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冒険者のパーティーにモンスターが居るのはおかしいですか?  作者: 華心夢幻
三十三章 運命の分岐点(ターニングポイント)
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308 生死の狭間 ⑤

「……それなら、私の血を、ケインに、分けてあげてください」

「イルミス……?」



 少女――イルミスは、疲弊しきったような顔色を見せ、ナヴィに肩を借りながらそう言った。

 ナーゼは、突然のそれに対応できず、ただイルミスの名前を呼ぶことしかできなかった。



「血が足りなくて、他の誰かから分けて貰うしか、無いんですよね?それなら、私の血をいくらでも使ってください」

「い、いやそれは――」

「成程、その手がありましたか。では、わたしの血もケイン様に捧げましょう」

「――へっ?」

「驚くことなどありません。わたしとて、ケイン様を失いたくは無いのです。それに……ケイン様の中でわたしの因子が生き続けることを想像しただけで……ふふふっ……」

「わ、私もっ……私も、ケインに血を……!」

「では、私も」

「イブも!」

「もちろん、(わたくし)もですわ!」

「皆さん……」

「だ、駄目だ!」



 イルミスの後に続くように、イビル、メリア、ユア、イブ、ウィル……と、次々と声を上げていく。

 だが、そんな空気に待ったをかける者がいた。

 ナーゼである。



「イルミスも皆も、今自分たちがなにを言っているのか分かっているのかい!?」

「当然分かっていますわ。これが、ケイン様を救う回答であると――」

「いいや分かってない!血は、人によって流れている血の種類が違うんだ!だから、同じ種類の血でないと、血の中の抗体が壊れてしまう!そうなってしまえば、血は死んだも同然……今君たちが行おうとしているのは、ケインの死を早めようとしている行為だ!それでもまだ、血を分けたいと言うのかい!?」

『……っ!』



 ナーゼの叫びに、全員が口を噤む。

 今この場において、ナーゼ以上に人体について知る者はいない。そのナーゼが、真っ向から対立してきているのだ。黙ってしまうのも無理はなかった。

 だが、そんなナーゼを前にして、一歩も引かない姿勢を見せる少女がいた。



「例えそうだとしても、わたしはやるわよ」

「……アリス」



 アリスは、ナーゼの、ケインの側に寄ると、その場に座り込む。そして、ケインの肌に触れた。



「ナーゼ。貴方は、わたしの反対を前にしても、自分の意思を貫き通し、そして、ケインを治してみせた。だから、今度はわたしたちの番」



 アリスは、ケインから手を離し、ナーゼを真っ直ぐとした目で見る。

 先程、ナーゼが見せたような、確固たる意思を持った目を。



「ナーゼ、わたしたちが貴方を信じたように、今度は貴方がわたしたちを信じて欲しい。貴方が繋いだこの命、絶対に救ってみせるから」

「っ……!」



 その言葉が、ナーゼの心を強く揺さぶる。何せ、ナーゼは先程、周囲の反対を押し切ってまで、自分の成すべきことをやり遂げたのだから。

 ナーゼは暫し唖然とした表情を見せた後、右手で髪を少しだけわしゃわしゃとさせた。



「……ああもぅっ……!そんなこと言われたら、否定しづらくなるじゃん……!」

「それじゃあ……」

「ただし、条件がある!」

「……条件?」



 ナーゼは、アリスを指差しながら、条件を求めてくる。

 そして、その指差した手を広げ、今度は強く握りしめた。



「ボクの血も使うことだよ。ボクだって、不抜の旅人の一員なんだ。君たちを信じて、ボクはもう一度、この道を踏み外そう」

「ナーゼ……」



 アリスは、ナーゼと再び見つめ合う。

 そこに、先までの拒絶にも似た必死さは無く、かわりに、信頼を思わせる覚悟があった。

 アリスは、ふっと笑みを浮かべる。特に理由があるわけでもなく、ただ純粋に、嬉しかったのだ。



「……なら、オレサマたちの血も、使ってくれや」



 そんな声が聞こえたのも、その時だった。

 アリスとナーゼは、声のした方に顔を向ける。

 そこには、よろよろとしながらも、互いに支え合いながら立つガラルたちの姿があった。



「でも、そんなフラフラとした状態で、血を抜いたりなんかしたら……」

「問題ねぇよ。そもそも、オレサマたちが、こんなんになってんのは、ご主人サマとの繋がりが、弱ってるからだ。身体自体は、健康体そのもの、ってワケだ」

「妾たちは、ご主人に命を預けておる。例え、このようなザマであろうと、命を賭けてでも救おうとするのは、当然のことじゃろう?」

「ソルとしてハ……はぁはぁ……もうチョット、この……んんっ……苦しさ二、浸ってタイ、ケド……ぁんっ……!」

「……いや、フツーに気持ちワルイし……やんならちょっぱやでヨロ~……」



 若干一名、変なことを言っているが、アリスたちは気にしない。……というより、もはや見慣れ過ぎていて、関わるだけ無駄だと思っているだけなのだが。

 それに、無視をしたとしても、それはそれで興奮しているのだ。その結果、全員が完全に匙を投げ、好きなようにさせていた。



「……後は、どうやって血を輸血するかだけど……」

「それは、私がやるわ」

「できるんだね?」

「えぇ。私の操血(ブラッド)を介せば、問題なく輸血できるわ。……と言っても、今の私の魔力で足りるかどうか……」

「なら、イブのまりょくをわけてあげます!」

「私も!もう死んじゃってるから、血は分けてあげられないけど、魔力ならどうにかできるよ!」

「くぅ!」

「……!」

「……分かった。それじゃあ、お願いするわね」



 ナーゼの顔を見て、ナヴィは強く頷く。

 それを見たナーゼは軽く頷き返しながら立ち上がり、その顔を皆に見せた。



「……そういうことだよ。もし、皆の中に、血を抜くのが怖いって子がいるなら、無理せず言って欲しい……って思ったんだけど、その必要はないみたいだね」

「勿論です。私たちにとって、ケインさんはかけがえのない存在なのですから」

「ふっ、迷う理由などない。我の全てを受け止めてくれたケインに報いるのは当然であろう?……まぁ、ちょっと怖いけど……」

「あ、あはは……」



 ナーゼは少しだけ苦笑する。良い意味で、緊張感が柔らいでいた。けれど、緊張感を失ったわけではない。


 ナーゼたちにとって、二度目の賭け。

 失うか、取り戻すか。


 今再び、賽は投げられようとしていた。

血液型の違う血を輸血するのは、本当に危険なのでやめましょう

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