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冒険者のパーティーにモンスターが居るのはおかしいですか?  作者: 華心夢幻
三十三章 運命の分岐点(ターニングポイント)
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305 生死の狭間 ②

「パンドラ!」

「……メリア。お主、大丈夫か?」

「分かんない……でも今は……!」

「……わかった」



 一足先にケインの元へと来ていたパンドラは、駆け寄ってきたメリアに声をかける。

 その顔色は、あまり良いものではなかったが、今のメリアにとっては、ケインの方が心配なのだということが分かる。

 だからこそ、パンドラはそれ以上なにも言わなかった。



「それでパンドラ様、ケインの容態は……?」

「はっきり言って、かなり不味い状況じゃな。儂との繋がりも弱くなっておる。早いとこ処置をしなければ、命の保証は無いの」

「っ……!」

「メリア君、落ち着いて。ボクたちは、そうならないために、ここに来たんだから」

「ナ、ナーゼ……うん、そうだね」

「それでこそメリア君だ。……うん?」

「く、うっ!」

「コ、コダマ!?無事、だったの……!?」

「く、くぅ……」



 ケインの側に落ちていた魔法鞄から、コダマがぽふっ、と息を吐きながら外へと出てきた。

 よくよく見れば、ベルト部分こそ焼けてボロボロになっていたが、肝心の袋の部分は無事だった。

 何故、と一瞬疑問に思うナーゼだったが、今はそれを考えている余裕はない。

 ナーゼは、ケインを心配そうに見つめるコダマの頭をそっと撫でると、優しい声で話しかけた。



「大丈夫。ケインは絶対に治してみせるから」

「くぅ……」

「うん、いい子だね。……それじゃあ、始めるよ」



 ナーゼはコダマに笑顔を見せると、そのままメリアの背後に回り、両腕をメリアの腕にそれぞれ合わせる。そして、手首から先を枝分かれさせ、メリアの手に絡ませた。



精霊族(ボク)の力と、薬師(ボク)が持つ知識で、メリア君の回復(ヒール)を昇華させる。メリア君は、いつもの感覚で、落ち着いて回復(ヒール)に専念して欲しい」

「わかった」

「それじゃあ、いくよ――〝再生〟」



 メリアとナーゼ、二人の魔力が混ざりあい、ケインの体を包み込んでいく。その魔力を受け、ケインの体は、ほんの少しずつではあるが、再生への道を辿り始めた。


 しかし、異変はすぐに訪れた。



「……っ、うっ……!」

「ナ、ナーゼ?大丈夫?」

「ボクのことはいいから、集中、して……!」

「う、うん」



 開始早々、ナーゼの集中力が僅かに乱れ始めていた。その原因は、現在二人が居る位置にある。

 二人が再生を行っている場所は、ケインが倒れた場所――つまり、邪龍のブレスの間中心に位置する場所である。

 周囲はブレスの熱気が残っており、蒸し暑いというレベルではない。

 並の人よりも耐性の強いメリアでも、暑いと感じるこの状況。ナーゼにとっては、地獄のような環境でしかない。

 それでも止めようとしないのは、ナーゼがそれだけ本気になっている、という証拠でもあるのだが。


 とはいえ、このままナーゼの状態が悪くなっては本末転倒。

 大丈夫、と言っておきながら、ナーゼはどうしようかと頭を悩ませていたその時、周囲一帯に、雨が降ってきた。



「これは……?」

「メリア、ナーゼ、パンドラ!」

「ナヴィ君?これは一体……」

「ウィルが水質操作で雨を降らせたの。慣れないことをしているから、相当負担がかかっているみたいだけど……」

「いや、正直助かったよ」



 ナーゼが視線をそちらに向けると、ウィルが青い顔をしながら、なにかをしている様子が写し出された。

 水質操作は、水分さえ含んでいれば、それら全てを操ることができるスキル。それすなわち、天候によって発生する自然現象、その全てを操ることすら可能というものだ。

 とはいえ、それはあくまでも理論上の話。実際にそれを行おうとすれば、今のウィルでは、相当な負担がかかるのは目に見えていた。

 だがウィルは、自身にかかる負担を省みず、こうして雨を降らせている。その甲斐あってか、周囲の熱気は雨が当たることで水蒸気と化していく。

 それは、まるでミストのような役割を果たし、熱気を抑えるだけでなく、呼吸をしやすくしてくれていた。



「ナーゼ、もう平気……?」

「うん、心配かけてごめんね。さぁ、続けるよ」

「んっ……!」



 ナーゼに心配するな、と言われていても、やはり心配だったメリアも、ナーゼの言葉を受けて安堵する。

 そして再び、再生に集中していった。



 ――だが、次なる問題は、すぐにやってきた。



「うぅっ……ま、まだ……」

「くぅっ……これは思ってたより、だいぶ良くないかも……」



 そう、ケインの体が、思っていた以上に再生できていないということだ。

 元々、二人にとって始めての作業であり、馴れるまでは相当な時間を有することは分かりきっていた。

 だが、それを抜きにしても、体の再生速度が遅すぎる。このままでは、はっきり言って間に合わない。薬師として培ってきたナーゼの感覚が、残酷な現実をナーゼ自身に突きつけてきていた。

 それでも、諦めるわけにはいかない。


 故にナーゼは、暗黙の了解を破ることを決意した。



「ユア君!頼みたいことがある!」

「なんでしょう、ナーゼ様」

「ルシア君を、ここに連れてきて欲しい!」

「わかりました、少々お待ちを」



 ナーゼの呼び掛けに応えるように、ユアがその場に現れる。ケイン以外の命令は、緊急性が無ければ受け付けていないユアだったが、この非常事態においては、その限りではない。

 ナーゼからのお願いを受け、ユアは一瞬のうちに動き出す。そして、ユアがルシアを連れて戻ってくるのに、一分とかからなかった。

 連れてこられたルシアは、大分弱っているのか、普段の人形ではなく、スライムの姿に戻り、ユアの腕の中に収まっていた。



「戻りました」

「ありがとう。ルシア君、弱っているところ申し訳ないんだけど、君の力を貸して欲しい」

「……」



 スライムの姿に戻ったルシアは、言葉を発せない。それでも、その体は「いいよ」と言っているかのように震えていた。

 それを見たナーゼは、手の一部を自身の鞄に突っ込むと、空の試験管を一本取り出した。



「お願いしたいのは、スライムの細胞――つまり、君の体の一部を分けて欲しい。弱っている君に酷なことを頼むかもしれないけど、ケインを助けるためには必要なことなんだ」

「……!」



 ルシアは体を震わせて、自身を抱えているユアに訴えかける。ユアもその意味を理解してか、ナーゼの持つ試験管の側にルシアが来るよう移動した。

 そしてルシアは、試験管の口に自身の一部を入れ込むと、そのままその一部を切り離した。



「ありがとう。スライムの細胞……これがあれば、この薬も……」

「待ちなさい、ナーゼ」



 ルシアの細胞を受け取ったナーゼが、鞄からもう一つ、液体の入った試験管を取り出す。

 だが、それを見て、待ったをかけた人物がいた。アリスである。


 ウィルの頑張りも相まって、よくよく見れば、すでに何人かがナーゼたちの側まで来ることができていた。

 残りの数人も、弱っている従魔たちとウィル、そして、そんな従魔たちを浮かせているレイラと、ウィルに肩を貸しているビシャヌだけだ。



「ナーゼ。貴方が今手にしているそれ、まさかアンブロースとは言わないわよね?」

「……そっか。アリス君なら、知っていてもおかしくないよね」

「っ――ナーゼ!貴方、それがどういうものか知っているでしょう!?」

「ア、アリス様、その、アンブロースって……?」



 ナーゼが、手にした薬品がアンブロースであると認めたことに対し、取り乱すアリス。

 だが、ナーゼとアリスを除いた他の面々は、なぜアリスがここまで取り乱しているのか分かっていない。

 だからこそ、イブはアリスに問いただした。

 その問の答えは、アンブロースを知るもう一人の人物――ユアから教えられることとなった。



「……アンブロース。それは、世界的に用いることも、製作することも、その名を関することすら禁じられた薬品……言わば、禁薬です」

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