33 牢の中で出会ったのは その1
「…んっ…」
あ、あれ、私…眠って…どうし…
「目が覚めたのね…メリア」
その声で、私の意識は覚醒した。
先程、何が起こったのかも思いだした。
横を見れば、腕輪と鎖で拘束された状態のナヴィがいた。
助けだそうと試みるが、その場から動くことができない。
私も、ナヴィと同じく拘束されていたからだ。
「っ、そうだ…ケイン!ケインは!?」
「分からない…でも、そうは言ってられないかもね…!」
ナヴィの嫌そうな声、苦虫を噛ったような顔を見て私も気づく。
ヤツが近づいていると。
「おぉ!目が覚めたようだねぇ!フヒッ!」
扉を開けて入ってきたのは、やはりギルドで会った、見るも汚く気持ちの悪い男だった。
「ケイン、は…ケイン、はどこ、にっ…!」
「おぉ、かわいそうに。未だに洗脳されているなんて。でも安心したまえ!明日には君達を縛ってるあのゴミを処刑して、君達を解放してあげるからねぇ!フヒヒッ!」
洗脳?処刑?冗談じゃない。
そんなものされていないし、そんなこと許せるわけがない。
ジリジリと歩み寄ってくる男が目に入り、近づけさせまいと防壁を使おうとするが、失敗に終わる。
「フヒッ!ソイツにはスキル封じが施されているのだよねぇ!」
失敗した防壁を見た男が、わざわざ説明しだす。
スキルは使えず、男の歩みは止まらず、そして私の顎に触れる。
触れられただけで、身体中が気持ち悪さで震える。
「君のような上玉が、あんなゴミに洗脳されているなんて、ボクは悲しいよ。明日には、ボクが救ってあげるからねぇ!」
男の、私をなめ回すような視線が気持ち悪い。
そして、そのまま男は部屋を出ていった。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
それ以外、今の私には考えることができなかった。
「ケイン…」
私達だけの部屋に、ナヴィの呟きが響いた。
*
「チッ、どこも一杯じゃねぇか!」
「そうだな…ん?ここ、空いてるじゃねぇか」
「オラッ!そこで寝ていろ!」
「ぐっ…」
「ザマァ無いな!ハハハハハ!」
「おい、さっさも行こうぜ。こんなゴミ共と同じ場所にいるの、嫌なんだよなぁ」
「そうだな!せいぜい最後の夜を泣いてすごせよぉ!?ハハハハハ!」
そういって、この場を兵士達は離れていく。
俺は、辺りを見回した。
窓はなく、全て壁になっており、一面だけ鉄格子でできた部分がある。
間違いない。ここは牢の中だ。
道中殴り蹴りされたが、顔はなんとか軽傷で済ませることができた。
その代わり、腹部や手足がとても痛い。
手には枷をはめられ、あまり自由に動かせない。
「貴方は、誰?」
不意に、女の後ろから声がした。
後ろを振り返ると、俺と同じように枷をはめられた、俺より少し年上に見える少女がいた。
服はボロボロになっていて、長いことここにいたのか少し痩せぎみになっている。
「もう一度聞く。貴方は、誰?」
少女は繰り返し聞いてくる。
俺は、彼女と向き合う形をとった。
「…俺はケイン。そういう君は?」
「…レイラ。それが私の名」
「レイラ、ね」
「ねぇ、どうしてここに?」
「…勇者の末裔とかいうヤツに、ありもしない、自分勝手な罪をかけられたのさ。…不意打ちで、抵抗する暇も無かったしな…」
「勇者の、末裔ですって…?」
レイラの顔が少し歪んだ。
「ねぇ、こっちに来てくれる?言いたいことがあるの」
「…分かった」
俺は立ち上り、レイラの隣に座った。
近くで見れば、レイラは元々かなりの美少女だというのが分かる。
だが、今は死にかけのような肌をしている。
「…貴方には、いくつか聞きたいことがある。答えてくれたら、私の持つ情報を教えてあげる」
「…分かった。答えられる範囲なら答えてやる」
「ありがとう…それじゃあ一つ目。貴方をここに入れた首謀者。ソイツの名前を教えて」
「…確か、ユッドディ…だっけな」
「そう…やっぱり、アイツなのね…!」
レイラの顔が、怒りと憎しみに溢れる。
それは、まるで人が変わったような顔だった。
少しして、落ち着きを取り戻したレイラがこちらを見る。
まだ、顔には怒りの表情が残っている。
「…じゃあ二つ目。ソイツは勇者の証を持っていた?」
「…あぁ、持っていた」
「そう…じゃあ三つ目。その証を、権力に使っていた?」
俺は答えに少し詰まった。
質問の意図を理解するのに少しかかってしまったからだ。
だが、アイツが証を見せた時。それは紛れもなく、俺達に権力を見せつける為であった。
「…あぁ。使っていた。俺達に見せつけるように」
「…そう、なの…」
レイラの顔が再び変わる。
怒りと憎悪、そして悲しみに満ちた顔に。
先程よりも、怒りの感情に満ちているレイラを見て、なにか特別な事情があるのだろう、と思った。
一応、名前も知っていたようだし。
「…四つ目。お前がここに連れてこられた状況、理由。全部詳しく教えろ」
レイラが、完全に人が変わったような、先程までとは異なる口調で問いかけてきた。
その声は、先程と同じ声とは思えないほど冷たく、怒りに満ちた声に聞こえた。
だが、それは話さない理由にはならない。
俺は、全てを話した。
最初から最後まで、憶測をも全て。
その全てを話終えたとき…
レイラは、逆に冷えきったような顔をしていた。
だが、俺には分かる。
その顔は、先程よりも強い怒りと憎しみによって作られた顔だということが。
暫くして、再びこちらを向いたレイラは、最初に見た時の顔をしていた。
「…ありがとう。こちらからの質問はもういいわ」
「そう、か…」
「それじゃあ、今度は私の番…」
レイラが、俺の真正面に座る。
「貴方は、真実を知る権利がある。この町の、真実を」




