表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
357/413

350 アテナ ②

 アテナは礼儀正しく、そしてアリスの殺気(プレッシャー)にも動じないような強者かと思いきや、実は天然なだけなのでは?という疑惑が浮上してきたことはさておき、話を進めるために、俺達はアテナの用意したベンチに腰かける。

 アテナも再び指をふり、丸型の机と、俺から見て対角線の位置に小さな椅子を作り出すと、そこに座った。



「さてさて、それでは、貴方たちがここへ来た理由を聞かせていただきましょうか」

「単刀直入に言わせてもらう。仲間を助け出すために、力を貸して欲しい」

「お仲間さんのため、ですか?一体、どのお方が……」

「いや、今ここには居ない」

「……詳しく聞かせて貰ってもよろしいですか?」



 俺は、アテナにここに来るまでの経緯を話した。

 メリアという少々が、メドゥーサになってしまったこと。

 その力が暴走し、自身の村や家族、果ては国一つを滅ぼしてしまったこと。

 呪いを司るパンドラに解呪を願うも、パンドラの力だけでは解呪出来なかったこと。

 そして、メリアを人間からメドゥーサへと変貌させた張本人、ディスクロムによって、肉体を乗っ取られたということ。

 俺はアテナに、ディスクロムが語った事を含め、それら全てを包み隠さず話した。下手に嘘を混ぜたり、真実を隠すよりも、その方がいいと判断したからだ。



「なるほど……理解しました。それにしても、まさかこの世界がそのようなことになっていたとは……確かにわたしも、この世界の名を思い出せません」

「気づいて居なかったのか?」

「お恥ずかしながら。違和感自体は感じていたのですが、そこまで深刻なものとは考えていませんでした。せいぜい、不と福の調律が乱れたことが原因、としか……」

「不と福の調律の乱れ、ってのは……」

「うむ。儂が封印されたのが原因じゃな」



 前にも聞いていたが、パンドラが不幸を操れるように、アテナは幸福を操れる。

 だが、一方が封印され、調整が効かなくなると、割を食うのはその片割れ。

 アテナは幸福の値を調節し、調律を計ろうとしたが、上手くいかなかった。アテナの様子を見る限り、そういう事なんだろう。

 というより、()()自体も、この世界の異変が原因なのではないかと、今なら感じてしまっていた。



「とにかくだ。儂としてはアテナ、お主にも協力して貰いたい。儂の封印を解いた主の願いを叶えたい、というのもあるが……儂自身、こやつの事を気に入っておるのでな」

「パンドラ……貴方の口から、そんな言葉が聞けるだなんて、思ってもいませんでした」

「じゃろうな。儂とて、今でも驚いておるよ」



 パンドラが肩を竦めながら言う。そんなパンドラに、アテナも俺も、驚きをあらわにした。

 条件を満たし、封印から解放した俺の事を、少なからず気にしてくれているとは思っていたが、気に入られている、とパンドラの口から聞けたのは、素直に嬉しかった。



「そうですね……ケインさん。一つ、お聞きしてもよろしいですか?」

「あぁ」

「貴方が成そうとしていることは、裏を返せば、世界から救済と言う名の希望の芽を摘むのと同じことです。それでも貴方は、この道を歩むおつもりですか?」



 アテナの言っている事は、正しい。

 確かに、もしメリアを取り戻せたとしたら、世界が救われる道が閉ざされ、もう二度と戻れなくなるかもしれない。

 だが、それでも。俺の答えは決まっていた。



「俺は――」



 アテナの問いに答えようと、口を開いた瞬間、背筋に物凄い寒気を感じた。

 それは、アテナも同じだったのか、共に立ち上がり、同じ方向―俺の背後―俺達が通り、すでに閉じた、この空間の入り口の方へと振り向いた。


 ピシッ――


 そんな音と共に、何も無い虚空に、亀裂が走る。その亀裂は徐々に広がり、やがて、その亀裂から剣先が姿を現した。



「――ッ、そんな、ありえません!精霊の導も無しに、この空間に入り込めるハズが……!?」



 アテナが、酷く動揺する。

 それもそうだ。この空間は、精霊の導きが無ければ、そもそも見つける事すら出来ない場所。

 何の導も断りも無く、この場所に侵入することなど、あってはならない事なのだ。

 だが俺も、別の意味で動揺していた。

 虚空を割り、現れた剣先。その剣先から放たれる気配に、俺は一人の男を思い出してしまった。


 かつて一度だけ、相対した男。異次元の速度で成長し、次に戦えば負けるかも知れないと、本気で思った男。

 そして何よりも、今一番会いたくない男。


 そんな俺の願いを嘲笑うかのように、剣先は鍵を回すように縦から横へと向きを変えると、暴発するかのような魔力と共に、空間を引き裂いた。

 そして、その持ち主が、その姿を現した。



「嗚呼――ようやく見つけたぞ。なぁ?ケイン・アズワード!!」

「――勇者……ッ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ