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353 血濡れた刃に明日などない ①

 ……あの夜のことは、今でも鮮明に覚えている。その日、私は主人であるゴルド様の部屋に居た。

 ゴルド様は金使いこそ荒いものの、闇取引や賄賂など、悪どいことはしないお方だった。

 悪どい貴族も少なくない中、そんなゴルド様に仕えられたことは、私の何よりの誇りだった。


 そんな誇りの存在だった彼を、たった数分で失うことになるとは、思ってもいなかった。



「ゴルド様。会議中、申し訳ありません」

「入れ」

「失礼致します」



 部屋の扉を叩く音と共に、屋敷で働く従者の声が、扉の外から聞こえてくる。

 ちょうど、議題を切り替えようかというタイミングで来たため、ゴルド様は部屋に従者に入るよう伝えた。

 従者は扉を開け、丁寧にお辞儀をしてから部屋に入ってくる。そして、私の隣へと並び立った。



「どうした?なにかあったのか」

「はい。先ほど、フイル様の従者を名乗る者が来まして、こちらをゴルド様に渡して欲しいと申しつかされました」

「フイル殿からか?はて、この時期はなにも無かったはずだが?」



 ゴルド様は、従者が差し出した文を受け取り、その封を切る。そして、その内容を読み始めようと、視線を手紙に移した瞬間、隣に居た従者の姿が揺らめき、同時に、黒い装いに身を包んだ影が、ゴルド様の背後に現れた。



「なっ――」



 私がそれに気がつき、腰に付けていた剣に手を触れさせるよりも早く、従者――いや、侵入者が手にしたナイフが、ゴルド様の首を跳ねる。

 そして、侵入者の刃は当然の如く、私にも向けられた。



「貴様ァッ!!」



 ようやく掴んだ剣を抜き、そのまま侵入者に向かって振り上げる。

 だが、侵入者は迫り来る剣に一切臆せず、そのまま刃を向けてきた。



「ぐぅっ!?」

「……!」



 剣を振り上げていたことが幸いしたのか、侵入者の刃は私の顔ではなく、腕に突き刺さる。

 対する侵入者も、剣をスレスレで避けたものの、大分無理した体勢から回避行動を起こしたのだろう。

 顔を隠すようにして被っていたフードは僅かに切られ、その隙間から金髪と緑色の瞳、そして、エルフの特徴である長細い耳が僅かに覗かせていた。

 だが、侵入者はそのことに感付くと、即座にその場から下がり、背後にあった部屋の窓を破って外に逃げようとした。



「待てっ!」



 私がそう言うが、当然の如く待ってくれはしない。そのまま侵入者は、部屋から外に脱出していってしまった。

 そして、私が侵入者が現れたと叫び、呼び掛けた時には、すでに侵入者は暗闇の中へと消えていってしまっていた。


 後で確認したが、手紙にはなにも書かれていなかった。しかし、フイル様はそのような手紙を出した覚えも、届けるよう伝えた覚えも無いと言う。

 ただ、押されていた印は間違いなくフイル家のものであり、その印も、勝手に使えるようにはなっていなかったという。

 謎が謎を呼んだものの、裏取り引きの証拠や証言も無く、フイル様は今回の件に関しては勝手に名前を使われた被害者である、という結論のみが残った。


 それから暫くして、跡継ぎの無いゴルド家は取り壊しとなった。私もそれに合わせ、幾人かの部下を携え、領地を後にした。

 その後、私は雇われ傭兵として各地を転々とした。日銭を稼ぐ目的もあったが、一番は、ゴルド様を殺したエルフ、そして、それを差し向けた犯人を探すことだった。

 そうして情報を集めること一年と少し、私はついに、その名前を知った。


 黒風。それが、あのエルフが持つ名。


 だが、そこから先は、何一つ真新しい情報を得られなかった。黒風の行方も、黒風を送り込んだ犯人の名も。

 それでも私は、名前のみを頼りに、傭兵として働く傍ら、黒風を探し回った。

 しかし、何の成果も得られぬまま、さらに三年が過ぎ、そして――



 *



「……あ?ユア、テメェの知り合いか?」

「いえ、私の知り合いは皆様とガテツ様だけです。彼は、かつての私の被害者でしょう」



 ロックスから向けられる感情を他所に、ユアは淡々と答える。

 実際、ユアはこれまで幾つもの依頼を受け、何人も暗殺してきた。自衛のためとはいえ、最後には依頼主をも殺した。

 何時何処で、誰に恨まれていてもおかしくない。暗殺者とは、そういうものなのだ。



「ガラル様、彼の相手は私がやります。あちらも、私が目的のようですので」

「それぁ別に構わねぇが、大丈夫か?言っちゃあ何だが、お前の攻撃であの防御を突破出来るとは思わねぇぞ?」

「問題ありません。彼を()()()()()だけなら簡単ですので。周りの方は頼みます」

「任せておけ!ベイシア!ソルシネア!ライアー!ルシア!テメェらも来い!」

「はいはーイ!」

「はぁ……妾は向こうの女子(おなご)を愛でたいのじゃがの……」

「まぁまぁ、ウチらだってカワイイんだし?元気出していこー?ね?」

「いこー!」



 ガラルの召集に答えるように、ベイシアたちが即座に動き、並び立つ。

 ウィンたちも、改めて自身の武器を握り締め、戦う姿勢を見せる。



「行きます」



 そう言うと、ユアは駆け出し、一瞬のうちにロックスの元へと辿り着く。そして再び、その刃をロックスに向けた。

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