者たちを迎え撃つべく、散ろうとしていた中、アリスとガラルは、ケインに呼び止められていた。
「二人とも、武器はどうするつもりなんだ?」
「んなもん、拳一つで十分だろ……って言いてぇところだが、やっぱ得物の一つはねぇと物足りねぇな」
「わたしも……そうね、この剣の扱いにも馴れてきたけれど、やっぱり、わたしには槍の方が合っているわね」
「……だろうな。だから、ティア」
「はい。マスター」
いつの間にかケインの側に立っていたティアは、空間からそれを取り出し、二人の前に差し出した。
「っ、これは……!?」
「俺が、リアーズの制作と一緒に、ティアに頼んでいた二人のための武器だ。受け取ってくれ」
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〝カグナ〟
ティアによって作成された、ガラルの新たな武器。柄から先にかけて、徐々に大きくなっていく六面体のシンプルな武器であり、〝切る〟ではなく〝叩く〟が主となる、限りなく金棒に近しい大剣となっている。
ガラルの持つパワーを最大限発揮できるよう、並みの大剣よりも数倍重くなっており、激震をフルに使っても耐えうる強度を誇っている。
文字通り、ガラルの力を最大限に生かせる武器となっていた。
「ってことで、今度はこっちからいくぜ!」
「くっ……!させぬ!」
地面を蹴り、冒険者たちの元へと駆け出すガラルを前に、老騎士が巨大な盾を持って前に出る。
そして、助走によって威力を増し、大きく振り下ろされたカグナを、正面から受け止めた。
「オラオラどしたァ!最初の威勢は何処へ行きやがったんだァ!?」
「うぐっ、うぅぅぅ……っ!?」
ガラルは、受け止められたことをいいことに、カグナで追撃を叩き込んでいく。
老騎士も、冒険者たちから何重にもバフを重ねて貰っているとはいえ、ガラルの容赦ない連続攻撃を、そう何度も受けきれはしない。
やがて、ピシッ、という音とともに、大盾に大きなヒビが入った。
そしてそれを、ガラルが見逃すハズもなく、ガラルはそのヒビ目掛けて振り下ろし、盾の一部を完全に破壊することに成功した。
「な――」
「貰っ――」
盾の一部が壊されたことに、思わず意識を向けてしまう老騎士。
それとは裏腹に、ガラルはチャンスと言わんばかりに、砕けた部分に狙いを定め、更なる破壊、あるいは盾から手を離させようと、カグナを振り上げる姿勢に入った。
その瞬間だった。老騎士の背後から、紫電が走ったのは。
「――っ!」
紫電を纏ったソレは、二人の頭上で静止する。それを見たガラルは、咄嗟の判断で地面を蹴り、後方へと飛んだ。
その瞬間、紫電はちょうど二人のいた場所の中心目掛けて墜ち、そのまま老騎士を平然と巻き込みながら、広範囲に紫電を撒き散らした。
「――はっ、ようやく動きやがったか」
「……』
ガラルは、紫電の落ちた場所を睨み付けながら、歓喜に満ちた笑みを浮かべた。
そして、土煙が晴れ、ソレは姿を表した。
ソレの容姿を一言で言い表すならば、囚人だろう。
首の下から指先、爪先に至るまで、紫色の皮のような布に覆われ、黒に金の金具を用いたベルトが、手足、胴体をピッチリと締め上げている。
顔の方も、謎の仮面とマスクを、同じくベルトで締め付けており、頭の先から爪先まで、肌はおろか、髪の毛一つすら露出していなかった。
ただ、全身をピッチリと締め付けているためか、スタイルの良さに加え、胸部の膨らみが激しく主張しており、ソレが女性であることだけは明らかだった。
そして、彼女の手には、彼女の着ているものと同じ紫色をした、禍々しい剣が握られていた。
「んで?テメェはなにもんだ?」
「……答える義理はない』
ガラルは彼女に問うが、彼女は男と女、二つの声が入り交じったような、そんな声で答えることを拒否した。
実のところ、ガラルは彼女がこの場所に現れた時から、他の誰をも差し置いて、彼女のことを警戒していた。
だが、彼女はこの場所についてからずっと、離れたところで静観し続けていたのだ。
そんな彼女が今になって動いたのは、一体どういう理由なのか……それを知るには、戦う他ないと、ガラルは分かっていた。
「いくぞ』
彼女が、地面を蹴る。
それは、先の紫電を纏っていた時よりは遅い。それでも、気を抜いていれば、一瞬で首が飛びかねない、そんな速度で斬りかかってくる彼女の剣を、ガラルはカグナで受け止めた。
「……っ!?」
剣とカグナが衝突し、火花を散らす。互いにぶつけた魔力の余波が、衝撃波となって老騎士たちにも届く。
そして、二人は数秒つばぜりあった後、彼女の方から剣を引きつつ後方へと飛び、距離を開ける。
その場にいた誰もが、そのたった一度の衝突で、二人の、個の格の違いを感じ取っていた。
しかし、ガラルだけは違った。
鬼人という種は、強敵との戦いを本能的に求めている。例外的な者も少なからずいるが、元を辿れば、この闘争本能に由来しているものが多い。
そんな話もあり、突然現れた強敵に対し、喜びを感じているのだろうと、誰もがそう思っていたのだが……その顔には、困惑と、怒りの表情で溢れかえっていた。
「……おいテメェ。その剣、どこで手に入れた?」
「答える理由はない』
「あぁそうかよ。なら、無理矢理にでも吐いて貰うぜッ!!」
なぜ、ガラルが彼女に―正確には、彼女が持っている剣に対し、怒りを向けているのか、老騎士たちには理解できない。
それもそうだろう。その理由は、ガラルにしかわからないものなのだから。
そう―彼女の持つ剣の素材に、自分の魔石が使われているということは。
風邪でダウンしてる間にちょっと減ってた……
悲しい……




