368 最後の五分間 ②
「――ッ、余裕こいてんじゃねぇッ!!」
「〝氷炎〟」
ケインが発現させた白い炎に、ほんの一瞬だけ静止した健也だったが、すぐに持ち直し、火球を放つ。
それに合わせるように、ケインもその炎を火球に向かって放つ。そして、火球と炎がぶつかった瞬間、火球もろとも炎が凍った。
「んな……っ!?」
「〝瘴嵐〟」
炎が凍る。そんな矛盾した光景に、健也は思わず動きを止め、言葉を失う。だが、その一瞬すら、戦いの場においては致命的になる。
健也が動きを止める中、ケインは変化した左手に、強風を纏わせる。次の瞬間、色など持たない風が毒々しい紫へと色を変える。そして、そのまま左腕を、健也のいる方角めがけて振るった。
「ぐ……っ、ぉがっ!?」
一瞬の隙を付かれ、気がついた時には紫の風が目の前に迫っていた健也。危険を感じ、咄嗟に防御をするも、相手は色が変わっていようが、根本的にはただの風。
腕で顔を守るだけで守れるはずもなく、その風を健也は吸ってしまう。
その瞬間、健也は強烈な吐き気に悪寒、目眩に腹痛と、さまざまな症状に襲われた。それこそ、身体の外ではなく、中から攻撃されているような……
「聖、剣……っ!俺を、癒せ……っ!」
それに気がついた健也は、即座に聖剣に魔力を込める。健也が持つ聖剣には、毒や邪気といったものを祓う力がある。
魔力を受けた聖剣は輝きを放ち、健也が吸い込んでしまった毒を、ほぼ一瞬のうちに浄化してしまった。
だが、毒が抜けたところで、すぐに元に戻れるわけではない。健也が持ち直した時には、すでにケインの攻撃が迫ってきていた。
「〝雷閻〟」
「ぁばがっ!?」
なんとか持ち直した健也を、雷を纏った炎が襲う。それは、健也が防御するよりも早くに着弾し、放電を伴った大爆発を引き起こした。
それにより、健也は大きく身体を揺さぶられ、なんとか立て直そうとする身体が、勝手に足を後ろに下げ、結果、再びそれを踏み抜いた。
「ぅぐぁ……がっ、ぉあっ!?」
それはまたしても地面を槍に変え、健也を襲う。そして、突き飛ばされた先でまたしても踏み抜き、それが連鎖し何度も襲いかかる。
とはいえ、健也もタダではやられない。
それが発動し、再び槍に突き飛ばされるよりも先に、聖剣を地面に突き立てる。そして、聖剣を軸として扱うことで、なんとか連鎖から抜け出すことに成功した。
だが、当然の如く、ケインは攻撃の手を止めようとしない。
「かはっ……はっ、く……っ!」
「〝牙炎〟!」
「ぐ、ぅあぁぁっ!?」
龍の右腕に炎を溜め込み、そのまま掌を地面に叩きつける。
健也たちとの戦闘、その最初に見せた技を、再び使ってくるケイン。波紋のように広がり、龍の顋の如く迫る炎に、健也は抵抗する暇もなく飲み込まれる。
健也の皮膚を、つんざくような痛みが走る。だが、偶然の産物と言うべきか、聖剣を地面に突き立てていたおかげで、完全な直撃とはならず、威力も減衰させることに成功していた。
とはいえ、あくまでも減衰させただけ。牙炎による攻撃は、確実に健也に多大なダメージを負わせていた。
(押されている?この俺が?勇者であり、主人公であるこの俺が?ありえない。ありえないありえないあってはならない!……そうだ。どれだけ窮地に立たされようと、いつだって最後は勝つ!それこそが、主人公なのだから!)
「ぅぐぉぉぁぁぁぁッッ!!」
「――っ!」
「〝制限解除〟!」
牙炎の炎に飲み込まれていた健也が、突如として咆哮を上げ、聖剣を地面から抜き出し、そのまま振るう。その一振で、周囲の炎を全て掻き消してしまった。
その瞬間、ケインは直感的に、身の危険を感じ取った。そして、それが間違いでないことを示すかのように、健也が踏み込み、たったその一歩で、ケインの元へと跳躍してきた。
「〝我が正義〟!!」
健也の魔力を受け、輝きを放つ聖剣。
その聖剣が勢いよく振り下ろされ――そのままケインの身体を、真っ二つに引き裂いた。




