370 狐の正体
今話より、視点がケインに戻ります
「さようなら、健也」
何処かへと消えていく勇者を見届けながら、そう呟く少女。
そして俺は、戦闘が終わったことを理解すると同時に、最後の技の連発、その反動が帰ってきた。
「ぅは――っ、ぁ、か――っ!?」
「まったく、無茶するでない!アテナ!」
「言われずともわかっています」
まともに立つことも、息を吸うことも難しくなった俺のもとに、パンドラとアテナがすぐさま駆けつける。
そして、二人が同時に俺に触れた瞬間、息苦しさが和らぎ、身体はまともに動かせないが、痛みが少しだけ和らいだ。
「っ、はぁっ、はぁっ……二人とも、ありがとう」
「礼などいらぬ。儂らは当然のことをしているまでだ」
「そうですよ。契約したのに死なせた、なんてのは、貴方にも彼女たちにも悪いことですから」
「……そうか」
笑顔で返してくる二人に礼を言いながら、そのまま地面に横たわる。まぁ、ただ立つことすらままならないだけなのだが。
そうこうしているうちに、ナヴィ達が俺の元まで駆け寄ってくる。その中に、彼女もいた。
「……ケイン。その……大丈夫、かしら?」
「あぁ、大丈夫……とは、言えないな。指一本動かすのも難しい」
「そう……」
どこか申し訳なさそうな声色で話しかけてくる少女。そんな少女に、寝転がった体勢で申し訳ないと思いつつも、改めて問いただすことにした。
「それで、もう一度聞くんだが……お前は、コダマ、なんだよな?」
「それについても、今から話すわ。でも、その前に……ぅぐっ!?」
「お、おい、大丈夫か?」
「心配しなくても大丈夫よ。……やっぱり、成長しきってないのに、高校生の頃の姿を保つのは無理か……」
突然胸元を押さえ、一瞬苦しそうな表情を見せる少女。
だが、少女はなにかを小さく呟いた後、炎に包まれると、今度はその姿を、成人したての頃から、イブと同じくらいの年齢に変化させた。それと、装いなどは、見た目に合わせた大きさになっているところ以外はそのままだったが、尻尾が一本に纏まっていた。
「……うん。この姿なら、大丈夫そうね」
「落ち着いたか?」
「えぇ、心配かけたわね。といっても、貴方ほどじゃないでしょうけれど」
「……まぁ、そうだな」
素直に心配したら、心配し返されたため、少しだけ照れくさくなる。
……というか、いつの間にか俺は、アリスに膝枕をされていた。いやまぁ、直に寝そべっているよりかははるかに楽なんだが……いやホント、いつの間に?
「とりあえず、さっきの質問にちゃんと答えるわね。わたしは、貴方たちがよく知るコダマで間違いないわ。けれど、それは完全な答えになっていない。そのことには、もう気がついているでしょう?」
少女の―コダマの問いに、僅かに首を動かして肯定する。
先ほどまでの勇者との戦闘、その時コダマは〝ライカ〟という、別の名前で呼ばれていた。
つまりそこに、コダマが答えを濁した理由があるということだ。だがその答えは、俺達の想像を遥かに凌駕するものであった。
「〝橘来夏〟。かつてこの世界に召喚され、あいつ……今はディスクロムと名乗る魂を封印した、異界の聖女よ」




