313 存在理由(レーゾンデートル) ②
えぇ……まず始めに一言。
約一ヶ月、無言で更新を止めていて本当にすみませんでした。
理由は色々とあるのですが……長々と話すのもあれなのでやめておきます。かわりに、リザイアが土下座します。
リ「何故!?」
では本編、どうぞ。
「出やがったな……化け物!」
その一言が、ケイン達に現実を突き付ける。
元より、ケイン達は覚悟していた。だが、実際にその事実を受け入れるには、あまりにも唐突過ぎることだった。
そして、誰よりもそれを恐れていたメリアは、その顔色を一瞬のうちに青ざめさせていた。
「あ、あぁ、あぁぁ……」
「メリア!?しっかりしてくださいまし!」
「や、あっ、やっ……!?」
ウィルの呼び掛けも、メリアに届いている様子はなく、過呼吸を起こしている。
その反応は、まさしく異常なものだった。
しかし、それで相手が悠長に待ってくれる訳がない。
冒険者達は各々の武器を構えると、臨戦態勢を取り、こちらに駆け出そうとしてきていた。
「とにかく、少しでも時間をかせ――」
「させると思いまして?」
『ぐわっ!?』
冒険者達の頭上から、光線が飛来し、後方へ吹き飛ばされる。光線が着弾した場所は一瞬で焼かれ、焦げた土だけが見えていた。
そして、光線を放ったイビルは、ただ冷たい目で冒険者達を見ていた。
「……ちっ、もう少し踏み込んでいたなら殺せていたものを……」
「……イビル?」
「いえ、なんでもありません。それよりどういたしますか?やはり殺しておく方が良いかと」
「いや、今は一刻も早くここを離れたい。ユア!」
「了解致しました」
「……」
「まっ、待てっ……!」
冒険者達の叫びも虚しく、ケイン達の姿が霞んでいく。
そうして姿が見えなくなってから数分後、増援の冒険者達がやって来た。
彼らは、ケイン達と対峙した冒険者から事情を聞き、ケイン達が現れ、そして消えたであろう方角に向かおうとする。
そんな時だった。その軍団が到着したのは。
「すまない、少しばかり進軍を待ってはくれないだろうか?」
「な、なんだあんたらは……」
「我々は――」
*
「メリア……!しっかり!」
「うぅ、あ、ぅあ……っ!」
まるで、何かにうなされているかのように譫言を言い続けるメリアをガラルが背負い、ケイン達は朝方に居た湖を目指し、元来た道を戻っていた。
メリアは以前落ち着いた様子はなく、呼吸もままならず、顔色も悪い。誰の目から見ても、異常事態なのは明らかだった。
そんな中、イビルはケインの隣に並ぶと、少しだけ険しい表情をケインに向けた。
「……ケイン様、何故彼らを見逃したのですか?」
「……」
「私としても、ケイン様に苦言を呈するのは気乗りしませんが……ケイン様、今の貴方には、覚悟が足りません。〝人を殺める〟という、非情な覚悟が」
「……」
「別に、私のように嬉々として殺せ、とは申しません。今のように、逃げることも間違いである、とも申しません。ですが、貴方の大切なものを守るという意思、そこに他人を殺める覚悟が無ければ、この先その意思を貫く事など出来はしません」
「……そう、だな」
ケインとしても、覚悟がなかった訳ではない。
だが、いざその状況に陥った時、突然の事による困惑と、これまで大切にしていた人としての在り方が、ケインの覚悟を意図も容易く鈍らせた。
イビルは、そんなケインの心を見透かしてか、あえて蔑むような視線を向けていた。
一応弁明しておくが、ケインの抱いた感情と、その行動は、人間としては正常である。
「う、うぁっ……あぁぁぁっ!」
「メ、メリ――っ!?」
突然、それまで譫言を呟いていただけのメリアが咆哮にも似た叫びを上げる。瞬間、メリアの体から、黒い魔力が衝撃波となって放たれた。
メリアを背負っていたガラルを始め、ケイン達全員を巻き込み、一気にその場から吹き飛ばした。
そして、支えを失ったメリアは、そのまま地面へと落ちた。その身体には、黒い魔力がメリアを縛るかのようにまとわりついていた。
「やっ……!うぐっ、や、ぐっ、あぁぁぁっ!?」
「メ、メリア……っ、何がどうなって……っ!?」
まとわりつた魔力が、メリアを中心として、暴風となって吹き荒れる。
その風圧は凄まじく、近づくことすら困難を極めるほどであった。
「ケ……ケイ……っ!」
「っ、メリア!」
「ケイン!?む、無茶よ!」
暴風に乗り、聞こえてきたその声に、ケインは立ち上がると、メリアの元へと向かって足を踏み出した。
その姿を見たナヴィが静止を促すも、ケインは止まること無く歩みを続ける。
風は、メリアに近づけば近づくほど強くなる。それでも、ケインは進み続け、そして、メリアの元へとたどり着いた。
「メリア!……メリア!」
「うぁっ……ケ、ケイ、ン……」
「メリア!一体なに――」
メリアの元へたどり着き、何があったのかを聞き出そうとするケイン。だがその言葉は、メリアに強く腕を捕まれた事で、最後まで発せられる事はなかった。
ケインは、メリアの顔を見る。その顔は、とても苦しそうで、得体の知らない物を見ているかのような表情をしていた。
メリアに捕まれた腕から、恐怖が伝わってくる。まるで、自分が知らないナニカに、自分が黒く塗り潰されるような、そんな恐怖が。
「ケイ、ン……!おね、がい……!」
だが、メリアの目には、そんな恐怖に負けまいとするような、そんな覚悟が映っていた。
ケインの腕を握る力が強くなる。メリアの心臓が、直接捕まれるように痛む。
それでも、メリアは口を動かす。ケインに、伝えなければいけない事があるのだから。
自分が塗り潰される、その前に。
「お願い……!絶対、私を、見つけ出して……!」
「メリア?何を――」
「うぐっ、あっ、あぁぁぁあぁぁぁっっ!!!」
「なっ――!?」
「っ、ケイン!」
「あァぁぁあァぁァッ!アぁァぁぁぁァァぁァァっッ――!!」
ケインが、メリアの言葉の意味を理解するより早く、メリアの咆哮に合わせ、魔力風がケインを吹き飛ばす。
吹き飛ばされたケインを見て、ナヴィはすぐさまその身を受け止めるべく動き出す。
しかし、ケインの背後に回り、ケインを受け止めたまでは良かったものの、ナヴィごとそのまま地面に叩きつけられた。
そんな二人を気にする様子もなく、メリアの咆哮が強くなる。それに呼応するかのように魔力の風が荒れ狂い、周囲の木々をへし折り、吹き飛ばす。
メリアにまとわりついた魔力は、その量を増やし、やがてメリアを飲み込み、そして、漆黒の光となって放たれた。
「う、うぅ……」
「かはっ……ナヴィ、すまない……」
「わ、私は大丈夫よ。そ、それより……」
「っ、そうだ、メリアは……っ!?」
強く吹き飛ばされたケインだったが、ナヴィが身を呈して受け止めたことで、なんとか大きな怪我を免れることができた。
だが、メリアとの距離は再び空いてしまった。
そう思いながらケインが身体を起こすと、すでに風は止んでいた。
そしてメリアは、ダランと手をぶら下げながら、その場に項垂れたまま立っていた。
「メ、メリア……?」
「……ふぅ」
『――ッ!?』
ケインが、メリアの名を呼ぶ。
だが、メリアはその呼び掛けに反応せず、変わりに一つ、小さく息を漏らした。
その瞬間、ケインは背筋が凍ったかのような寒気に襲われた。ナヴィ達も、似たような感覚に襲われたようだ。
だが、当の本人は、気にする様子もなく顔を上げる。その顔に、笑みを浮かべながら。
「ふっ、ふふふっ……アーハッハッハッ!――あぁ、素晴らしい。この時を、私はずっと待っていた」
「っ……!お前は誰だ……っ!」
ケインは、苦虫を噛み潰したような顔をしながら立ち上がり、メリアに――メリアの姿をしたナニカに向けて、そう叫ぶ。
すると、そのナニカはメリアの顔で、笑みを浮かべる。それは、笑みと呼ぶにはあまりにも不気味で、おぞましいと感じざるを得ない、そんな笑みだった。
「私の名は、ディスクロム。この世界の、救世主である」




