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387 暴食は止まらない ①

「く、来るなぁぁぁぁぁぁ!!」

「や、やめろぉぉぉぉぉぉ!!」



 ダンジョンの一角と化した沼地、そこでは、冒険者たちの阿鼻叫喚の声が響いていた。

 その原因は、沼地に足を取られ、うまく逃げれずにいる冒険者たちをよそに、沼地を平然と走り回り、冒険者たちを追いかけている一人の幼女(ルシア)にあった。

 ルシアは、見た目通りの無邪気さで、足を取られることなく沼地を走り回っており、やがて、一人の冒険者の元へとたどり着く。そして――



「ぃただき、まーす!」



 身体そのものを大きな口のように広げ、そのまま冒険者を飲み込んでしまった。

 この時すでに、ルシアは数十人の冒険者を飲み込んでいた。だが、まだ食べたりない、そんな表情を見せると、再び冒険者たちを追いかけ始めた。

 そんなルシアの様子を、ルシアがすぐには来れない場所―離脱区域で観察し続けていたリンキスは、その表情を戦々恐々とさせていた。



(なんなんだあの()()()()は!言葉を話すってのはまだいい。ハーピー(同じような奴)が居たからな。だが、人の姿を取れるスライムだなんて聞いたことないぞ!?)



 リンキスや多くの冒険者たちは、自身が培ってきた技能によって、ルシアの正体がスライムであると、ほぼ確信していた。

 そのうえで、ルシアという異常な存在に、頭を悩ませざるを得なかった。


 そもそもスライムは、ギルドが定めているランクの中でも、最低ランクのFランクモンスターに当てられている。

 同じFランクには、ゴブリンやスケルトンも居るが、直接的な被害が出やすい二種とは異なり、被害は出にくく倒しやすい。その代わりと言ってはなんだが、二種以上に繁殖、増殖しやすい。

 また、スライムは雑食性であり、生物の死骸から排泄物まで、あらゆるものを食料とする。そのため、自然界の掃除屋とも呼ばれていたりもする。

 それが、スライムの世間的な評価だった。


 だが、目の前のルシアはどうだ。

 増殖うんぬんは置いておくとして、短い時間ですでに数十人と食われている。中には、Cランクの冒険者までいた。これだけでも、相当な被害が出ていると言っていいだろう。

 では、倒しやすさはどうか?

 先述の通り、ルシアに近づくことは危険すぎる。常に食われるリスクが付きまとうため、はっきり言って無謀としか言うことができない。

 ならば遠距離からの攻撃はどうか。結論からいえば、こちらもダメだった。

 最初の接敵時、いち早く接近されることの危険性に感づいた冒険者が、即座にスキルによる攻撃を行った。

 だが、ルシアは飛来してきたそれに対し、一切の怯えもない笑顔を浮かべ続け、そのまま、平然とそれを飲み込んだ。


 そしてそれは、一筋の希望が絶望に変わった瞬間でもあった。今やこの沼地は、無邪気な幼女の狩り場と化していた。

 そんな中、一人の冒険者が、リンキスの元に訪れていた。



「おいアンタ、テイマーなんだろ!?だったらアイツをどうにかしてテイムできねぇのか!?」

「……んなもんすでに試したさ。だが、あのスライムは、俺がテイムを試みるために飛ばした魔力を食った。(フレイム)みたいな、象形を得ていない魔力をだぞ?あいつは恐らく、食えないものはない。そして、何が自分にとって害になるかを本能的に理解している」

「……は?冗談だろ?それじゃあアイツをどうにかする方法なんて――」

「無いだろうな」



 今のところは―と言葉を添えたものの、リンキスは懲りずにルシアを倒さず、どうすれば御せるのかを考えていた。



(せめてあの食う行為さえ抑え込めれれば、どうにかできそうな気はする。が、不意をつこうにも奴はスライム。言わば全身が口みたいなもん……いや、待てよ?)

「……試す価値はあるか。おい、今離脱区域にいる奴らの中で、遠距離で攻撃できる奴らをできる限り集めてくれ。試してみたいことがある」

「わ、わかった」



 彼はいそいそと、極力ルシアに気づかれないように、リンキスの指定した冒険者に声をかけていく。

 そして、そこそこの人数が集まってきたところで、リンキスは思い付いた策を話した。



「――て感じなんだが、頼めるか?」

「それはいいけど……本当にうまくいくの?」

「わからない。が、やる価値はあると思っている」

「……わかった。一先ず、あんたの策に乗ってあげる」



 他の冒険者たちも賛同の意を表し、移動を開始する。まぁ、賛同と言うには、いささか不安げではあったが。

 とにもかくにも、準備は整った。リンキスはじっと、その時を待つ。そして、ルシアの周囲から人気(ひとけ)が無くなった瞬間、リンキスが合図を出した。



「今だ!」



 合図と共に、四方八方から、ルシアに向かってスキルを放つ冒険者たち。当然、ルシアはその全てを食べようとして――



「うきゅっ!?」



 ルシアは、背後からの一撃をまともに食らってしまった。ルシアの体勢が大きく崩れ、沼地に正面から顔を突っ込ませる。

 その様子を見て、リンキスは自分の見立ては正しかったのだと確信した。



「あ、当たっ、た……?」

「……やっぱりそうだ!確かに、あいつの能力は厄介だが、本人の視野はそうでもない。全員でタイミングを合わせつつ、全方位から撃てば攻撃は通るぞ!」

「よ、よし!お前ら、やるぞ!」



 ルシアに初めて攻撃が通ったことで、活気が戻ってきた冒険者たち。

 ただ、リンキスは、いずれルシアが、この取って付けたような弱点を克服してくることは、容易に想像がついていた。

 それでも、そのいずれはすぐには訪れない。変異個体は惜しいが、今はただ、目の前の()として、倒すことに集中しよう。

 ――そう、考えていた。


 だからこそ、気づくのが遅れた。

 今なお攻撃を受けているルシアの頬がぷっくりと膨らみ、ムッとした表情を浮かべていることに。

 そしてなによりも、〝純粋〟を敵に回すことの恐ろしさを。


 それにリンキスが気がついた時にはもう、全てが手遅れになっていた。

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