31 勇者の末裔
「フヒヒッ、感動で言葉もでないか!そうだろうそうだろう!なにせ、このボクに嫁ぐ事ができるんだからねぇ!」
なにほざいてんだコイツは。
周りを見ろ周りを。
青筋浮かべたヤツとか、ドン引きしてるヤツとかいっぱいいるぞ。
ちなみにメリア達はというと…
「なにコイツ…キモッ…」
「おぇ…ぅぷっ…」
ナヴィは顔が真っ青になり、メリアに至ってはその気持ち悪さに吐き気を起こしてる。
…頼むから俺の背中に吐くのだけは止めてね?
「安心したまえ!君達はボクのそばにいれば一生幸せでいられるんだ。ボクという最高の存在と共に、人生を歩めるのだからねぇ!」
そして、コイツもコイツでうるせぇ。
さっきから誰の心にも、耳にすらも届いてない汚い言葉を出すんじゃない。
当の本人はメリア達が感動していると勘違いして熱演してるし、一緒に来た騎士みたいな奴等の一部はうんうんと頷いてるし。
お前らの目は節穴か?
だが、誰も止めようとしない。
というよりは、気持ち悪すぎて近寄りたくないのと、わざわざ関わりあいたくないという気持ちが見える。
そりゃあ分かるよ。
でも、コイツは俺の仲間に手を出している。
関わりあいたくなくても、関わざるを得ない。
だから、俺は一歩前にでた。
「君達には最高級のドレスを「さっきから黙って聞いてりゃ好き放題言いやがって…!」…なんだい?折角このボクがより感動させてあげているというのに」
「どこがだ!一方的に言ってるだけじゃねぇか!」
「はぁ…お前のような愚民に話しかけてるんじゃ無いんだ。それに、彼女らの邪魔になっているだろう?さっさとどきたまえ」
ピキッ
「そもそもなぁんでお前みたいな薄汚いゴミが彼女達と一緒にいるんだい?」
ブチッ
「お前…!」
「君達も、こーんなゴミに構ってないで、こっちに来なよ。一緒に幸せに」
ゴォウッ!
刹那、爆音と共に、とてつもない風が吹き荒れた。
放たれた風の弾は男を霞め、後ろにいた騎士達を薙ぎ倒し、余波で俺を除く、その場の全員が地に叩きつけられた。
「だ、誰だ!ボクに向かってきたヤツは!」
なぜか膝をつく程度だった男が、イラつくように叫ぶ。
自分に向かって攻撃をしてきた事が腹立たしいようだ。
そんなに男を他所に、風を打ち出した犯人達が、俺の前にでる。
メリアとナヴィだ。
「んお?おぉ!無事だったのか!それに、ボクを心配して「んなわけねーだろバーカ!」…え?」
心配されるのは当然だと言わんばかりに、なぜか動揺する男を他所に、ナヴィはおろか、メリアも男を捲し立てる。
「さっきから気持ち悪いのよ!お前の言葉も声も!聞いてて吐き気がするわ!」
「それにっ、ケインのっ、悪口いっぱい言った…!許、さない…!」
「な、なな、誰に向かってそんな口を叩いていると思ってるんだ!」
「「知らないし、知る気も無いっ!」」
「な、なら教えてやる!ボクは由緒正しきゲーズヴァル家の長男で…勇者の末裔である、ユッドディ様だ!」
そう名乗った男は、懐から剣が交差しているように見える勲章のようなものを取り出し、見せつけてきた。
それを見た受付嬢の「うそ…ほん、もの…!?」の一言で、辺りが戦慄と恐怖で顔を歪ませる。
そんな中俺は、一瞬顔を曇らせた。
別に臆した訳ではないのだが…
こんなヤツが、勇者の末裔だって?ありえない。
こんな権力を振り回すようなヤツが、トップだったのか?
そんな俺とは違い、メリア達は一才の戸惑いもなく攻め立てる。
「勇者の末裔ィ?だからなによ?」
「…は?いやいや、勇者の末裔だよ?」
「だから、なに?」
「なにって、ボクがここのトップなんだから、ボクにひれ伏すのは当然だろぉ!?」
「「はぁぁぁ!?」」
「呆れた、こーんなヤツがトップだなんて」
「はぇ?」
「うげぇ…やっぱ気持ち悪ぅ…」
「大丈夫か?ボクが見てや「メリアに触れるなぁぁぁぁ!!!!」ろぉぉぉぶふぁがぁぁぁ!?」
メリアの吐き気が自分のせいだとは微塵も思っていない男が、ナヴィの空気弾をまともに食らい、今度こそ地に叩きつけられる。
それを見た兵士達がナヴィを取り押さえるべく動こうとしたが、起き上がることはできなかった。
メリアが防壁で押さえていたからだ。
「はぁ…はぁ…しっつこいわ…コイツ…」
「なんな、の…ほんと、に…」
「二人とも大丈夫?」
「えぇ、精神以外は別「なぜだぁぁぁ!!」うっさい!」
「なぜだなぜだなぜだ!どうしてボクを攻撃するんだ!?ボクは勇者の末裔なんだぞ!?」
まだ言うのかコイツは…
「それにそこのゴミ!誰の許可を得てボクの彼女達に触っ「「あぁ!?」」ヒィッ!?」
メリアとナヴィの怒りのこもった声が、男を怯ませる。
「ケインは、ケイン…!ゴミなんかじゃ、ない…!」
「そもそも、アンタに興味なんて起きやしないし、アンタの物じゃない!」
「えぅ、あっ、」
「「分かったら、さっさと消えろ!」」
「ゥヒィィィ!?」
男はあまりの腱膜に、怯えてギルドを出ていった。
メリアから解放された騎士達も、その後に続く。
残された俺達は、周りを見た。
損傷も荒らされた形跡はなく、ただただ俺達を見る目が恐ろしく嫌なものだった。
だから、俺達はなにも言わず、静かにその場を立ち去った。




