331 追われるモノ、襲うモノ
突然現れた、目の前の少女と瓜二つな五人の少女達。彼女達は、目の前の少女――ベリュネティアと呼ばれた少女に向かって、それぞれの武器を手に、斬りかかって来ていた。
対する少女はと言うと、丸腰だ。武器らしきものは何一つ見当たらなかった。
「……っ!」
(まずい!)
俺は、反射的に足を解放すると、おもいっきり踏み込み、一瞬のうちに少女と彼女達の間に割って入った。
「――っ!」
割って入った勢いのまま、天華を抜き振るう。
それでも彼女達は、攻撃の手を止めることはなく、結果、俺と天華は、五人からの攻撃を全て受けることとなった。
(――っ、重い!?)
少女とはいえ、五人同時の攻撃だ。それ相応の衝撃や、威力になるのは想像しやすい。
だが、彼女達の一撃は、そんな比ではない。まるで大男が、ハンマーでも振り下ろしたかのような重さをしていた。
こんな重さの攻撃をしてくる女性は、直近では大剣を振るう剣鬼――ダリア・ソル・エルトリートくらいしか思い出せない。
だが、目の前の彼女達の武器は剣だ。見た目は特段変わりのない、普通の剣。それを、大剣並みの重さで振り下ろしてきたのだ。
それも、五人の合算ではない。五人全員、一人一人が、その重さの攻撃を繰り出しているのだ。
「っ――ぁああぁぁっ!!」
ピシッ、と、天華にヒビが入る音がする。
だが、それに構わず、俺は天華を振り切った。
彼女達も、押しきられることは想定していなかったのか、表情こそ変えなかったものの、即座に後ろに飛び退き、距離を取った。
パキンッ、という音と共に、天華が砕ける。そして、俺の魔力を受け、刀身が再生する。
俺は再び天華を構え、対峙の意思を見せた。
「疑問。なぜ逃げていないのですか」
「そこは助けて、じゃないんだな」
「当機は、助けなど求めていません」
「……まぁ、ここで見逃すのは、俺の性に合わなかった。それだけのことだ」
「理解不能。合理的ではないと判断します」
背後から、どこか生気の無い、抑揚のない声で少女が問う。
確かに、助けなど求められていない。だが、それを見過ごせるほど、俺は非常になりきれなかった。それだけのことだ。
「イルミス!ガラル!」
「はい!」
「おう!」
俺の呼び掛けに答えるように、二人が隣に立つ。
……あの五人。直感ではあるが、生半可な攻撃は意味を成さないと見た。そして、恐ろしいほどに判断や切り替えも早い。
さっきの俺の攻撃、あれは、ほとんど不意をついた攻撃だった。それなのに、あの五人は、俺の姿が見えた瞬間、全員揃って対象を俺に変更した。
達人と呼ばれる者なら、そういった芸当もできるだろう。だが、目の前にいる五人からは、その気配は無い。だが、できる。
まるで、そういう動きを叩き込まれたかのように、自然に、だ。
「異常事態発生。外部からの妨害を受けました」
「外敵の排除を提案します」
「提案を採用。A5、C9、D7は、外敵の排除。B2、E6は、引き続き任務を遂行」
『了解』
「っ!?」
五人は二手に別れると、三人組は俺達の前に残り、二人組は俺達を抜け、少女に向かって仕掛けて行く。
やはりこの五人、冷静に、かつ瞬時に合理的な判断を模索し、行動に移すだけの能力がある。
目的でない俺達に対し、同じく三人をぶつけ、目的である少女には二人をぶつける。
目的を果たすために、実に合理的な選択だろう。
だがそれは、彼女の思惑通りであった。
「今よベイシア!」
「うむ、任されよ!」
「っ、これは――ッ!?」
少女に向かっていった二人の目の前に、突然蜘蛛の巣が現れる。二人は止まろうとするも間に合わず、蜘蛛の巣に捕らわれた。
これまで、俺達は基本的に、俺を司令塔として動いてきた。だが、人数も多くなり、俺一人で全員を見ることは出来なくなっていた。
そこで、いくつかの事態に対象できるよう、もう一人、司令塔を立てることにした。
そうして選ばれたのは、ナヴィ。
理由はいくつかあるが、一番大きいのは、メリアの次に、彼女が最も長く、俺と一緒に居るからだ。
一緒に居る時期が長いということは、俺と同等かそれ以上に、全員の能力を把握しているということ。
それに、ナヴィは吸血を補えるよう、一人で模索し、実行したりと、頭も冴えている。司令塔として、申し分なかった。
ナヴィの指示により、抜けた二人はベイシアの糸に捕らわれた。戦力を削いだことで、警戒して逃げるだろうか……なんてことを考えていたが、目の前の三人を見て、不気味な感触に見舞われた。
三人の表情が、何一つ変わっていなかったのだ。
彼女達にも、二人が捕らわれたことは見えているだろう。それなのに、声を上げるどころか、表情一つ変えず、淡々と俺達をじっと見続けているのだ。
「目標捕捉。排除を実行します」
「「了解」」
「っ、来るぞ!」
目の前の三人は、一斉に飛び出し、それぞれが目の前に居る俺達に向かって仕掛けてくる。
そして……
「妨害行為を確認」
「外敵増員。排除を提案します」
「承認。外敵を排除し、速やかに任務を再開」
「了解」
「ふむ……悪いが、そう簡単にはこの糸からは抜けられ――んなっ!?」
ベイシアの張った蜘蛛の巣を、半ば強引に引きちぎり、脱出する二人。
ベイシアとて、簡単に抜け出せるような糸を張って居ない。それなのに、二人はいとも容易く抜け出したのだ。
「外敵、排除」
「……っ!来るわ!」
司令塔となったナヴィ率いるこちらもまた、戦いが始まろうとしていた。




