336 少女の正体
【報告】
今回は出番が無いので次回以降、ウィルの一人称を漢字から平仮名の「わたくし」に変更します。
ヒロインが増えてきて、同じ一人称(私)も増えたため、読みやすさ、判別しやすさ向上が主な理由です。
「――まさか」
「どうした?来ないのか?」
「「……」」
イルミスとガラルが、三人のうちの一人を倒したことで、数の優位性が生まれた。
彼女らもそれが分かっているのか、ケインを狙うのを中断し、距離を取ろうとする。
だが、イルミスとガラルに背後を取られているため、背中合わせの姿勢を取り、ケイン達と対峙した。
形勢逆転、とまではいかなくとも、ケイン達にとっては、大きな一手となったことには変わりない。
ケイン達が一歩ずつ距離を詰め寄ろうとする中、最初に異変に気がついたのは、少女達だった。
「――E6より、伝言を受信」
「既読、これは――」
そう少女達が呟いた瞬間、ケイン達から離れた場所で、爆発が起きた。
「――っ!?なんだ!?」
「方向からして……まさか!?」
「――伝言の実行を提案」
「承認。撤退します」
「っ、待て……っ!」
爆発にケイン達の注意が向いた、その一瞬をつくように、少女達が飛び出し、その場から逃走を図る。
それに気づいたケインが、すぐさま後を追おうとするが、爆発が起きた方角が、ナヴィ達のいる方角であったため、そちらの方が気になってしまい、途中で足を止めざるを得なかった。
「チッ、おいどうする!このままじゃ逃がしちまうぞ!」
「――っ、ああクソッ……イルミスは俺と一緒に先に戻るぞ!ガラルは地面に転がってるソイツを連れてきてくれ!」
「アイツらはどうすんだ!?」
「今から追った所で間に合わないし、間に合ったとしても勝てるかどうか分からない。それに……」
「わーってるよ、アイツらが気になんだろ?聞いただけだ。ふん縛って連れてきてやっから先行ってろ」
「悪いな、イルミス!」
「あ、はい!」
ケインはイルミスを連れ、ナヴィ達の元へと急ぐ。その後ろ姿を見ながら、ガラルは頭をガシガシと掻いた。
「ったく、従魔が言うのもなんだが、少しは切り捨てるって考えが出来ないもんかねぇ……いやまぁ、そう簡単に切り捨てられても困るがな、っと」
ガラルはふてぶてしく歩き、殴り飛ばしてから一切動かない少女の前まで来ると、その場でしゃがみこんだ。
「さて、悪く思うなよ?先に襲ってきたのはテメェなんだからな?そうなったのも、因果応報?ってやつだからな」
「……」
「……はぁ……さすがに少しくれぇ反応して貰わねぇと面白くな――」
指先一つすら動かさず、倒れたままの少女に、ほんの少し苛つきを覚えたガラルは、少女の髪を掴み、グイッと上げる。
その瞬間、ガラルは言葉を中断し、その顔を歪ませた。
「……どういうことだ?」
*
「皆!無事か!?」
「ケイン!イルミス!」
爆発音が鳴り響き、心配になって戻って来た俺達は、ユアやアリスが負傷しているところを除けば、全員が五体満足でその姿を見せてくれたことに安堵を覚えた。
そして同時に、彼女らの目の前、そして周囲に広がる、何かが爆発したような焼け焦げた跡を見て、疑問と不安が強くなった。
「……何があった?」
「簡潔に話すとね……」
俺はレイラから、ここで何が起こったのかを聞いた。
中でも、ウィルが自分の歌を制御……と言うには少し違うが、歌えるようになったことは喜ばしいことだった。話を聞く限り、ビシャヌも同様に歌えるようになったらしい。それも祝福すべきだろう。
だが、最後に起きた事を聞いたことで、そうも言っていられなくなった。
「自爆……!?」
「うん。奇声を上げたかと思ったら、突然ドカーン!って。ベイシアが気づかなかったら、皆も危なかったと思う」
「そうか……ベイシア、助かった」
「例には及ばぬ。主の大切な者たちじゃしのぅ」
「しかし、自爆、か……彼女達は一体……」
「案外、人間じゃねぇのかも知れねぇぞ?」
背後から聞こえてきた声に、思わず振り返る。
その声の主―ガラルは、持ち上げていたそれを、捕らえて連れてくるように頼んだ少女を、ヒョイっとこちらに投げ飛ばして来た。
「……え?その子って、まさか……!?」
「おいガラル!仮にも人間だぞ?そんなぞんざいな扱いしたら――」
「よく見ろご主人サマ。それが、普通の人間に見えんのか?」
「……は?何を言って――」
そこまで言って、少女の方へと視線を向けて、言葉を詰まらせた。
横たわる少女は、ピクリとも動かず、それどころか呼吸している様子もない。
さらに、身体を仰向けに戻したことで露見した、二人に殴られ、文字通りベコッと凹み、変形した顔が、その異常性を表していた。
それによく見れば、顔や身体に、うっすらとした溝がいくつかあった。物同士をくっ付けるとできる、小さな溝が。
そして何よりも、凹み歪んだ辺りの皮膚が剥がれ、その下に、金属の皮膚、と言えばいいのだろうか?が見え隠れしていた。
「彼女は、一体……?」
人間のようにしか見えない、けれど人間では無いように思える少女。その正体が掴めず、困惑してしまう。
だがその答えは、呆気なく判明してしまった。
「解答。それは量産型機巧人形。当機の姉妹機、という扱いになります」
『――っ!?』
聞こえてきたその声に、全員の視線がそちらに向けられる。
横たわる少女と同じように見えて、自分の方が本物だと言わんばかりに堂々とした顔。
俺達が襲われた―いや、巻き込まれた原因となった少女が、両手を前に添え、ピシッとした姿勢でたたずんでいた。
「……姉妹?ってことは、自分の家族に狙われていたと?そう言いたいのか?」
「厳密には違いますが、そう解釈してもらって問題ありません」
「……君は何者だ?」
「再返答。当機は機巧人形ベリュネティア。貴方方が踏破したそれの、本物です」
少女―ベリュネティアは、抑揚のない声で、そう告げた。




