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冒険者のパーティーにモンスターが居るのはおかしいですか?  作者: 華心夢幻
三十三章 運命の分岐点(ターニングポイント)
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309 ゼロかイチか

「メリア、安息(セーフティ)回復(ヒール)の同時併用、お願いできるかしら?可能な限り、不純物が入らないようにしたいの」

「ん、任せて」



 メリアが安息(セーフティ)を張り、同時に回復(ヒール)をかける。そして、ケインを取り囲むように、メリアたちが位置につく。



「……〝血染めの槍(ブラッディランス)〟」



 ケインの側でしゃがんだナヴィが手を軽く切ると、その手に赤黒い槍を出現させる。

 ナヴィはその槍を小分けするかのように分解すると、針のような、小さな槍として改めて作り直した。

 そして、ナヴィが掌を軽く動かすと、その槍たちはメリアたちの手元へと渡っていった。



「その槍を、右腕に軽く突き刺して。その槍を介せば、私が皆の血を操作できるわ」

「……分かった」

「準備はいい?それじゃあ……いくわよ」



 ナヴィが、ケインの左腕に二本、自身の右腕にも一本、槍を軽く突き刺す。それと同時に、メリアたちも自身に槍を突き刺した。



『……っ!』



 メリアたちの顔が、一瞬苦しみに変わる。

 当然である。誰だって、好き好んで自身に刃を突き刺すようなことはしないからだ。……まぁ、ソルシネアは嬉々として槍を突き刺していたが。

 とはいえ、メリアたちは誰一人としてその槍を抜こうとはしなかった。

 ――ケインを救う、そのための痛みだからこそ、誰一人として弱音を吐くことなく耐えようとしていた。



「……よし」

「っ、これは……!」



 手首と指を動かし、何かを掴もうとするような行動をしていたナヴィが、その手をゆっくりと閉じていく。

 すると、メリアたちが刺した槍から、まるで魔力でできた管を通っていくかのように、鮮血が少しずつケインの元へと集まっていく。

 同じように、ケインに刺した槍のうちの一本からも血が出てくる。

 そして、その血はナヴィの手元で混じり合い、もう一つの槍へと入っていく。



「っ……!」



 ナヴィの額から、汗が流れる。

 それもそのはず、今ナヴィが行っていることは、とてつもない集中力と、繊細な魔力操作が必要となる。

 メリアに次いで、ケインと共に困難を乗り越えてきたナヴィと言えど、ここまで神経を磨り減らすような作業をしたことはない。

 そこに追い討ちをかけるように、蒼龍との戦いで消費した魔力の底が見え始めていた。



「ナヴィ!」

「きゅっ!」

「……!」



 そんなナヴィの背に、レイラとコダマ、ルシアが触れる。その触れた背から、ナヴィに魔力が流れ込んでくる。

 それだけではない。イブやナーゼ、ガラルたちからも、血を介して魔力がナヴィに渡っていく。

 回復(ヒール)を連発し、現在進行形で安息(セーフティ)を張り続けているメリアも、無理をしていることを承知の上で、魔力をナヴィに渡していた。



『ナヴィ ((さま)) (さん)……!』



 メリアたちが、か細い声でナヴィの名を叫ぶ。

 その声が、ナヴィに力を与える。



「はぁぁぁ――っ!」



 魔力を受け取ったナヴィは、それを操血(ブラッド)を扱う魔力に当てつつも、同時にケインへと魔力を明け渡す。

 その魔力は、メリアたち全員の、ケイン復活の願いそのもの。

 それが通じたのかは定かではないが、ケインの顔色が、少しずつ赤色を取り戻していく。


 やがて、メリアたちが突き刺していた槍が霧散し、ナヴィの手元に戻っていく。そして今度は、ケインの中へと入っていった。



「ナ、ナヴィ……?」



 その瞬間、まるで糸が切れた人形のように、ナヴィが地面に崩れ落ちる。

 槍が消え、回復(ヒール)によって傷口の消えたメリアが、ナヴィに声をかける。

 メリアたちの顔色は、少量ながらも血を抜かれた影響で、少し青くなっていた。

 そして、ナヴィにしては珍しく、崩れた体勢で地面に座り込んだまま、ふっとした笑みをメリアに向けた。


 そして、それに呼応するかのように、ケインの指先が、僅かに動いた。



「――っ!ケイン!」



 メリアが、一目散にケインの元へと駆け寄り、その側に座り込む。

 その後を追うように、ウィルたちもそれぞれのペースで、ケインの元へと寄ってきた。



「ケイン……!ケイン!」



 メリアが、その目に涙を浮かばせながら、愛しき人の名を呼ぶ。そんなメリアを宥めるかのように、伸びてきた手が、メリアの頬に触れられた。



「ケイン!?」

「……心配、かけ、たな」



 閉じていた瞳を開け、掠れ掠れの声で、ケインがメリアにそう告げる。メリアは、無意識のうちに、自分の頬に添えられたケインの手に、自分の手を重ねる。

 その瞬間、浮かんでいただけの涙が、溢れるかのように流れ出した。



「うっ……うぁっ、あぁっ……」



 涙を流すメリアを横目に、ケインは優しい笑みを浮かべると、伸ばした手がメリアの頬からずり落ちていく。

 メリアは慌ててその手を押さえようとするが、ただ力が入らなくなっただけであることを察すると、その手を押さえるのではなく、優しく包み、地面に下ろした。



「ケイン……その、大丈夫?」

「大丈夫……って、言いたい、ところ、だが……今は、動くのも、気だるい、かな……」

「そっか……でも、良かった……」



 奇跡とも呼べる光景に、誰もが安堵の声を漏らす。そんな中、ただ一人、外に目をやっていたイビルが、その目を険しいものへと変化させた。



「ケイン様。このイビル、貴方様と再び言葉交わせること、嬉しく思います。そして無礼を承知で申し上げますが、早めにここを発った方がよろしいかと」

「イビル……?」

「先程から、こちらに視線を向け続けている()がおりますので」



 その言葉に、はっとしたナヴィが、視線をそちらに向ける。

 そこにあったのは、恐らく余波によって壊されたであろう村と、そこに住まう人々の姿。そしてその目には、畏怖のようなものが宿っているようにも思えた。



「……確かに、ここから立ち去った方が良さそうね」

「ケイン、肩、貸すよ」

「私も貸しますわ」

「すまない……メリア、ウィル……」



 メリアとウィルに肩を借り、ケインたちはその場を後にする。その際、蒼龍と天龍、邪龍が残した魔石やその他諸々を、レイラが回収していく。

 だがそれを、村人たちが追う様子はない。

 ユアの気配遮断によって、徐々に気配を薄れさせていったからだ。

 そうして、ケインたちはその場から姿を消した。

 だが、気配は消せても、そこにいるという事実は変わらない。

 ケインたちは、最後の最後まで、冷たい視線を背に受けていた。

 そして――



「な、なぁ……あれって……」

「多分……間違いない」

「なら、早く報告に……」



 偶然その村にいた彼らもまた、村を背に、森の中へと消えていった。

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