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361 歩む道 ③

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。

(なんだ!?一体どうなってやがる!?)



 再び、激しい斬り合いを繰り広げるケインと健也。だが、健也の心情は激しい困惑、そして、揺らぎを見せていた。

 ほんの数分前まで、健也が優勢どころか圧倒していた。相手がケインでなければ、すでに何十、何百回と死んでいただろう。

 だが今、そのケインは、奇しくも健也と同じように、異常な速度で渡り合い始めていた。

 さらに、これまで聖剣に折られるばかりだった天華と創烈も、刃こぼれやひびこそ入れどすぐに直り、その度に力を増していた。

 それこそ、聖剣を凌駕しかねないほどに。


 かつて、天華と創烈を作ったガテツは言った。武器を大切に扱っていれば、その武器には魂のようなものが宿ると。ただしそれは、あくまでも似たようなものであり、実際に宿るわけでは無いとも。

 だがもし、その魂らしきものと、本物の魂が共鳴したとしたら?その問いに、明確で確実な答えはない。

 だが、今この瞬間だけは、こう言わざるを得ないだろう。

 奇跡が起きる、と。


 〝破壊成長〟それが、天華と創烈に起きた奇跡の名前。

 ヒビでも刃こぼれでもなんでもいい。「壊れる」という事象をトリガーとして発動し、即座に修復。そして、その大きさに比例して成長するという、唯一無二のスキルである。

 本来であれば、それ自体が変質したものであり、成長せず、変化も起きない特殊スキル、自動修復。だが、ケインの強く二刀を思う心、二刀の中で目覚めかけていた魂らしきもの、そして、〝勝ちたい〟という強い願望。

 それらが、ケインの持つ特性―適応力と共鳴し、自動修復をケイン、そして二刀が望む形へと変化させたのだ。


 ……まぁ、お互いに強くなるには、自身が壊れる痛みを味わい続けなければならないという、皮肉にも取れるのだが。



「クソ……っ!だが、これならどうだっ!?」

「――っ!」



 そんなことは露知らず。徐々に優位を奪われつつある健也の周囲に、火球が現れる。ケインはそれを見るや否や、即座に背後に飛んだ。

 そして次の瞬間、直前にケインがいたところに、その火球が飛んでいき、小さめの爆発を起こした。



「チッ、避けたか……だが避けたってことは、そういうことだよなぁ!?」



 そう言うと健也は、さらに火球を出現させ、それら全てをケインに向かって放つ。

 だが、ケインはその火球をものともせず、ことごとく躱していく。



「だから……当たれっつってんだろ!!」



 火球を飛ばしながら、今度は波斬(スラッシュ)のような攻撃をしてくる健也。

 それに対しケインも、波斬(スラッシュ)で応戦していく。



(なんでだ……!なんでこうも押されている!?俺は勇者、この物語の主人公なんだぞ!?それが、なんでこんな物語の中ボス……いや、かませ野郎に苦戦しなきゃならないんだ!?)



 健也は、完全に焦っていた。

 何も思い通りにいかないばかりか、徐々に追い詰められている現状。その現実を受け止められずにいた。


 対するケインは、余裕そうに見えてその実、必死になって平然を装っていた。

 表面上は何事もないように見えるが、その実、ケインの身体は常に破壊と再生を繰り返している。そして、大怪我を負えば負うほどに、その頻度と大きさは増していく。

 だが、常人なら、とっくに壊れていてもおかしくない状態でありながら、ケインは未だ倒れようとしない。それどころか、前に進み続けようとしていた。


 全ては「勝ちたい」という強い思いのため。

 そして、その先にある「望んだ未来」のため。


 そんな覚悟からか、ケインは火球を躱すのをやめ、強く地面を踏み込み、被弾上等で健也の元へと向かっていく。

 当然、健也はケインを近づかせまいと火球を放つが、ケインは一切の回避しようともせず、一心不乱に駆け抜けていく。



「クソが……ッ!」



 だが健也も、それまで放っていた火球よりも数倍はある火球を作り出し、それをケインに向けて放った。

 その火球を見たケインは、二刀に魔力を込め、構わずその火球の中へと飛び込んでいった。



「はっ、なんだ血迷っ――」

「はあぁぁぁあぁぁぁぁッッ!!!」

「――なっ!?」



 火球に迷わず飛び込んだケインを見て、正気を失いすぎたのかと一瞬気を緩めた健也だったが、火球を切り裂き、そのまま二刀を振り下ろしてくるケインの姿が見えた瞬間、反射的に聖剣に魔力を込め、振り上げた。

 天華と創烈、聖剣が激しい衝突を起こし、周囲のことごとくを、その余波で吹き飛ばす。

 そこに、先ほどまでの一方的な差は無い。ケインは、健也以上の短時間で、健也すら追い抜かんとする速度で成長し、すでに互角に至っていた。



(なんだ!?本当に、なんなんだコイツは!?さっきまでボロボロだったくせに!死にかけてたくせに!何も出来なかったくせに!なんでコイツは倒れねぇ!?なんで俺の前から消え去らねぇ!?)



 健也にとって、この戦いは、ただの通過点(イベント)としか考えていなかった。

 初めての敗北を味わった相手。自分が出会うハズだったヒロインたちと先に出会い、あまつさえ仲間へと引き込んでいた怨敵。

 その相手との再戦で勝利し、改めて、ヒロインたちとの出会いをやり直す。

 それが、健也の頭の中にあった決定事項(シナリオ)


 だが、今目の前にいるその怨敵は、一度や二度ではなく、何十回と死の淵に立ったにも関わらず立ち上がり、今や自分と同じ場所に立っている。

 己の台本(シナリオ)に背き、踏み荒らしていくケインは、健也の物語にはあってはならない存在でしかなかった。

 だからこそ、ここで排除し、元の筋書き(シナリオ)に戻ろうとしていたのだが――もはや、そんな余裕など無かった。



「ぅらぁぁああぁぁぁあぁぁあぁぁッッ!!」



 健也がそんな思考を続けている間にも、ケインは攻撃の手を止めようとはしない。

 未だ輝きを放ち、火力を増していく聖剣も、至近距離から放たれる火球も、それら全てを無視し、自らが傷つくことなど厭わず、ただひたすらに攻撃を続ける。

 その圧倒的な気迫を前に、健也は無意識のうちに気圧され、後退し始めていた。



(クソが……クソがクソがクソがッ!?なんで俺がビビらなきゃならない!?どうして俺が圧倒されなきゃならない!?俺は勇者だぞ!?主人公なんだぞ!?なんで……なんでなんでなんでッ!)



 もはやそれしか考えられないのか、再び似たような思考に陥る健也。

 だが、どれだけ思考しようが、今この状況を打破できるハズもなく、ただケインの攻めに押され続けるだけであった。



(クソ……ッ!こうなったら、最後の奥の手を使うしか――)



 健也が〝切り札〟を使うか思案しようとしたその時、健也の目にそれが映る。

 その瞬間、健也は全てを察し、見えてすらいない、決まってすらいない勝利を確信した。



(――嗚呼、そうか……これは、そういう展開(イベント)に繋がるのか!)



 例えそれが、どこまでいっても自己中心的な展開でしかなかったとしても。

 それが健也にとっては、当然であり、必然であり、決定事項でしか無いのだから。

〝破壊成長〟

折れる、刃こぼれ、ひび。

なんでもいいので「壊れる」という事象が起きる度に修復され、その度成長していくという変異スキル。成長度合いは修復量に比例。

ただし、自らの意思で折ったりしても、修復はされるが成長はしない。あくまでも、相手との衝突が必要。

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