35 愚か者
なんで今日の空は、雲一つ無いような晴天なんだ。
私は、苦虫を噛むような顔で、窓越しに空を見る。
空は青く蒼く広がり、とても良い天候だ。
普通なら、今日は快晴だと喜んでいるだろう。
…だが、私…私達には喜ぶことはできない。
聞かされたからだ。今日、私達の洗脳を解くと同時にケインの処刑を執り行う、と。
しかも、民衆の前で。
あの男、どこまで腐っているのだ。
何も知らぬ民衆の前で、ケインを徹底的に悪にしたてあげる。
あの男の権力をもってすれば、民衆は信じざるを得なくなるかもしれない。
そうなれば、ケインは…
くそっ、何もできないのが腹立たしい!
私は隣をちらりと見る。
そこには、少し死にかけのような目をしたメリアがいた。
ケインの処刑を聞いたとき…というより、昨日からずっとこの調子だ。
処刑の件を聞いてからは、より死んだ目をしている。
無理もない。メリアの唯一の居場所を犯罪者…しかも、ありもしない罪で殺すと言われたのだから…
「フヒッ、お目覚めかなぁ?」
「………」
心の中で舌打ちをする。
見て分かる。こいつはやけに機嫌がいい。
単純な話だ。ケインを処刑して、私達を手に入れられると思ってるのだから。
「さぁ!ボクたちの愛を憚る、あのクソ野郎を殺して、ボクたちの愛を知らしめようじゃあないか!フヒヒッ!」
もう、こんなクズの顔なんて見たくない。
こんなクズに、私の…私達の人生を乱されたくない。
だが、抵抗することもできず、私達は処刑台の対面に連れていかれた。
処刑台にはすでに、ボロボロになったケインがいた。
***
俺の対面にメリアとナヴィ、そしてあのクソ野郎が現れた。
ヤツは、意気揚揚と民衆に向かって話しだす。
「皆のもの、よく来てくれた!ここにいる二人は、悪しき男によって洗脳され、あろうことか勇者の末裔たるボクを侮辱したのだ!」
民衆が分かりやすくざわつきだす。
一つは、メリア達に対して。
もう一つは、クソ野郎に対して。
「だが安心したまえ!すでに男は捕らえている!見よ!あの無様な姿を!フヒヒッ!」
勝ち誇ったような笑いが気持ち悪い。
少し視線を下にむければ、人々の蔑んだ目。
もう、コイツらの中では俺は完全な悪役らしい。
「さぁて、これからそこの男は処刑するんだけどぉ、ただ殺しても彼女達に何かあると大変だしぃ…」
ヤツのそばから、黒い顔まで隠れるようなフードを被ったいくつもの人影がメリア達を囲む。
「彼らに、彼女達の洗脳を解いてもらいながらゆっくりと処刑することにした!こうすれば、彼女達の負担も減るだろうねぇ!」
ヤツのにやけ顔を見てすぐに分かった。
今でてきた奴等、アイツらは洗脳を解くんじゃない。
逆に洗脳をかけるつもりだ。
それともう一つ、俺の隣にいる兵士の持つ武器。
どう考えてもなまくら―ほんの少しだけしか傷をつけられない、刃がない剣だ。
すぐに殺すというよりは、一方的にいたぶるための剣に見えた。
(俺にはメリア達が洗脳されて俺を蔑む姿を、メリア達には俺がいたぶられる姿を見せて楽しむつもりか…!)
俺が一方的にいたぶられれば、メリア達の心が不安定になり、洗脳を受けやすくなってしまう。
そして、洗脳された二人を見た俺が絶望した時、確実に殺す。
―クソ野郎にも程がある。
「さぁ!処刑の始まりだ!」
ヤツの宣言と共に、処刑という名のいたぶりが始まった。
*
ユッドディは勝ち誇っていた。
自分の側には、洗脳を解くと称して逆に洗脳をかけている、メリアとナヴィ。
目の前には、悪にしたてあげ、今まさに生き地獄のごとき処刑を受けているケイン。
ユッドディは、またとない優越感に浸っていた。
―昨日の夜
「フヒヒッ!ここまで完璧に事が動くなんて、流石はボクだ!」
「ユッドディ様。例の者達を招集致しました」
「ご苦労、下がって良いぞ」
「はっ」
ユッドディは、メリア達の洗脳を解く為に外から解術者達を招き入れた。
メリア達が、本気で洗脳されていると信じ込んでいたのだ。
だが、彼の元に連れてこられたのは解術者ではなくその逆、呪術者達であった。
それはなぜか。
(ふん、扱いやすい駒だ)
近くにいた男がほくそ笑む。
彼らはユッドディの父親が送った刺客だった。
ユッドディの父親は、洗脳を上書きすることで、メリア達を自分達にとって都合の良い人形にしたてあげ、今後の為に利用しようと企んでいた。
メリア達を人形にし、ユッドディとの子を孕ませ、自分達の繁栄の為の糧にする。
(本当はあの娘にその役をやらせる気だったが…これはこれで良い駒が作れそうだ…)
*
そんな父親の企みも知らず、ユッドディは勝ち誇っている。
ケインが苦しみ、メリア達はこれから救われる。
そして、救いだした二人は自分に惚れ、それを見た男が絶望したところで殺す。
ユッドディには、そんなビジョンしか見えていなかった。
だからなにも気づけないし、誰も気づかない。
ユッドディは知らない。
これからの事ばかり考えているが、自分の命はもうすぐ消え去るということに…
(や、めて…!)
呪術者達は気づかない。
自分達がやっていることは、ただの破滅だということに…
(やめて、ってば…!)
処刑人は知らない。
今処刑をやめれば、まだ救われたかもしれないということに…
(ケイン…ケイン!)
民衆は気づかない。
自分達が信じたものが、間違いだということに…
(やめ…いや…っ!)
黒幕である父親は知らない。
駒だと思い込んだソレは、自分を繁栄させるのではなく、消滅させる存在だということに…
(あ、ぁあぁ…あああああああああああああああ)
だから、正体を知るものが気づいていた…
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアああああああああアアああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアあアあああああああああああアアあアあああああああアアアアああああああああああああああああああああああああああアあああああああアああああアアアアああああああああああああアアアアあああああアアアああアああアアアアあああアアアアああアアアアアアアあアアアあアアアアあアアアアアアアアアアアあアアアアアアあアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
――破滅が始まる、その事に。
――滅びの産声が、デュートライゼルに木霊した。




