352 因縁 ②
ケインと健也が戦いを始めた一方で、こちらでもまた、戦いが始まろうとしていた。
「かはっ……クソッ、なんだ、さっきのは!?」
「分かりません……一先ず、皆さんを回復させ――」
「はっ、余所見ったぁ、随分と余裕だなぁ!?」
「なっ――ぐはっ!?」
ムーたちが、ケインから何をされたのか理解出来ず、そちらに意識を持っていかれていた。
だが、それを強制的に引き戻すかのように、割り込んできたガラルの一撃が、騎士の一人を一撃で吹き飛ばした。
「がはっ……!?」
「……んぁ?」
「このっ!」
「おっと」
吹き飛ばした時の手応えに、違和感を覚えるガラル。だが、側に居た騎士たちが剣を振るってきたのを見て、即座にその場から離脱した。
さらに、ガラルに吹き飛ばされた騎士も、ヨロヨロとしながらも立ち上がってきた。それを見て、ガラルの違和感はさらに増した。
(……さっきの一撃、あれは間違いなく入った。死にゃあしなくても、意識を失ってもおかしくねぇ。それなのに立ちやがった。他の連中もそうだ。今さっきまでとは違ぇって事が、本能で分かる)
「……はっ!まぁいい。元よりオレは、考える事は得意な方じゃあねぇからな!」
「っ、来るぞ!」
「〝激震〟!」
「〝護る者〟!」
ガラルの溜めの一撃と、ロックスの鉄壁の守りがぶつかり合う。その衝撃は凄まじく、意図せずロックスは、自分たちを二手に分断させてしまった。
とはいえ、ロックスにそれを気にしていられるような余裕は無かった。
「ぐっ――――うおぉぉぉぉぉっっ!!」
圧倒的瞬間火力を誇る、ガラルの激震。それを受け止める事は、無謀に等しい。
だがロックスは、それを理解した瞬間、護る者の防御を一点に集中させる事で、無理矢理受け止めていた。
そして、受け止められてしまえば、ガラルは一瞬にして不利に陥る。そもそも激震は、力を貯蓄する、一種の溜めスキル。
その貯蓄を大量に消費することは、今後、必ず来るであろう大事な時に、力になれなくなる。
そのことを分かっているからこそ、ガラルはほんの1秒だけ解放したのだが、止められてしまった。
とはいえ、ロックスも似たような状況だった。
護る者は他の防御系スキルの追随を許さない程に強力なスキルではあるが、幾つかのデメリットも存在する。
大盾を装備していなければ使えない、という条件もあるが、一番の問題は護る者は他の行動が出来ない。
攻撃することも、他のスキルを使うことも、移動することすらも出来ない。
強力だが多様性がなく、決めきる力もない。
だがそれは、彼が単独で動いていれば、の話であるが。
「ハッ、隙だらけだぜ!」
「覚悟っ!」
ぶつかり合う直前に動いていたウィンと一人の騎士が、ガラルの背後に回り込み、奇襲を仕掛ける。
攻撃が出来ないのなら、他の仲間に攻撃してもらえばいい。ロックス自身は、護る者で守られているため、味方がどのような攻撃をしようと、問題ない。
まさに、デメリットを生かした戦術だった。
ただし――相手も一人であれば、の話だが。
「――テメェらの方が甘ぇよ」
「グハッ……!?」
「なっ――」
背後から飛んできた、属性の異なる弾丸が、ウィンに命中する。騎士の方も、突然現れた黒い影に背後を取られ、そのまま切付けられた。
ガラルも、突き出していた拳を引っ込め、ロックスの大盾を足蹴にして距離を取った。
「ゲホッ……あー、いってぇなぁクソが……ッ!」
弾丸に襲われ、受け身も取れぬまま地面に叩き付けられたウィンだったが、問題なく立ち上がる。だが、騎士の方は違った。
「う……ぁ……」
「ゼン!」
ゼンと呼ばれた騎士の背には、浅い傷が広がっていた。その傷に痛々しさはなく、むしろ美しさを感じてしまう。
そんな傷を負った騎士だったが、ロックスが声をかけてもピクリとも動かない。
死んでいる訳ではないことはすぐに分かった。ただ、声もまともに出せず、指一本すら動かせなくなっていた。
「くっ……即効性の麻痺毒かその類いか……っ!やってくれた――」
騎士の状態を即座に見抜き、声を荒げるロックスだったが、自身から離れたガラル――その隣に立つ影の正体を見て、言葉を詰まらせる。
そして、みるみるうちに、その表情を怒りに染め上げていった。
「……そうか、そこに居たのか」
「……あ?どうしたロックス?」
「……」
影の方も、ロックスが誰を見ているのか、誰に対して怒りをあらわにしているのか気がついていた。だが、理由までは分からない。
なにせ、思い当たる節も、恨まれる理由も、殺意を向けられる理由も、どれもありすぎるのだから。
「お前をずっと探していた……私の目の前で、我が主人の命を奪い去っていったお前の姿を!私は一秒たりとも忘れたことはない!今度こそ逃がさんぞ!黒風!」
ロックスの怒りに対し、影―黒風はただ、無言を返すだけだった。




