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372 メリアの元へ

「んんっ、ぁあ~、なんか、久々に外の空気を吸った気分だわ」

「あら、それはわたしの空間が密室だったと言いたいのですか?」

「そういう訳じゃ無いけれど……ほら、気持ちの持ちようとか色々と……ね?」

「ふふっ、いえ、気にしていませんから大丈夫ですよ。わたしも、久々の外ですから」



 コダマの件が終わった後、俺達はアテナの空間から戻ってきていた。

 アテナの空間にも、日の光や風、空気はあったのたが、いざ戻ってみると、帰ってきた、という感覚がした。



「それで……どうだ?」



 俺は、見慣れた姿で俺の肩に乗っているコダマに話しかける。

 人間の姿を取れるようになったコダマだが、普段使いする分には狐の姿の方が楽なようで、あれから暫くした後、狐の姿に戻っていた。

 そして、コダマはメリアの居場所を探す役を自ら志願してくれた。メリア本人は無理でも、今はディスクロムが表に出ている状態。そのため、ディスクロムの気配を感じ取れば、自ずとメリアの元にたどり着ける、というわけだ。



「……っ、あっちの方角から、彼の気配を感じるわ」

「あっち、っていうと……南西か」



 地図(マップ)を開き、方角を確認する。

 コダマが指した方角は、俺達がいる場所からして、南西の方角だった。



「距離は分かるか?」

「……いいえ。でも、近づけば気配も強まるから、それで分かるわ」

「そうか……なら行こう、メリアの元へ」

「……でも、どうするの?だって、あまり悠長にはしていられないんでしょ?イルミスに乗るとしても、全員乗せるのはさすがに厳しいだろうし……」



 方角が分かり、いざ向かおうとしていたのだが、レイラがそんな一言を投げ掛けてくる。

 そう、俺達は急がねばならない。コダマ曰く、ディスクロムの不完全な転生魔法は、身体が馴染むまでに相当の時間を有する。

 そしてディスクロムは、長い間、メリアの身体に潜伏していた。つまり、いまこの1分1秒ですら、メリアが無事に戻ってこられるかの瀬戸際に立たされているのだ。

 さらに、距離が不明確となれば、それはさらに加速する。レイラが危惧しているのは、それなのだ。



「大丈夫だ、レイラ。その件なら、すでに解決策を出してある」

「……え?」

「ティア、進捗は?」

「問題ありません。すでに完成しております」

「流石だな」

「お褒めにあつかり光栄です」

「……えっと……」

「あぁ、すまん。ティア」

「了解しました」



 なんのことだか分からず困惑するレイラ。事情を知るユアを除いたナヴィ達も、頭を傾けていた。

 そんなナヴィ達のために、ティアにその答えを出してもらった。



『……なっ!?』



 ナヴィ達が、一斉に驚きの声を上げる。

 それもそうだろう。なにせこの陸上に、ドラゴン状態のイルミスをも超える、巨大な機械の()が現れたのだから。



「俺達は、どう足掻いても人間だ。俺達だけじゃ、一日に進める距離には限度がある。だから、その問題を解決するために、これの制作をティアに依頼したんだ」

「飛空艇≪リアーズ≫。それが、この船の名です」



 飛空艇リアーズ。それが、俺がティアに依頼したものだ。この船があれば、地上ではなく空を利用し、進むことが出来る。

 それに、この船を作ってもらったのには、もう一つ理由がある。

 当然ながら、俺達は普通の冒険者パーティーと比べて、圧倒的に人数が多い。それゆえ、どこに行っても団体であるため目立ちすぎる。

 これまでは問題と感じなかったことだが、今はそうは言ってられない。だからこそ、この船が必要なのだ。

 ……まぁ、平穏を装ってはいるが、こんな巨大な船になるとは思ってもいなかった。だってこれ、下手したら一国の城……それこそ、デュートライゼルやエルトリート王国みたいな、大国の城(敷地込み)とかよりも大きいんだぞ?


 そんな中、ティアが一人、何かを操作すると、甲板の一部が開き、そこから地上に向かって階段が作られていった。



「それでは皆様、お乗りくださいませ」



 そう言うと、ティアが先行して階段を登り始める。俺達も、その後に続いた。

 そうして登った先にあったのは、外見からは想像のつかない光景だった。



「うわぁぁぁ……すごい……すごいよケインさま!」

「あ、あぁ、そうだな……」



 そこに広がっていたのは、あのデッドラインへ向かう時に乗った客船を思わせるような、本格的な甲板。いや、下手すればあの時以上のものかもしれない。

 そんな甲板の中央から船尾側に寄った場所に、コテージのようなものがある。恐らくあそこが、中へと入るための入り口なのだろう。



「それでは、中をご案内致します」



 そうして、ティアによってリアーズの内部を案内、説明された俺達だったのだが……

 とりあえず、一言言わせてくれ。


 ティア、お前どんだけ張り切ったんだ?


 各フロアや個室(全員が入ってもなお余る)に繋がる通路は狭すぎず広すぎない、ちょうどいい大きさと距離。

 さらに階層を跨げば、これまた全員が入っても余裕のある食堂やミーティングルーム、さらには訓練場まである。

 それだけじゃない。ウィルとビシャヌがストレス無く過ごしやすいようにとプールがあると思ったら、ナーゼ用と思われる薬剤室、衣装室、書庫、食料庫と、ほぼ何でも揃っていた。というか、本とか何処から集めてきたのそれ?


 とまぁ、ここまでは大きな問題じゃない。大きいのは次の三つだ。

 まず大浴場。まぁ、風呂があるのはいい。だが何故に大浴場にしたんだ?しかもご丁寧に男女別に。いやまぁその気遣いは大変ありがたいんだけど、一人であの広さは中々に寂しいぞ?

 次に船内菜園。確かに入り口からさらに船尾に寄った所に、一部変な見え方をしていた場所があったが、まさかその下に菜園があるなんて思わないだろ。下から見たらガラス貼りだし、万が一その上を人が通ったらどうす……え?人を認知して、日光だけを通すようにしてる?なにその無駄に革命的な機能。

 そして、最後にして最大の謎、スイートルーム。

 ……いや、これに関しては本当になんで?個室あるじゃん。必要なくない?というか、雰囲気が完全に娼館とかのそれなんだが……と言ったら、



「いえ、マスターと皆様方が励むにはちょうどいいかと思いましたので」

「おい」

「当然、全室防音ですので、お気になさらなくて大丈夫です。有事にはお声掛けするかもしれませんが」

「おい」



 なんて言ってきた。

 ……うん、なんとなく分かってる。分かってるさ。だから……



「正直に言え?ティアに何を吹き込んだ?」

「待て待て待て待て!ケインよ!誤解!誤解なのだ!」

「へぇぇ……何が誤解なんだ?」

「ティアに聞かれたのだ!これまでに泊まった部屋の特長を!我だけではない!皆も聞かれていたぞ!?」

「そうかそうか。それは悪かったな。で?お前はどの部屋のことを話したんだ?」

「それは勿論、スイートナイトメアの部屋を……はっ!?」



 はいギルティ。

 諸悪の根元(リザイア)の絶叫が、スイートルームに響き渡った。この船、そういう目的で作ってもらったんじゃないからな?

 まぁ、出来てしまったものはしょうがないし、これで一件落ちゃ……



『……』

「……お前ら?」



 リザイアの亡骸(気絶しているだけ)を目の前にして、サッと目を反らした三人。

 ……そっかー、お前らもかー。

 ……とりあえず、犯人達には全員仲良くお仕置きしておいた。



 *



「うぅ……酷いですわ……」



 ミーティングルームで頭を押さえながら、机に突っ伏すウィル。その横で、同じようにナヴィとアリスも突っ伏していた。

 ティアに聞かれたとはいえ、誰があの娼館の部屋を再現しろと言った。しかも、俺達が()()()部屋を。見ろよイルミスを。全部察して顔真っ赤にしてんだぞ?目があったらそれとなく逸らされてるんだぞ?

 ……あぁ、リザイア?部屋の隅っこにあるソファーで寝込んでるよ。



「……と、ところで、これだけ広く大きい船を、どうやって動かすんですか?」

「……確かにそうだな。ティア、その辺りはどんな感じなんだ?」



 気まずい空気を変えるためか、ビシャヌが疑問を投げ掛ける。その疑問に関しては、俺も知っておきたいところだ。

 俺は「全員が乗ってもある程度余裕がある、空を移動できる船が欲しい」という、結構無茶な注文をしたが、そこに関する一切はティアにおまかせしていた。

 だから、この船がどうやって動くのか知らないのだ。



「回答。このリアーズは、当機が核となることで起動、及び運航致します。また、当機が外部にいたとしても、空中停止(ホバリング)程度であれば、遠隔で操作が可能となります」

「ってことは、操舵手は当然……」

「はい。当機になります」



 ……まぁ、当然と言えば当然だが、操舵手はティアになるようだ。誰も、船の操縦なんて出来ないしな。



「核、ってのは、どういうことなんだい?まさかとは思うけど、生体部品になるとかそういう訳じゃ……」

「肯定。リアーズに設置した、当機とリアーズを繋げる装置に当機が入ることで、リアーズを操縦致します」

「……あぁ、うん。そうだね。君、機巧人形(マギアドール)だもんね……」



 さも当然のように答えるティアを前に、ナーゼは呆れ返ったような声を漏らす。

 ……まぁ、出生が機械と自然だもんな。考え方が違うのは当然と言えば当然だが。



「ところで、その装置ってのはどこにあるんだ?」

「残念ですが、マスターであってもその場所はお教えすることは出来ません。このリアーズの制御に関することですので」

「あぁいや、こっちこそ悪かったな。配慮が足らなかった」

「いえ、気になるのは当然の事かと思われます。それでは皆様、一度、甲板へとお戻りくださいませ」



 そう言うと、フォン、という音と共に、ティアの身体が青色の柱のような光に包まれたかと思うと、次の瞬間、ティアの姿が一瞬にして消え去った。

 驚きのあまり声も出せなくなった俺達だったが、一先ずティアの言うとおり、甲板へ戻ることにした。


 リアーズ内部の構造は、色々な部屋があるにしても、通路に関してはシンプルなものになっている。また、今いる階層を視認しやすくするためか、廊下の色が階層によって異なっている。

 そして、主に階段付近に、リアーズのある程度の階層図が張られていた。

 ……いやもう、どんだけ張り切ったんだ……


 さて、ティアの言うとおり、甲板に来てみたわけだが……特別、変わったような感じはしない。変わらず、地面に停泊したままだ。

 では、ティアはどうして甲板に行けなどと言ってきたのか……そのことを考えるよりも先に、その声が聞こえてきた。



『甲板にお上がりになられたようですね。それでは皆様、急な揺れが発生する恐れがございますので、姿勢を低くするか、手すりにお捕まりになってください』

「……へ?ティア?一体何処から――っ!?」



 突然、ティアの声が聞こえてきたかと思った次の瞬間、強い揺れが俺達を襲った。

 俺は思わず体勢を低くし、ナヴィ達も、同じく体勢を低くするなり近くにあった手すりに捕まるなりして、なんとか揺れに耐えていた。



『それでは皆様、外をご覧くださいませ』

「外……?この状態で……っ!」



 再び聞こえてくるティアの声。その声に導かれるように外を見ると……視界から、木々が下がっていく。

 いや違う。これは――



「リアーズが、浮いている……!」



 すでに揺れも収まっていた甲板を、駆け足で端まで移動する。そこには、高度が上がり、離れていく森。その全体像が広がっていた。



「……すごい」



 気づけば、俺の後をついてきたであろうナヴィ達が、同じくこの光景を見ていた。

 それから、しばらくその光景を眺めていると、ゆったりとその上昇が止まり、背後に聞き覚えのある音と共に、同じく見覚えのある青い光が現れる。そして、それが霧散すると同時に、ティアが姿を現した。



「マスター、皆様。お気に召されましたでしょうか?」

「……あぁ、最高だ。最初の揺れはまぁ、不意をつかれたけどな」

「本来であれば、地上に降りること無く搭乗するための仕掛けもあるのですが、今回は、お披露目もかねて地上に出しましたので……今後、着陸に関しても整備しようと思います」

「そうか……にしても、装置?から離れても良かったのか?一応、浮いてるだけなら大丈夫とは聞いたが……」

「問題ありません。当然ではありますが、当機がリアーズを操縦している間、当機は動くことは出来ません。ですので、船内のどこにでも当機の声が届くようにさせて頂いております。逆も然りでございますので、有事の際は、何処からでもお声掛けくださいませ。

 また、今皆様が見ている当機も、立体映像(ホログラム)となっております。実体はございませんが、個室を除いた船内全ての場所に出現させることが可能となっております」

「そ、それはすごいな……」



 ……なんというか、よく分からないが、ティアがすごすぎる。そうとしか言えない。

 唯一なにか分かっていそうなのは、元異界の住人だったコダマなのだが……コダマはコダマで、なにやらずっとブツブツと言っていた。



「……船内全域に声を届けられる……?しかも、立体映像(ホログラム)まで作り出せるなんて……」

「ちなみにですがコダマ様。リアーズには光学迷彩や静音装置、ステルス機能等も搭載しております」

「……!?っ?――!?」



 あっ、なんか脳の処理が追い付かなくなったのか、俺の肩でコダマが倒れた。

 ま、まぁ、コダマですらそうなるほどスゴいということで……



「……とにかく、目指すは南西。そこに、メリアがいる」

「かしこまりました。それではリアーズ、出航致します」



 その声と共に、再びリアーズが南西に向かって動き出す。

 待っていてくれ、メリア。今、迎えに行くからな。

大雑把なイメージとしては、グ○ブルの船みたいな感じが強いんですが……あれって正式名称なんなんでしょうかね?

騎空艇?飛空艇?飛行船?

まぁとりあえず、そんな感じの船です。


ファンタジー世界に、機械の船とはこれ如何に……

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