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・・・・ ・ ・ー・・ ・ーー・

[注意]この先暫く、残酷な描写が続きます。ある程度和らげての表現としますが、ご注意ください。

 ディスクロムが姿をくらまし、ケインが意識を失って少しした頃、木々の隙間から、ナヴィたちを囲むように、わらわらと人影が現れ始めた。

 その人影は、冒険者たちのものではあったのだが、どういう訳か、冒険者たちに混ざって、甲冑を着込んだ騎士のような者もいた。

 そして彼らは、ナヴィたちから一定の距離を開けるようにして、その足を止めた。



「初めまして、不抜の旅人……いえ、裏切り者の皆さん」



 騎士の格好をした者のうち、一際豪華な装いをした男が前に出てくる。

 ナヴィたちは、気を失ったケインを守るように囲うと、包囲網を張った冒険者たちの方を向き、戦う姿勢を取った。



「……おや?聞いていた話とは人数が違うな。それに、件の少女も居なければ、そちらの青年は気絶しているご様子……我々が来る前に、何かあったようだな?」

「……例えあったとして、貴方たちに言う必要はないわ!」



 ナヴィが叱咤を飛ばすと同時、極四弾(オールバレット)を放つ。

 それは、少しばかり油断している男に向けて、真っ直ぐ飛んでいく。そして、強烈な一撃となる……ハズだった。



「なっ……!?」



 ナヴィは、目を見開く。ウィルたちも、驚いた表情を見せる。

 ナヴィが放った極四弾(オールバレット)は、男目掛けて飛んでいった。しかし男に被弾する直前、魔力障壁のようなものが現れ、それに触れた途端、極四弾(オールバレット)は霧散してしまったのだ。

 そして、男の方はというと、それが分かっていたかのように、一歩も動いていないどころか、驚いた表情一つ見せていなかった。

 かわりに、冒険者たちが驚いていたが。



「な、なんで……!?」

「ふふふ……これぞ、我が王国の秘密兵器!安息(セーフティ)のスキルを応用し、内側からのスキルを全て霧散させるドームを産み出すのだ!」



 よく見れば、一部の冒険者や騎士たちは、同じ筒のようなものを手にしているのが分かる。

 恐らくそれが、この障壁を作り出しているものなのだろう。



「全て、ですか……では、試してみましょうか」



 イビルは手当たり次第、無差別に光線(レーザー)を放つ。

 しかし、どれだけ撃ち込もうとも、その全ては障壁にぶつかった瞬間、霧散していく。



「す、すげぇ……!全部霧散してやがる……!」

「これなら、俺達でも……!」



 霧散する光線(レーザー)を見て、活気付き始める冒険者たち。

 その様子に、男は納得していた。

 だが、その油断を付くように、一本の矢が男に迫って来た。男は、目の前に飛んできた矢に気がつくと、即座に剣を抜き、矢を弾いた。



「……やっぱりだ。皆!スキルじゃない攻撃なら、あの障壁を越えられる!」

「成る程、そういうことなら任せろ!」



 矢を放ったナーゼが、障壁の突破口を見つけ出す。それを受けたガラルは、金棒を手にすると、距離を詰めるべく駆け出した。

 が、それすらも想定内と言いたいかのように、男は不敵な笑みを浮かべた。



「流石に気がつくか……だが」

「なにっ――ぐぁっ!?」

「ガラル!」



 男が手を上げた瞬間、それを合図と言わんばかりに、冒険者と騎士たちが、一斉にスキルを放つ。

 それらは障壁をすり抜け、ガラル目掛けて一直線に飛んできたのだ。

 ガラルもそれに気づいたのか、急ブレーキをかけ、受けの姿勢を取る。だが、いくつものスキルを同時に食らい、そのままナヴィたちの元まで吹っ飛ばされてしまった。



「ガラル、大丈夫!?」

「オレサマは、問題ねぇよ……んなことより」

「彼らのスキル、確かに障壁に触れたハズなのに、どうして……まさか!?」

「ふふふ……確かに、この障壁は物理的な攻撃は防げん。ですが、最初に言ったハズだ。この障壁は、()()()()のスキルは、全て霧散させると。障壁の外から打たれたスキルは霧散せず、そのまま障壁の中へと入っていくのだ!」

「ナニソレズルじゃん!ヒキョーだぞヒキョー!」

「卑怯?いいや違う。これは戦略だ。敵に反撃させることなく戦う、立派な戦略なのだよ」



 ライアーが捲し立てあげるも、男は何処吹く風のように開き直る。

 ナヴィたちの顔に、僅かに焦りが見える。

 男との距離がある以上、近づいて攻撃するか、スキルで攻撃するしか無い。

 だが、敵に近づくには、無造作に撃たれる相手のスキルを回避し続けなければならず、スキルによる攻撃は、障壁に阻まれ届かない。

 そして、唯一敵に近づけるであろうユアは、先の戦いで片足に手痛い攻撃を受けた。動く、立つ等の動作はできるが、素早く動くことは難しいだろう。


 つまりこの状況は、非常に不味いということだ。



「さて、先ほどは聞きそびれてしまったな。無駄な抵抗は止めて、今すぐ投降しろ。裏切り者に添う者たちよ。大人しく投降すると言うなら、お前たちは悪いようにはしない。最も、そこの男は死刑に処されるだろうがな」



 勝利を確信し、男が下衆な笑みを浮かべる。

 いや、実際には普通の笑みだったのだが、今のナヴィたちには、そのように見えていた。

 そして、その問いに対するナヴィたちの返答は――



『断るっ!』



 であった。

 当然だ。確かに、危機的状況ではある。だが、その程度で、ケインを裏切るような真似はしない。最も、彼女たちにはする気も無いのだが。

 その答えを聞いた男は、深くため息をつくと、右手を上げた。



「……そうか、ならば仕方ない。――撃てぃ!」

「っ、皆!迎撃するわよ!」



 男が右手を振り下ろすと同時、冒険者と騎士たちが、一斉にスキルによる攻撃を仕掛ける。

 勿論、全員が撃ってきているわけではないが、それでも、恐ろしい状況ではあった。

 対するナヴィたちも、向かってくるスキルに向けて、こちらもスキルを放って対抗する。

 スキル同士がぶつかり合い、爆発したり、相殺したりする。だが、全てを捌くには、あまりにも人数差がありすぎた。



「ぐうっ……なんのこれしきっ……!」



 ケインを守るように固まっているため、回避という手を取れないナヴィたち。

 反撃に転じようにも、その余裕が無く、防戦一方になっていた。

 その中でも、ウィルは人一番焦りを感じていた。

 元より、ウィルが持つスキルは、攻撃力やサポート能力はあれど、スキル同士の撃ち合いにあまり向いているとは言えない。

 今も、水刃ではなく、(ウォーター)を水質操作で広げ、それで攻撃を抑え込んでいる状態である。

 それでも十分ではあるのだが、やはり反撃する一手が無いのは、少しばかり悔しいと感じてしまっていた。



(私も、何か反撃する手があれば……!)



 ウィルがそう思った時、ある日の光景が、ウィルの頭をよぎる。

 その日、ウィルは――



(……そうですわ。あの日、確かに受け取っていた!この状況を打破するための一手を!)


「皆様!今この時だけで構いません!私に賭けて下さいませんか!?」

「ウィル……?何か策があるのね?」

「はい!……ただ、初めて使いますし、なにより成功するかも五分五分ですが……それでも!」

「ウィル、それ以上は言わなくても良いわ。私たちは、貴方に賭ける!」



 ナヴィたちは頷きあうと、一斉に攻撃の手を止めた。

 その結果、全ての攻撃が、ナヴィたち目掛けて飛来してくる。



「どうした!?今さら諦めでもしたか!?」



 男が、勝ち誇ったような叫びを放つ。

 だが、等の本人たちは、諦めたような顔色ではなかった。寧ろ、たった一人を信頼する目をしていた。

 そして、その一人――ウィルは、ただ一人、前に出た。



(まさか、初めて使う場が、こんな状況で……しかも、こんな数を相手にするなんて……でもっ!)


「信頼を、裏切るわけにはいきませんわ!〝反射(リフレクト)〟っ!」

「何っ!?」



 ウィルがそう叫んだ瞬間、ウィルを中心として、レンズのような障壁が展開される。

 それに、スキルがぶつかった瞬間、まるで地面にボールをぶつけたかのようにスキルが反射し、スキルを放った者たち目掛け、襲い掛かった。

 しかし、残念なことに、それらは障壁に阻まれ、届くことは無かった。



「や、やった……!上手くいきましたわ!」

「まさか、スキルを弾くスキルを持っていたとは……だがっ!」

「――っ!」



 彼らはスキルが弾き返されたことに驚きを見せるも、障壁に阻まれたところを見て、再び攻撃を開始する。

 ウィルも同じく、再び反射(リフレクト)を展開し、スキルを弾き返していく。

 だが今度は、休む暇もなく連続して放ってくる。ウィルの額に、次第に汗が流れ始めた。



(不味いですわ……!流石に、この量を弾き続けるのは……!)


「どうやら、すでに魔力も無くなって来ているようだな」

「――っ!」



 反射(リフレクト)は、スキルを弾くスキル。

 原理としては反撃(カウンター)と同じだが、魔力消費はこちらの方が激しい。しかも、この物量。

 男の言う通り、ウィルの魔力は、すでに空になりつつあった。



「何をするのかと思えば、ただの一時凌ぎに過ぎないこと……分からんな。お前たちは、何故その男に固執する?メドューサを庇い、世界を欺き続けたような男に、なんの価値がある?」

「固執……?価値……?何も知らないくせに、ケインを悪く言われる筋合いはないわ!」


「何も知らない?いいや知っているさ。その男は、デュートライゼルを滅ぼしたメドューサを庇い、世界を欺き続けた極悪人だ!」


 ……


「それがっ!違うと言っているんですわ!」


 ……ン


「何が違う?メドューサはランクSのモンスター!その脅威は、我々騎士団でもよく知っている!ましてやそいつは、国一つ滅ぼすような存在!それを庇っている時点で、そいつは人類を裏切っているのと同義だ!」


 ……クン


「違う!メリアは、そんな子じゃない!」



 ……ドクン



「いいや違わない!お前らがどれだけ戯れ言を言おうが、それが世界の認識だ!お前らの言葉など、なんの意味も価値もない!」



 ドクン!



「メドューサの討伐こそが、世界の総意!その男は、世界を裏切った愚か者!そして、その男に毒されてしまったお前たちは、もはや救いようのない存在になった!今ここで粛清し、世界に我々の名を轟かせてや―――」


















 グシャッ


















「……え?」



 誰かが、そう呟いた。

 攻撃する手が止まり、静寂が訪れる。


 冒険者たちも、騎士たちも、ナヴィたちも。

 全員同じような顔になり、直前に取っていた体勢と、口を開いた状態のまま、ただ動けなくなった。



 その目線の先には、一人の男がいた。

 先ほどまで、冒険者や騎士の前に出て、ナヴィたちに語りかけていた男だ。

 彼は、騎士団のリーダーである。己の信念を貫き通し、仲間からの信頼も厚い男だった。

 そんな男が――いや、()()()()()()()、そこに立ち竦んでいた。

 その頭は、まるで粘土をこねたかのように握り潰され、肉を切るように刻まれていた。

 砕けた骨がつき出し、血が流れ出ている。


 その場に居た全員が、何が起きたのか理解する暇もなく、男は突然、死んだのだ。



 そして、最初に()()に気がついたのは、男の背後に立っていた男だった。

 その男の顔は、みるみるうちに青ざめていき、その顔は、次第に横へ次々と伝染していく。

 ナヴィたちは、その理由が分からなかったが、男だったものが倒れた時、その理由を理解した。



 男の後ろには、ケインがいた。

 自分たちの後ろで、横になっていたハズのケインが、右手をつき出すような体勢で、そこに立っていたのだ。

 ナヴィたちは混乱した。


 何故、ケインがあそこに居るのか。

 何故、男が死んだのか。

 何故、彼らは顔を青ざめさせているのか。


 頭の中で困惑する彼女たちだったが、ケインが突き出した右手をダランと下げた瞬間、そんな困惑は全て吹き飛び、息を詰まらせた。



『……っ!?』



 肘から指先にかけて、痛々しいような刺と共に広がる、僅かに鮮血で濡れた白い鱗。

 指先には、乳白色に伸びる、鮮血滴る鉤爪。

 ケインの右腕には、あるハズの無いものがあった。

 それはまるで――



「わたしの……ドラゴンの腕……!?」



 ……男たちは三つ、大きな勘違いをしていた。

 一つ。彼らは、メリアを絶対的な悪だと思っていたこと。

 メリアこそが真の悪だと信じ、そのように立ち振る舞った。

 二つ。彼らは、ケインのことを裏切り者だと思っていたこと。

 ケインはメドューサを庇う裏切り者だと信じ、それに寄り添うナヴィたちも裏切り者だとした。


 そして三つ。ケインを、ただの人間だと思い込んでいたこと。

 いくらケインがAランク冒険者と言えど、所詮は人間。一人で何かを成すには、あまりにも力不足。だからこそ、せせこましく仲間を集めていたのだと、そう思い込んでいた。



「う………………ぁっ……………」



 だが、それは全て違う。

 真に警戒しなければいけなかったのは、ケインだった。

 ケインを警戒し、発言にも気をつけなければならなかった。



「グゥ…………あ、…………ァあっ………………」



 ディスクロムは、メリアの村の伝承を、間違ったものだと嘲笑った。

 確かに、その通りだったのかも知れない。ディスクロムの目的は、あくまでも世界を救うことなのだから。

 だが、その伝承は、何もメリアのことを指していたわけでない、と解釈すればどうだろうか。



「ぐァ………………ウ、グぅゥ……………………ッ!」



 だが、今さらそれらに気が付いたところで、もはや手遅れ。

 すでに、賽は投げられた。



「グぅ、あ、アぁぁぁぁァァぁぁアァァァぁァぁぁぁァァァァぁぁぁァァァァぁァァァァァァァァぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッ!!!」



 ()()()()()()()()が今、この世界に、その産声を上げた。







     EPISODE 319




     WARNING

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