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冒険者のパーティーにモンスターが居るのはおかしいですか?  作者: 華心夢幻
三十三章 運命の分岐点(ターニングポイント)
316/416

310 それぞれの明日

『クソッ……クソッ……!』



 ボロボロになり、激痛の走る身体に鞭を打ちながら、緋龍は逃げるようにして飛んでいた。

 緋龍は、いくら天龍が時間を稼ごうとしても、すぐに追っ手が来ると確信していた。しかし、いくら飛べども追っ手は来ない。

 最初こそ、天龍が稼いでくれているものだと思っていた緋龍だったが、自分が見逃されているという可能性に気づいてから、ただただ苛立ちをあらわにしていた。



『このオレがっ……!龍王であるこのオレがっ!あんな奴らから逃げているだとっ……!ふざけるなっ……!ふざけるなぁっ!』



 現実逃避にも近い叫びをあげ、あてもなく飛び続ける緋龍。

 しかし、先の戦いで傷つき、消耗していた緋龍の速度は、次第に落ち始めていた。



『クソッ……回復する時間も惜しいってのに……!なんかいい餌はねぇのか!?』



 ドラゴンは雑食、というわけでは無いが、基本的には何でも食べる。家畜だろうと、モンスターだろうと、あるいは――人間だろうと。

 そして現在、緋龍が求めているのは、回復にあてられるだけの魔力を含む餌――つまり、人間である。

 そんな緋龍の目前に、町のようなものが現れたのは、単なる偶然であり、必然でもあった。



「なっ……なんだ!?」

「ド、ドラゴンだ!ドラゴンが出たぞー!」

『丁度いい……!貴様ら全員、オレの糧となるがいい!』



 町に降り立った緋龍は、逃げ遅れた男性に食らい付き、そのまま飲み込む。

 その様子を見ていた住民は恐怖し、中には足がすくんでしまった者もいた。それは緋龍にとって、ただ都合のいい餌でしかなかった。

 建物をなぎ倒し、植物を踏み荒し、人々を食らっていく緋龍。


 だがその前に、鎧を身に纏った集団が現れた。



「そこまでだ!赤き龍よ!」

『邪魔だっ!』



 先頭にいた、それなりの大楯を持った男が声を上げる。

 だが緋龍は、そんなことお構い無しと言わんばかりにその集団へと突っ込んでいった。

 その様子を見て、制止するつもりがないことを悟った男は、手にした大楯を構え、後ろに控えていた者たちも、それぞれ武器を握りしめた。



「仕方ない……全員、覚悟を決めろ!」

『おぉっ!!』

「いくぞっ!〝要塞(フォートレス)〟」

『なっ、ぐぁっ!?』



 集団だろうが、お構い無しに食ってやろうとしていた緋龍だったが、突然、男が持った大楯に吸い寄せられるような感覚に襲われる。

 緋龍は違和感こそ覚えたものの、関係なしと言わんばかりに、そのまま食らい付こうと口を開く。

 しかし、男を目前にして、ガァァンッ!という音が鳴り響き、黙視できないなにかに阻まれる。それこそ、壁にぶち当たったような。



「今だ!」

『はっ!うぉぉぉぉ―――っ!』

『がっ!?』



 男が叫ぶと、それに合わせるかのようにして、控えていた者たちが一斉に緋龍に向けて突撃していく。

 傷も癒えておらず、また、なぜか男から離れられずにいる緋龍は、そのまま傷口に武器を刺し込まれていった。



『このっ……クソどもがぁっ!!』

「なっ、ぐはぁっ!?」

『うっ、がぁぁぁぁぁっっ!!』

「何っ……!?」



 しかし、どれだけ傷を負おうと、どれだけ弱っていようと、緋龍はドラゴン。世界最強の生物の一体。

 無理矢理に、無尽蔵に身体を動かし、己に群がる有象無象を蹴散らしていく。

 そして、最後に残った一人――大楯の男をも、緋龍は力任せに突き飛ばした。



「くっ……だが、私は倒れん!」



 突き飛ばされながらも、男はすぐに体勢を立て直すと、再び大楯を構える。

 しかし緋龍は、今度は男一人に狙いを定め、今度こそ噛みちぎらんと言わんばかりに大口を開く。

 だが、その牙が届くことは無かった。



「よく持ちこたえた!後は俺に任せるといい!」

「なっ……!?」



 男の背後から、白銀に輝く剣を手にした少年が現れ、緋龍へと切りかかる。

 振り下ろされた剣は、緋龍の強固な鱗をものともせず、緋龍の顔面を、肉ごと切り刻んだ。



『がはっ!?』

「まだだ!」

『ぐおっ、がっ、あぁっ!?』



 少年は止まること無く翼を、腹を、後ろ足を、次々と切り落としていく。

 緋龍も必死に抵抗するが、少年を捉えることができず、ついには地面に倒れ伏せた。



「最後に言い残すことはあるか?」

『このっ……クソ、野郎がっ……!』

「クソ野郎?違うな」



 少年は、手にした剣を構える。

 そして、愉悦にまみれた笑みを浮かべながら、高らかに声を上げた。



「俺は、この世界の主人公にして勇者!滝沢健也様だ!冥土の土産に、覚えておきなっ!」



 そう言いながら、少年――健也は、手にした聖剣を振り下ろし、緋龍の首を切断する。

 いくら緋龍と言えども、首を切られては生きていられない。

 七龍王の一体、緋龍ファヴニエラは、何を成し遂げることもなく、死んでいった。



「な、なんだと……?うぐっ……!?」

「だ、大丈夫ですか!?〝回復(ヒール)〟!」



 男は健也の元へと向かおうとするが、予想以上のダメージを受けていたのか、よろめき、そのまま片膝をついた。

 そこに、遅れて来たムーたちが現れた。



「んだよ勇者サマよぉ。オレらにも戦わせてくれたって良いじゃねぇか」

「ドラゴン、戦ってみたかった……」

「まぁ、そう言うな。お前たちはそこら辺に倒れてる奴らを助けておけ」

「き、君たちは一体……」



 突然現れた健也たちに、男はただただ困惑する。

 それと同時に回復(ヒール)で癒し終えたのか、ムーが軽く笑みを浮かべると、立ち上がり、そのままシュシュたちの元へと向かっていった。

 そして、男の前に健也が立つ。男も、治してもらった足で立ち、健也と向き合う。



「……この町の住人でない私が言うのもなんだが、ドラゴンを討伐してくれて感謝する」

「気にする必要はない。勇者であるこの俺が、あのような暴挙を許しはしない。それだけのことだ」

「勇者……?まさか貴殿は、噂に聞いていた、あの……」



 男の耳にも、勇者の話は届いていた。

 デュートライゼルを滅ぼした原因と、それに携わったであろう犯人を突き止め、解決のために動いている者がいると。

 男もまさか、自分よりも年下の少年であるとは思ってもいなかったが。



「にしても、さっきのドラゴンを受け止めたスキル。あれは素晴らしいものだった」

「はっ、お褒めに預かり光栄です」

「そこで、だ。お前を、俺の仲間として迎え入れたい」

「私を、ですか?しかしそれでは……」

「部下を見捨てることになる、と?それなら、お前の部下も全員加えても構わない。それならどうだ?」



 男は口を噤んだ。健也の言う通り、男は部下を見捨てることを躊躇っていた。

 だが健也はそれを見抜き、部下を全員連れてきても構わないと言う。

 そこまで言われれば、男に拒否する理由は無くなってしまっていた。

 それに、勇者の仲間になれば、己の目的も達成しやすくなる。それも、断らない理由の一つになっていた。



「……良いでしょう。もう一つだけ条件を飲んでくださるのであれば、我々一同、貴殿らの楯となりましょう」

「決まりだな。えっと……」

「申し遅れました。私はロックスと申します」

「ロックス、それで?もう一つの条件ってのはなんだ?」

「我々は、とある人物を追っているのです。我々が遣えていた主人を殺した者を。貴方には、その者を探し、復讐する手伝いをしていただきたいのです」

「なるほど……良いだろう。それで、探している者の名前は分かっているのか?」

「はい。裏の世界の住人――暗殺者、黒風です」



 *



「……なに?例の集団らしき人影を見たと?」

「はい。遠目だったので、はっきりとしたものではありませんでしたが、恐らく間違いないかと」

「そうか……」



 とある町の冒険者ギルドで、緊急で伝えたいことがあると聞かされていたギルド長は、思わぬ知らせに頭を抱えていた。

 現在、世間を騒がせている事件。その犯人とおぼしき人物の姿を見たとなれば、当然ではあった。



「……それで?彼らは何処へ向かったのだ?」

「正確な場所までは分かりませんが、恐らく、ラデーナの方角かと」

「そうか……分かった。ならこちらから、先んじてラデーナの冒険者ギルドへと報告を飛ばしておこう。お前たち、ご苦労だった」

『はい、失礼します』



 冒険者たちが部屋から出ていったのを確認し、ギルド長は、これから起こるであろう面倒ごとを前にして、机に肩肘を乗せながら大きく息を吐いた。



「はぁ……どうもこうも、全部こいつらのせいだ……」



 そう言いながら、ギルド長は手にした紙に書かれたパーティーの名前――不抜の旅人の名を、恨めかしそうに睨んだ。



 *



 夜、月明かりが照らす湖のほとりを、ケインは一人歩いていた。

 あの後、あの場から離れたケインたちは、人影のない、そこそこ大きな湖へとたどり着いた。

 ケインが重症を負っていたこともあり、今日は無理をせず、明日以降から、また旅を再開することとなったため、その近くで夜営の準備をしていた。


 そして夜、どうにも寝付けなかったケインは、散歩とリハビリがてら、一人で湖のほとりを歩いているのだった。



「……ん?あれは……」



 ほとりに沿うようにして歩いていたケインの前に、一人の人影が現れる。

 その人影は、丁度夜営している場所の対面に位置する場所で、ケインの存在に気づくこと無く佇んでいた。

 だがケインには、その人影に見覚えがあった。

 否、その人影を、見間違えるハズがなかった。

 だからこそ、ケインは彼女に声をかけた。



「よう」

「……っ、ケイン、さん……」



 声をかけられ、ビクッとした表情で、イルミスが返事を返す。

 逆光のせいで表情は分からなかったが、その声色には、驚きと後悔、そして、少しばかりの苦しみが入り交じっていた。

 そんなイルミスの隣に立つように、ケインは移動すると、湖の方を見た。



「……綺麗だな」

「え、えぇ。そう、ですね……ケインさん。その、お体の方は大丈夫なんですか……?」

「大丈夫……って言いたいところだが、全身の至るところが痛いな。……まぁ、お陰さまで寝付けなくなったから、こうして歩いてきた訳なんだが」

「そ、そう、ですか……」



 肩を竦めながら言うケイン。

 だがイルミスは、変わらぬ表情と声色のまま、歯切れの悪い返しをしていた。



「……イルミス」

「は、はい!な、なんでしょうか……?」

「俺は、自分を善人だなんて思っていない。……いや、違うな。()()()()()()()()()()()()()()()。そう思っている」

「……えっ?」

「まぁ、そう思い始めたのは、わりと最近なんだけどな」



 ケインは湖から目を離し、夜空を見上げる。雲と群青だけの夜空が、そこにはあった。



「誰だって、心に悪意を持っている。侮蔑、殺意、貪欲、嫉妬……悪意って言葉だけでも、意味はいくつも存在している。だから、どれだけ善良な心を持っていたとしても、その奥底には、必ず悪意が潜んでいる。俺だって、その一人だ」

「そんな……でも、ケインさんは……」

「忘れたのか?メリアのこと」

「あっ……」

「まっ、そういうことだ。誰だって、自分の犯した過ちや悪行を認めることは難しい。でも、そこから目を逸らして生きていくのはもっと難しい。……一人ならな」

「……え?」

「イルミス。今お前がなにを思っているのか、俺には分からない。だが、一人で悩む必要なんてない。俺が――俺達が、側にいるんだからな」

「……ふふっ。そこは「俺が」で良いと思いますけれどね」

「そうか?……あぁいや、確かにそうかもしれないな」

「ふふっ……締まらないですね」

「……そうだな」



 イルミスの顔に、笑顔が戻ってくる。それを見たケインも、軽い笑みを浮かべた。

 そうして、少しの間が空いた後、イルミスはケインの方を向き、重い口をようやく開いた。



「……わたしは、酷い女です。これまで、何度も気づく機会はあったはずなのに、こんな形で……ケインさんを失いかけて、ようやくこの気持ちに気がつくなんて……本当に、酷いものですね……」

「……」

「ケインさん。わたしは、貴方のことが好きです。ただ真っ直ぐに、自分の中の理想を目指して突き進む貴方の姿に、わたしはいつの間にか、心惹かれていたみたいです。……なんて、迷惑なだけ……ですよね」

「……イルミス」

「……はい。なんでしょ――んむっ!?」



 それは、不意打ちのようなキスだった。

 イルミスの言葉を遮るように、イルミスの不安を受け止めるように、その行為自体が答えだと言うように、ケインはイルミスの唇を塞ぐようにキスをしてきたのだ。

 時間にすれば、たった数秒のキス。だが、不意を付かれたイルミスは、まるで何時間もそうされていたかのような錯覚に見舞われた。



「ぷはっ……あっ、ぇっ……?」



 頬が熱くなるのを感じながら、ケインを見つめるイルミス。

 そこには、自分からしてきたのにも関わらず、なぜか顔を真っ赤に染めたケインがいた。



「……イルミス」

「は、はい!?」

「俺は、お前が思ってくれているような、綺麗なだけの人間じゃない。この先、この手が汚れない保証なんて、何処にもない。……それでも俺は、お前と一緒に居たい。そう思ってしまっている」

「ケイン、さん……」

「イルミス。こんな俺で良ければ、側にいてくれ。前でも後ろでもなく、俺の隣に。俺も、お前の隣に居続けられるよう、頑張るからさ」

「っ、はい……!」



 ケインが差し出した手を、イルミスは両手で握りしめる。もう離さないと、そう言わんばかりに。


 雲に隠れていた月が晴れ、二人を照らす。

 まるで、祝福するかのように。



「……それにしても、まさかケインさんがこんなにも積極的だったなんて……」

「あぁ……まぁ……その、な?こんな時に言うのも何なんだが……あいつらに無理矢理襲われて、吹っ切れたと言うか……諦めたと言うか……」

「ふふっ、なんですかそれ」

「……悪いかよ」

「いえ、ケインさんらしいなぁ、っと」

「……そうかよ」

「ふふっ」

「……ははっ」



 月明かりに照らされながら、二人は暫し笑いあい、そして、二人並んで歩き始めた。

 皆の待つ場所へ、二人で一緒に。



 *



「ふむ……どうやら、良い結果となったようであるな」



 湖の上で、一人気ままに浮遊していたパンドラは、遠目に見える二人の様子を見て、満足そうに呟いた。



「それにしても、儂の契約者はなんとも罪深い男よのぉ……あれだけの女子(おなご)を率いておりながら落とすとは、なんとまぁ、退屈せぬ男だ」



 少し意地悪そうに、けれど楽しそうに笑うパンドラ。

 だが次の瞬間、パンドラはその顔を真剣なものへと変化させた。

 視界の端、夜営地から少し離れた湖のほとりに現れた人影が、パンドラのことを見つめていたからだ。



「こんな夜中に……いや、こんな夜中だからこそ、一人で会いに来たのか?のう、メリアよ」

「……」



 パンドラはそう言いながら、メリアの方を向く。

 メリアは、表情を変えること無く、ただ真剣な眼差しで、じっとパンドラを見つめていた。

 パンドラは、ひらひらと浮遊しながら移動すると、メリアの側までやってくる。



「それで?儂に何の用だ?ただ会いに来た訳では無いのであろう?」

「貴方に、教えてほしい、ことがあるの」



 *



 人生には、いくつもの分岐点がある。

 その選択次第で、その後の人生は大きく変わる。


 それは、世界も同じこと。


 今日と言う日、運命の分岐点(ターニングポイント)は決した。

 僅かに生まれた小さな希望と、世界を蝕む悪意を残し――


 世界は、滅びの速度を早めた。

これにて三十三章「運命の分岐点(ターニングポイント)」編完結です。


最初、章タイトルは「龍王激震」みたいな感じで考えていました。

が、途中で「なんか違う」と思い始め、そこから暫くは章タイトルを色々と模索し、結果的に仕事中にこのタイトルを思い付くに至りました。


どこかで話した気もしますが、初期の段階ではパンドラ (当時はまだ名無し)と出会い、メリアの呪いを解いてENDを迎える予定だった本作品。

ですが、イビルという存在を思い付いてしまったが為に、その結末を変更する形となりました。

今章は、その変更に至るための重要な分岐点でもあります。


先に宣言しておきましょう。

次章で、その結末の変更、その一部が分かると思います。


では改めて、次回、三十四章もよろしくお願いiイiIiiたTaatatAタtataAsSisISiシsi…………


















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