37 それでも俺は
「…んっ…」
意識が飛んでから、どのくらいたったのだろう。
自分の事なのに、全然わかんない。
そもそも、なんで意識が飛んだんだっ…け…
私の頭に、あの光景―ケインがいたぶられ、ナヴィが苦しみ…そして、男の下衆な姿が映し出された。
嫌な記憶と共に覚醒した頭で、自分のまわりを見渡した。
辺り一面瓦礫だらけ。
一部では炎が上がり、もはや町と呼べる場所ではなかった。
それは、まさしくあの時の―自分の村を滅ぼした時の光景と、全く同じだった。
「あ、ぁあぁ…あああ…」
私の目から涙が流れだす。
また私は、自分で自分の居場所を消してしまったのだと。
ケインとナヴィを、自分の手で殺めてしまったのだと。
私はやはり災悪なんだ、と。
「ぁあぁ…ああああああああああ…」
どれだけ悔やんでも、どれだけ悲しんでも、失ったものは、もう戻ってこない。
私は、泣くことしか、できなかった。
「ケイン…ナヴィ…っ…」
「は ぁ い」
私の後ろから、返ってくるはずの無い返事が返ってきた。
それは、聞き間違えるはずの無い声だった。
私は、返事のした方へ振り向いた。そこには…
「ケイン…!ナヴィ…!」
ボロボロになりながらも、お互いに支えあいながらも、私の元へ向かってくる…
ケインとナヴィ、二人の姿があった。
*
「ケイン…!ナヴィ…!」
俺とナヴィの元に、泣きながらメリアが駆けてくる。
その姿は、変化する前の服装―いつも身に付けているマントは無いが―をした、いつものメリアだった。
メリアは俺達に近づくと、すぐに回復を行った。
ナヴィは5分程度で回復したが、俺はかなりの時間を必要とした。
回復している間、メリアは俺達に「なぜ生き残れたのか」を聞いてきた。
前にメリアが変化したときは、全ての人を殺めていたから、よけいに気になったのだろう。
簡潔に言ってしまえば、俺達は狙われなかった。
余波は防げなかったにしろ、近くに居ようと、視線が合おうと、一切襲ってくることは無かった。
それは、メリアが俺達を認識して、意図的に襲わなかったように思えた。
「…まぁ、確信は無いけど、な」
「そう、なんだ…」
俺の話を聞いたメリアが、少し体を震わせる。
無理もない。
今回はなぜか狙われることは無かったが、次に変化したとき、同じように狙わないとは限らない。
次は、俺達を殺めてしまうかもしれない。
そう、考えてしまっているのだろう。
俺は、横にしていた体を上げた。
「なぁ、メリア」
「な、に…?」
震えたまま、メリアはこちらを向く。
「最初に会ったとき、俺はお前の居場所になるって言った。その気持ちは、今でも変わらない」
「で、でも、一緒にいたせいで、ケインが…」
「そのあとの言葉、覚えてないか?」
「………あ」
―貴方を殺し、てしまう、かもしれ、ない!
それは、お前の側にいられない理由にならない!―
「俺は、メリアがとても危険な力を持っていることを、今改めて思い知った。それでも俺は…メリア。お前と一緒にいたいんだ」
「ケイン…」
「だからさ、そんな顔しないでくれ」
未だに泣いているメリアの顔から、恐怖のようなものが消えた気がした。
「ちょっと?私を忘れて、良い雰囲気出してんじゃないわよ?」
「そーゆーつもりじゃ無いんだが!?」
「ふーん…メリア」
「な、なに…?」
「私も、ケインと同じ。あなたと一緒にいたいから、今ここにいるの。だから…」
「…?」
「いつまでも、泣いてないでよ。ね?」
そういって、ナヴィが微笑んだ。
それを見たメリアは、顔をぬぐって…
変わらない、いつものようで…どこか晴れやかな笑顔を浮かべた。
*
「…もういい?」
「あぁ、バッチリだ」
あれから数分、俺の体はメリアの回復によって完全に回復した。
体の傷も、痛みも引いた。もう大丈夫だ。
「さて、これからどうするか…」
「私たちの荷物、どこにあるかわからないしね…」
俺とメリアの持っていた魔法鞄、あれは昨日捕まった際には、身につけていなかった。
あれは俺達が持つぶんには軽いが、俺達以外が持つと中の重さ全てがかかるから、どこにも動かすことはできないはずだが…
「この中から、見つけ出すのはけっこうしんど…」
「あ、あのー」
「…?ナヴィ、どうした?」
「いやぁ、二人の荷物ならここに…」
ドサッ、と音と共に、俺達の鞄が出てきた。
「えっ、これ…どうして?」
「私達が押さえられた時に、気づかれないようにこっそりと、ね」
どうやら、あの時ナヴィが収納スキルを使って確保していたらしい。
確かに、収納スキルなら重さは関係ない。
「ありがと…ナヴィ」
「どーいたしまして。それよりも、早く行きましょ?あまり長くここにいたくないわ」
「あぁ、そうだな…ん?」
俺は鞄を手に取り、顔を上げたところで…
少し遠くで光るものを見つけた。
俺は、近づいて正体を確認した。
それは、勇者の証だった。
上半分がかけてしまっていたが、確かにあの時見たものだった。
俺は、それを拾い上げ…ふと、彼女を思い出す。
(…すまないレイラ。こんなことになってしまって)
俺の思いは、彼女に届くことは無いだろう。
それでも、心の中で謝り続けた。
「ケインー?早くー」
「…あぁ、今行く」
俺は、証を魔法鞄にいれた。
そうしなければいけないと思ったから。
俺は二人の元へ向かい、そのままデュートライゼルを出た。
道中誰かに見つかることを危惧したが、そんなことは無く…
俺の地図から、デュートライゼルは見えなくなった。
これにて二章、デュートライゼル編は終了。
次回から新章に移ります。




