333 襲うモノ、阻む者たち ②
「っ、なんなのじゃあやつらは!」
「むぅぅ……ウチのキョーカも意味ナッシングて、ちょいムカツク……」
思わず、絶叫に近い声でベイシアが叫ぶ。
それも仕方ないだろう。なにせ、動きを止めるために張った糸を、容易く引きちぎられたのだから。
おまけに、色々な強度の糸や、ライアーの言葉遊びで強化した糸も放っているものの、どれも動きを止めるには至っていないことも、より強く悩ませる結界となっていた。
「仕方ないわね……ナヴィ、イブ。援護を頼むわ」
「援護って、貴方まさか」
「――、はぁぁぁっ!!」
「ちょ、待ちなさい!ったくもう!」
ナヴィの制止も聞かず、アリスが飛び出す。
ナヴィは少し悪態をつきながらも、イブと共にアリスを援護する姿勢を取った。
迫り来るアリスを前に、糸を引きちぎった二人は、それを淡々とした目で見つめていた。
「敵の接近を確認。排除します」
「承認」
「ナメんじゃあ無いわよっ!!」
アリスの振り下ろしの一撃を、彼女は淡々と受け止める。アリスは、初撃こそ防がれたものの、そこから連続で突きによる追撃を行った。
だが、その追撃すらも、彼女は軽々と防御してしまった。
「チッ……なら、こんなのはどうかしら?」
「――これは」
アリスが一歩引いた瞬間、それに合わせるかのように巨大な炎と、炎の弾丸が襲いかかる。
不意をついた攻撃だったためか、彼女らは回避が間に合わず、そのまま炎に飲まれていった。
「やった……!」
「はぁ……手こずらせてくれたわね……でもこれで――」
「はてさて、そう上手くいくでしょうか?」
「イビル?何が言いた――ッ!?」
イビルの呟きに問いかけようとしたのもつかの間、ナヴィはいち早くそれに気がつき、その方向――今も燃え上がる炎の方を見る。
そこには、本来は立っていないであろう人影があった。
「外傷率、5%」
「高熱による異常――問題無しと判断」
『任務、続行』
炎の中から、彼女らが平然とした様子で現れる。その平然とした姿に、思わずナヴィたちも絶句した。
「な、なんで……!?」
「くっ……このぉっ!!」
イブが顔を青ざめさせる中、アリスは再び彼女らに攻撃を仕掛ける。が、槍を捕まれ、いとも容易く抑えられてしまった。
「んなっ!?」
「外敵の無力化を思考、武具の破壊が有効と判断。破壊します」
その瞬間、彼女はアリスの槍を僅かに引き寄せ、両手で掴むと、そのまま物凄い力で槍をねじ曲げ、そして折ってしまった。
「なっ、あっ……」
「戦意喪失を確認。任務を続こ――」
「はぁぁぁっ――かはっ!?」
「ぐっ……!?」
「ユア!?アリス!?」
彼女らが、得物を失ったアリスから目を離した瞬間、アリスは折られた槍の先を手にし、そのまま突き刺そうとする。
そして、その対抗線上から、気配を消していたユアが、首元を狙いすました攻撃を繰り出した。
が、反撃と言わんばかりに、アリスは強烈な蹴りを食らい、近くにあった木に叩きつけられる。
ユアも、あと少しというところで、もう一人に阻まれ、そのまま殴り飛ばされた。
ナヴィは思わず叫ぶが、すぐに二人の心配をしている余裕すら無いことに気がつくと、苦虫を噛み潰すような表情を見せ、彼女らを睨んだ。
「貴様ら……よくも二人を!」
「でも、どうしよう……イブたちのスキルをうけても、あんなにげんきなのはきいてないよ……」
「イブよ、嘆いてる暇があるならば、今はとにかく撃ち込め!でなければ我らは即終わるぞ!」
「は、はい!」
「私も手伝うわ!」
「頼む!」
ナヴィとイブ、リザイアが、がむしゃらに撃ち続けるも、彼女らは被弾しても気にする様子なく、一歩ずつ歩いてくる。
その隙に、ウィルたちが思考を巡らせていた。
「それで、一体どうしますの……?」
「とにかく、動きを封じなきゃ、彼女たちへの決め手に欠けるボクたちに勝ち目は無い」
「でも、どうするの?私の念力でも、あれを押さえつけるのは無理があるよ?」
「せめて……せめて、もっと強い力が出せれば……」
普通の人間相手であれば、下手な集団よりも強いであろう彼女たちだったが、謎の敵を前にして、弱気になっていた。
そんな中、ビシャヌが恐る恐る手を上げた。
「その、私の歌を使うのはどうでしょうか?」
「どしたんシャヌたん?ここに来て、アタマパリった?」
「パ、パリっ……?言葉の意味は分かりませんが、私は至って真面目です」
「歌……って、あぁそうか。〝魅惑の歌〟だね」
「はい」
「ミワクノウタ?」
「私たち人魚族の歌のことです。込める魔力によって、様々な効果を発揮できるんです」
「へー、便利ジャン。でも、どして今まで歌ってないん?それだけの効果なら、いつも歌ってればよくね?」
ライアーが、分からない、というような表情で疑問をぶつける。それに対し、ビシャヌは困ったような表情で答えを返した。
「……そう単純な話ではないのです。魅惑の歌は、確かに戦闘にも扱えるものですが、どこまで行っても基盤は歌なんです。戦場を駆けながら歌うことは難しいですし、なによりも込める魔力が変われば効果も変わってしまう。それに、歌である以上、敵にもその効果を与えてしまう可能性だってあるんです」
「……本当は、私も歌えれば良かったのですが……」
「それはこちらも同じです。私もウィルのように、真なる魅惑の歌を歌えれば良かったのですが……」
「んん~?なんか話ややこしくなってネ?ドユコト?」
「え?あぁ、すみません。私たちの扱う魅惑の歌は、二種類あるのです。一つは、人魚族であれば誰でも扱える歌。もう一つは、誰かを思うことでのみ歌える歌。私は、前者しか歌えませんし、ウィルは後者しか歌えません。ただ……」
「初めて歌えたあの日以来、私も歌えるようにと努力してはいるのですが……どうにも、あの日のように乗らないんですのよね……」
ウィルとビシャヌはあの日以来、歌った時の感覚を思い出しながら、共に魅惑の歌を歌う練習をしていた。
ウィルが歌う歌は、必ずどこかで必要になるという予感のもと、努力していたが、今日この日に至るまで、全く上手く行かなかったのだ。
「私の扱う魅惑の歌は、ウィルが歌う魅惑の歌よりも、効力としては弱くなってしまいます。ですが、何もしないよりは――」
「んー……ウチ、歌なんて全く分かんないんだけどさー、前提が違うんじゃないの?」
『……え?』
ビシャヌ「思ったんですけれど、もしかしなくても私、仲間になってから目立った活躍をしていないのでは……?」
ウィル「してないことは、無いとは思いますけれども……」
ビシャヌ「もしかしなくても、この面々の中で、私が一番空気だったのでは……?」
ウィル「そんなことは、無いとは思いますけれども……」
ビシャヌ「……いいです、分かりました。それなら私にも考えがあります!」
ウィル「……え?ビシャヌ!?どこに行くんですの!?待ってくださいまし!ビシャヌ!」




