381 私は過去には戻らない ①
最初、想定していた以上に時間が取れず、書くスピードがガタ落ちしていましたが、なんとか一人ぶん書き終えたので、今日含め三日間、20:00に投稿していきます。
「っ!コイツ、むちゃくちゃ強いぞ!?」
「おい後方部隊!なにして――グハッ!?」
「〝極四弾〟!」
対峙する冒険者たちを前に、ナヴィは一人、戦いを繰り広げていた。
相手は冒険者ということも相まって、即席ながらも連携がとれており、苦戦は必死かと思われていたが、以外にも、ナヴィの方が優勢だった。
不抜の旅人において、ナヴィは影の槍と各弾スキルが扱えるということで、中衛という立ち位置に落ち着いた。
中衛とは、最も戦局を見る目が問われる位置。その経験も相まってか、ナヴィは幅広い視野と、的確な攻撃によって、冒険者たちを圧倒していた。
とはいえ、ナヴィも油断できない。
いつもなら、ケインたちがいる。だが、今はナヴィ一人。他に頼れる者のいない、孤独の戦いを強いられていた。
(一人で戦うことが、こんなにも辛いだなんて、思ってなかった。……当たり前だったことが、当たり前じゃなくなるだけで、こんな気持ちになるなんて、ね……)
ナヴィは心の底で、変わってしまった自分に苦笑した。
けれどそれをおくびにも出さず、目の前の敵を倒し続けていた。
「さて、それなりに数も減ってきたようだけど……まだ、やるのかしら?」
「当然だ!こんなところでおめおめと帰るわけにはいかないからな!それに……」
「大丈夫か!俺たちも加勢するぞ!」
ナヴィは、心の中で悪態をついた。
当然のことだ。この場所に到達する者が、彼らだけとは限らない。
今このダンジョンに、どれだけの人数が入って来ているのか、知る方法はない。
ナヴィがどれだけ敵を倒そうが、それで終わりとは限らない。
誰もが有限な体力で戦う中、ナヴィだけは、常に連戦を強いられる。
ナヴィは、ケインやアリスのように、実物の武器を持って戦うわけではない。
イブのように、強大な魔力を持っているわけでもない。
それでも戦う姿勢を止めないのは―ナヴィにも、守りたい居場所があるからだ。
『うぉぉぉぉっ!!』
「はぁぁぁぁっ!!」
増員された冒険者たちを相手に、無謀にも思える戦いを挑み続けるナヴィ。
そんな中、たった一人―アブゾンだけは、最初から戦闘に加わろうとせず、ただ足踏みを繰り返していた。だが、いつまでもそうしていられる訳がなく。
突如、ナヴィが魔力を解放したかと思うと、次の瞬間、一瞬にして多くの冒険者が倒れていった。
「な、なにが起こって……」
「……貴方だけは、上手く逃れたみたいね」
動揺するアブゾンに対し、上がった息を整えながら、ナヴィは影の槍を構え、冷たい視線を向ける。
だが、その姿は疲れ果てている……というよりは、無理して力を使ったようにも見えた。
しかしそれでも、ナヴィは止まることなく。その重い足を、前に前にと進め、アブゾンとの距離を縮めていた。
「……お前たちは、一体なにがしたいんだ」
「なにが、とは?」
近づくナヴィに対し、アブゾンは問いかける。その問に、ナヴィはその足を止めた。
「俺は、ただ空気に流されて、勢いに飲まれてここに来ただけだ。だから、お前たちが何をしたのだとか、なにがしたいのかとか、全然わかんねぇ……なぁ、教えてくれよ!お前はどうして戦う!?どうしてこんなことをしている!?教えてくれよ、なぁ!?」
当然だが、アブゾンはなにも知らない。
戦う理由も。争う訳も。己の敵に、刃を向ける意味も。
あの日、アブゾンが見たのは、間違いなく、本当の彼らだった。
普通に笑い、普通に喜び、普通に楽しむ。時に辛いことがあろうとも、仲間たちによって立ち上がり、困難を乗り越える。
そんな彼らを見ていたからこそ、今のナヴィのことを、理解できなかった。
……否、本当はわかっている。
例え理解できたとしても、納得したとしても。自分たちは、戦うことしかできないと。
それでも問いかけたのは、ほんの僅かな可能性を信じたいという、己の傲慢によるものだった。
「……それは――ッ!?」
それを知ってか知らないでか、ナヴィがその口を開く。だが――その口を塞ごうとするかのように、火球がナヴィに向かって飛んできた。
ナヴィはそれにいち早く気がつくと、斜めに飛ぶような形で回避する。獲物を失った火球は、そのまま地面に衝突し、轟音と爆発を引き起こした。
「躱したか」
「――ッ!」
そのたった一言に、ナヴィの身体が逆立つ。
ナヴィにとって、それは世界で一番嫌いな存在だった。幼き頃から今に至るまで、ずっと、ずっと、ずっとずっとずっと。
その名前を耳にするたび、例え、目の前にいる同名の別人であろうと、嫌悪と怒りと、それすらを塗りつぶさんとする恐怖を覚えた。
ナヴィは振り返る。もう二度と会いたくない存在が、今この場に現れたことを知りながら。
「よくもまぁ、やってくれたものだ……どこまで……どこまで私に恥をかかせれば気が済むのだ貴様はぁっ!」
怒りにまみれた怒声が響く。
娘と父親。袂を分かったはずの二人が今、再び相見えた。




