32 自己中心的な解釈
「くそっ!なんでだ!なんでボクに靡かない!?なぜだなぜだなぜだぁぁぁ!!」
「ぁっ…ぐぅ…」
「あの上玉共、このボクの誘いを断っただけでなく、あんな罵倒までしてくるなんて!おかしい!おかしいだろぉ!!!!」
「ぅがっ…」
「見苦しいぞ。我が息子よ」
「パ、パパ!」
「聞いたぞ?お前に対して無礼な態度をとった輩が居たそうじゃないか」
「そうなんだよ!わざわざボクが迎えに来てやったと言うのに、ボクの誘いを断って暴言まで吐いてきたんだ!」
「ぉ…ぁ…」
「なんと。それはおかしいな。勇者の末裔たる私達にたてつくなどありえんことだ」
「それにあのゴミ!思い出すだけで嫌になる!」
「ぐぇ…げっぁ…」
「そのゴミとやらは、男か?」
「そうだよ!なんであんなゴミ野郎が…あぁ、そうか!そういうことか!」
*
「はぁぁぁぁ…気持ち悪かった…」
「うげぇ…ぅうっぷ…」
「メリア、大丈夫か…?」
「だ、だいじょ…うぇぇ…」
ギルドで勇者の末裔とかいうヤツに絡まれた俺達は、ギルドを出ていった後、少し人目のつきにくい裏路地に居た。
ナヴィは先程から同じ言葉を繰り返し、メリアに至っては吐き気が限界にきたらしく、盛大に吐いている。
落ち着かせるために裏路地に入ったのが、功を奏した。
ちなみに俺はメリアの背をさすってる。
「にしても、アイツ…なんか変じゃなかった…?」
「そうか…?…いや、確かに変だな。」
「う、うぇ、っぷ…」
ナヴィに言われ、初めはピンと来なかったが、改めて考えると妙な点があった。
なぜ俺達が帰ってくる時間ピッタリにギルドに来たのか。
それに、アイツは「ヤツの言っていた」と言っていた。
それが意味すること、それは…
「監視されていた、としか考えられないな」
「えぇ、でも…」
「分かってる。メリアがそれを探知できなかったことだろ?」
「えぇ。そこがわからなくて…」
「それなんだが、監視していたやつは冒険者ギルドの中でのみ監視していて、他の情報は外部の仲間から手に入れていた…そう考えられないか?」
事実、メリアの五感は凄まじい。
負の感情や、相手の視線をも感じとれるそれは、スキルだと言っても疑われないほど高性能だった。
そのメリアですら感じとれなかったのなら、自ずと答えは見えてくる。
あのギルド内の欲にまみれた視線。その中に俺達を監視していたヤツがいても、気づけないだろう。
そもそも、監視されてることを前提に考えることなんてないからな。
「仮にそうだとして…どうするの?」
「…今すぐ出ていくのが正解なんだろうけど…」
「…時間的に、もうすぐ閉まるものね。」
俺達がデュートライゼルに戻ってきたのは昼過ぎ、ギルドに入ったのは夕暮れ時である。
そのため、今から門に向かっても、すでに閉じてしまっているのだ。
「仕方ない…宿で一泊するしか無い…か。ただ…」
「その間、こちらから何もできないのが癪ね…」
一泊するということは、その間に出入り禁止令を張られたりする可能性があるということだ。
だが、こちらからは何もできない以上、俺達は仕方なく宿に向かっていった。
アイツの勝利を確信した笑いが、今高らかに響いているとも知らずに。
*
「さて、これからの事を話そうか。」
宿に入った俺達は、ここからどうやって抜け出すかを考えていた。
ツィーブルの時とは違い、高い壁に囲まれている以上、町を抜け出すことは困難を極める。
それに、今こうしている間にも、逃げ道を塞がれている可能性もある。
「私が飛んで連れていくのも考えたけど…」
「流石にそれは最後の手段でしかないし、そもそも飛ばせてもらえるかも不明だからなぁ…」
勇者の町というだけあって、かなりの厳重体勢を敷かれているであろう上空を飛ぶのは、かなりリスクが大きい。
だから、いかに気づかれずに抜け出すかを考え
ドガァァァァ!!
「なっ!?」
「「ケイン!」」
突如として部屋の扉がぶち破られ、先程の兵士が流れ込んできた。
咄嗟の出来事で反応することができず、兵士の壁でメリア達と隔離され、俺は捕まってしまう。
「フヒッ!よくやったぞぉ、者共」
聞き覚えのある気持ち悪い声。
壊れた扉の方を見ると、予想通りあの男が居た。
「フヒヒッ、よぉーくもこのボクに辱しめを与えてくれたねぇ!それもぉ、最低最悪の方法でねぇ!」
「くっ、このっ、なんのことだ!」
「フヒッ!しらばっくれても無駄だ!お前が彼女達を洗脳しているのは分かっているんだからねぇ!」
「はぁ!?なに言って…ぐぅぁ!?」
「だってこのボクにたてつくなんてあり得ないことだ!君が洗脳して悪口を言うように仕向けたに違いないのさぁ!」
「さっきからなに言って、くっ、どきなさい!」
「邪、魔…!」
「おぉ、かわいそうに。まだ洗脳が溶けていないようだねぇ…フヒヒッ!…やれ」
「ちょ、な…ふぐっ!?あっ…」
「むぐっ!?うぅ…」
「メリア!ナヴィ!」
メリアとナヴィがその場に崩れ落ちる。
恐らく睡眠薬の類いで眠らさられてしまったようだ。
「フヒヒッ、丁重に連れていけよぉ?」
「「「了解しました」」」
メリア達はそのまま兵士に連れていかれる。
俺は、なんとか助けだそうとしたが、拘束を強められた。
「ユッドディ様。コイツはどうします?」
「フヒヒッ!決まってるだろ?処刑するに決まってるじゃあないか!洗脳なんて酷いことを施した悪人なんだからねぇ!」
本当に、さっきから何を言っているんだコイツは。
洗脳?しているわけがない。
コイツ、自分の都合のいい解釈をして、無理矢理俺を悪人扱いしていやがる。
「でぇもぉ、お前にはやってもらうことがあるんだよねぇ…」
「ぐふっ!?」
「だからぁ!明日まではぁ!生かしてあげるよぉ!光栄にぃ!思えよぉ!」
「がっ…」
「連れてけぇ!道中も痛みは与えておけよぉ?」
拘束された状態で何度も蹴られ、そのまま外に止めてあった、奴隷や犯罪者を捕らえておくための馬車に放り込まれた。
連れていかれる道中も、兵士からの殴る蹴るといった暴行は止むことはなかった。




