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34 牢の中で出会ったのは その2

今回の話は色々と難しいかもしれません。

 昔、この世界には人や亜人達を苦しめる一体の怪物(モンスター)がいた。


 その魔物は、己の体の一部を培養として、己の家人となるモンスターを次々と産み出していった。

 体の一部が無くなっても強さは衰えるどころか、より凶悪になっていくその怪物(モンスター)を見て、人々は恐怖した。


 だが、人々は諦めなかった。

 亜人達と力をあわせ、モンスターに必死に抗い続けた。



 そんな人々に、希望の存在が現れた。



 一人の勇敢なる青年と、それを支える仲間達。

 彼らは、瞬く間に戦場を駆け抜け、モンスター達を次々と打ち倒していく。


 そんな彼らでも、怪物(モンスター)はそう簡単に倒せるものでは無かった。


 お互い何度も何度もぶつかりあい、お互いに勝って負けての消耗戦。

 だが、着実に怪物(モンスター)を追い詰めていた。



 そうして一年、とある村でついに青年達は怪物(モンスター)を討ち滅ぼすことに成功した。


 彼らの勇気と栄光を讃えた人々は、彼らを勇者と呼び、彼らの故郷の村を「勇者の村」と呼んだ。

 勇者の村には多くの人々が集まり、住み込み…






 *




「いつしか、村から町へと成長し、勇者達の名を取り、「デュートライゼル」と呼ばれるようになった…これが、勇者に纏わる歴史よ」

「………」



 俺は、レイラの話を黙って聞いていた。

 この世界に…この町に、そんな歴史があったとは。

 あの町にいたときは、気にもしていなかったことだ。

 だが、それ以上に気になる点が一つだけあった。



 『とある村でついに青年達は怪物(モンスター)を討ち滅ぼすことに成功した。』

 『―村はかつて、一体の邪悪なモンスターによって、滅ぼされかけた―』



 その怪物(モンスター)が打ち倒された村というのは、もしかして…



「…続き、いいかしら?」

「っ…あ、あぁ。頼む」



 気にはなるが、確める術はない。

 ここは、話を進めておこう。


 そして、レイラは再び語りだす―




 *




 デュートライゼルはとても良い町だった。

 初めは拒んでいた青年も、いつしか立派な町のトップとして相応しい振舞いになっていた。

 そんな彼が、最後に残したもの。


 それが「勇者の証」。

 彼の子孫達はその証を大切にし、より良い町にするべく奮闘していた。



 だが、いつしか町の権力者の一部が、その証は町を支配するための道具だと思い始めた。

 証を手に入れれば、勇者の末裔として崇められる。町を支配することができる、と。


 勿論、子孫達はその企みに気づいていた。

 時には乱暴に、時には政治的に彼らを押さえ込み、子孫は証を今代まで守ってきた。



 そんなとき、一つの情報が耳に入ってきた。

 それは謎の軍隊が、このデュートライゼルに進行してきているというものだった。

 その真意を確めるべく、子孫は報告のあった場所へと赴いた。

 その場所にたどり着いた彼らを待っていたのは



 ―裏切りだった。



 その情報は、ある一族が町を支配するために流した全くのデタラメ。

 報告した者も、その一族の者だった。

 背後から襲われ、反撃する暇もなく全滅。


 そして、勇者の証を奪われた。


 勇者の証を奪った彼らの次にとった行動は、勇者の一族の乗っ取りだった。



 今代の子孫には、一人娘がいた。

 とても可愛らしく、愛を注がれて育った少女には、それは多くの求婚の申し出が来ていた。

 当然全て断っていたのだが、ある一族だけが何度も何度も求婚してきた。


 それこそが、証を奪った一族…ゲーズヴァル家だ。



 彼らは証を手に、末裔の住んでいた屋敷へ人知れず突入した。

 突然のことで屋敷は慌てふためき…

 少女を守るように屋敷にいた者達が、次々と殺されていく。


 それでも少女と、屋敷にいた者達は、抵抗を続けた。

 無理だと分かっていても。無謀だと知っていても…



 そして、一人の少女を残し、一族は全滅した。



 彼らは少女に語りかけた。


 「私達に嫁げ」と。

 「お前には何も残されていない」とも。


 それでも少女は拒んだ。

 たとえ何も残ってないとしても、絶対に屈しないと。


 どんなことを言っても自分達を受け入れない少女に痺れを切らした彼らは、少女と遺体を地下に作り上げた牢に放り込んだ。

 さらに、わざと少女の牢だけ広くし、他の牢に遺体を放り込んだ。


 少女の心を、完全に折るために…







 *




「…それ、じゃあ、お前の正体って…」

「…笑っちゃうでしょ?」



 そういってレイラは苦しい笑いを浮かべた。

 それは、俺の心にぐさりと刺さったような笑いだった。



「悔しいよね。今の私には、ここから脱出することはできない。私を縛るこの枷が、私の全てを封じてしまっているのだから…」

「〝スキル封じの魔術回路〟…か?」

「そういうのもあるけど、これは少し違うかな。私につけられた枷には、魔力を奪う魔術回路が書かれているの。スキルは使えるけど、使うための力が足りない。っていう方が正しいかな…それに、見てよ、他のところ」



 そう言われて、改めて他の牢を見る。

 そして、嫌でも分かってしまった。



「…あれはね、アイツらに背いた貴族や住民達。…全部、死体だけどね。あれも、心を折るためにわざとやってるんだろうね」



 他の牢から無数の手が。足が。骨が。

 その全ては、アイツが…アイツらが殺した。


 俺が他の牢に入れられなかったのは、牢が一杯一杯で、開け閉めすら難しい状態だったからだろう。

 実際閉まりきらず、半開き状態の牢も見えた。


 これも全て、自分達の私利私欲の為…

 そう思えば、自然と怒りが込み上げてくる。


 …だが、どうしようもない。

 俺の剣は、手元には無い。

 俺の持つスキルは、剣を使うスキルと、地図(マップ)だけで…


 …そういや、地図(マップ)って使えるのだろうか。

 さっきの会話から、スキルが使えなくなるものもあるみたいだし。


 とりあえず、試してみるか。



 「…〝地図(マップ)〟」



 俺は恐る恐るスキルを発動させる。

 今できることを知っておくことは大切だ。

 して、結果は…


 発動した。

 目の前には、デュートライゼルの情報が提示されている。


 つまり、この枷にはスキル封じ等の効果は無い、ということだ。

 まぁ、地図(マップ)が使えるからって、どうにかできる訳じゃないと思うけ



「…うそ」



 隣に居たレイラが、小さく言葉を漏らす。

 それは、驚きによるものか。それとも…



「ねぇ。貴方にお願いしたいことがあるの」











 ―翌日


 俺の処刑が始まった。

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