335 襲うモノ、阻む者たち ④
「んー……ウチ、歌なんて全く分かんないんだけどさー、前提が違うんじゃないの?」
『……え?』
ライアーの放った一言に、ウィルとビシャヌは思わず目を丸くする。
「やーさ?ウィーちんのハナシ聞いてる限り、ウィーちんはその、魅惑の歌?ってやつを歌いたいんでしょ?」
「え、えぇ……」
「でもさー、それで歌えたとして、それってモノホンの歌なワケ?」
「……ライアー?何が言いたいんですの……?」
「あぁ、メンゴ。イミフになっちゃったね。要は、形だけの歌で心に響くもんなの?」
「「……あ」」
そこでようやく、二人はライアーが何を言いたいのかを察した。
そして、それは同時に、二人の中にあった共通の問題を、簡単に解決できる答えであった。
「……そうでした。歌とは、ただ歌うものではなく届けるもの……こんな当たり前のことを、どうして忘れてしまっていたんでしょうか……」
「……ビシャヌ」
「えぇ」
ウィルとビシャヌは頷きあうと、手を取り合い、目を瞑る。
魅惑の歌というものについて、二人を始め、人魚族の殆どは〝歌えるもの〟という認識でしかない。
故に、そこに〝歌を届ける〟気持ちを込めることはない。そのため、彼らの歌は、ただ魅了するか、ほんの少しの特殊な効果を発揮するかのどちらかにしかならない。
それでは、ただ言葉の羅列を読んでいるのと、なんら変わらない。
だが、本来歌というものは、〝歌い手〟と〝聞き手〟が揃って、初めて成り立つもの。
歌い手が聞き手に向けて、〝その歌に込められた想いや願い〟を届ける。そして、聞き手は歌い手の〝その歌で伝えたい想いや願い〟がなにかを考え、感じ取る。
そうすることで、それは初めて〝歌〟として完成するのだ。
そしてそれは、魅惑の歌も例外ではない。
歌い手が気持ちを込め、聞き手に届けることができれば、その歌は、本来の力を発揮する。
あの日ウィルが、ケインだけに想いを伝えたように。
(想いを、伝える)
(願いを、伝える)
((ここに居る、皆に……!))
『―――――――――――――――――』
「「――?」」
歌声が、戦場に響く。
じりじりと詰め寄っていた二人は、聞こえてきたその歌声を訝しむ。
――何故戦場で歌を?
一瞬考えはしたものの、すぐに無意味だと判断し、終わらせるべく一気に距離を積めた。
だが、それを阻むように、再び無数の糸が彼女らの目の前に現れた。
しかし、彼女らは足を止めようともせず、そのまま糸の網へと突っ込んでいった。彼女らにとって、その糸はなんら脅威にならないことが分かっていたからだ。
だが
「「――ッ!?」」
先ほど通り、糸を引きちぎろうとしたが、糸は一向にちぎれる素振りを見せない。
何故?と彼女らが考えるよりも早く、叫ぶような声が上がる。
「ナヴィ!」
「〝重力〟!」
瞬間、彼女らは強い衝撃と共に、地面に叩きつけられた。すぐに起き上がろうとするも、身体は異常に重く、顔を上げることすらままならない。
それどころか、直前に触れていた糸が巻き込まれ、変に絡まっていた。
「エラー、発生、質量、増加」
「出力、強化、対応し――」
「させると思ってるのかしら?」
ナヴィが少し冷めたような口調で言うと、彼女らにかかる重力が更に強さを増す。
そのあまりの強さに、彼女らの身体から、ギチギチと軋むような音が鳴り始めた。
そんな状態でも、彼女らは起き上がろうとしていた。
「なっ……まだ起き上がるつもり!?」
「ナヴィ!もっと強くできないの!?」
「もうやってるわ!でも……」
「エラー、eラー、エRaー」
「っ!こいつら、本当になんなの!?」
ナヴィが出力を上げても、彼女らは無理矢理にでも起き上がろうとする。
その度に軋むような音は強くなり、やがて彼女らの身体が放電を始め、節々から火花が散り始めた。
「……なんじゃ?」
「エrA――Eラa――eAeeaeeEeeeeaeEeae」
「――っ!?いかん!全員、頭を下げるのじゃ!」
「へ!?ベイシア何を――っ!?」
彼女らの異変にいち早く気がついたベイシアが、素早く自身の糸で大きな布を作り、背後に居る仲間たち全員に被せるように広げ、体制を低くした。
ユアとアリスも、ベイシアが何を伝えたいのかを瞬時に理解し、すぐさま木々の裏へと回る。
次の瞬間、彼女らの身体の放電と火花が一気に強まり、その場で爆発が巻き起こった。
強烈な爆風と熱波が、一瞬を駆ける。だが、ベイシアの産み出した布が、それらを防ぎ、ベイシアたちを守った。
爆発もおさまり、少し静かになったタイミングで、ベイシアたちも布から出る。
「……なんじゃったのじゃ、彼女らは……」
ベイシアは、彼女らが居た場所へと視線を向ける。だが、彼女らの姿は何処にも無く、酷く焼け焦げた後だけがそこにあった。
ビシャヌ「さぁさぁ始まりました〝ビシャヌのなんでもラジオ〟!皆さん、元気にしてましたか~?」
ウィル「……前触れもなく始めましたわね……」
ビシャヌ「さて……何を話しましょうかね?」
ウィル「まさかのノープラン!?」
ビシャヌ「えへへ」
ウィル「えへへ、じゃないですわよ!?」
ビシャヌ「でも、お便りも来ていませんし……」
ウィル「……そもそも、送り方を言っていないのでは?」
ビシャヌ「あ、そうでした。お便りは各話の感想の方に〝ビシャヌ宛て〟と明記して送ってください。全てをここで読むわけではありませんが、しっかりと読まさせていただきますよ~」
ウィル「……そもそも送ってきたとして、何処の誰がどうやって送っているんですの……?」
※気にしたら負けですよ
ウィル「って、貴方が一番謎なんですわよ!」
ビシャヌ「気にしたら負けですよ♪」




