302 龍帝 ①
今回、微グロ注意
『なにを語りだしたかと思えば、あの人間を好きになっただぁ?失望したぜ。まさかそこまで落ちぶれていたなんてなぁ!』
「落ちぶれているのは貴方たちの方。力に泥酔し、欲望に溺れ、力無き者を害そうとするなど、王としてあるまじき行為。だからこそ、未来ある者たちを守るために――いいえ、わたしの愛する人を傷つけた貴方を、許しはしません」
『あーそうかい、そんなら……テメェも、もうこの世界には必要ねぇ』
邪龍と聖龍。二体の王がにらみ合い、互いの魔力をぶつけ合う。空間が揺れ、草木が騒ぎ、大地が畏怖する。その様子は、まさしく「王」と「王」のぶつかり合いそのものだった。
『おい、いつまでボサッとしてんだテメェら!さっさと構えろ!』
『んなこと言われても、オレはお前みたいにタフじゃねぇんだよ……!』
『そもそも、このような傷を負った状態で戦うのは得策ではありません。ここは一時撤退すべきかと』
『あぁ?……チッ、揃いも揃って使えねぇなぁ!?それでも龍王か!?あぁ!?』
『……んだとテメェ!』
「仲間割れしている暇があるのですか?」
『『『――ッ!?』』』
邪龍が、緋龍と天龍に声をかけるが、二体はまだ受けたダメージが大きいのか、あまり動けないらしい。
その姿を見て、邪龍は二体を酷く罵った。勿論、それを受けた二体が怒りを露にするのは当然のことだった。
故に、イルミスの接近を易々と許してしまった。
「〝竜の伊吹〟」
『チィッ!?舐めるなっ!』
「……遅いですよ」
『ガッ――!?』
イルミスの接近を許し、隙を晒す三体。その隙を逃すまいと、イルミスは邪龍に向けて竜の伊吹を放つ。
邪龍は回避できないと踏み、あえて竜の伊吹を受けながら、腕を伸ばして掴まえようとする。
しかし、イルミスは迫る腕を躱すと、逆に邪龍の首を掴む。そして、再び竜の伊吹を叩き込んだ。
いくら邪龍といえど、ゼロ距離で首に竜の伊吹を撃ち込まれたとあれば、それは致命傷となる。
イルミスは、そんな邪龍に容赦することなく、残る二体に向けて邪龍を投げ飛ばした。
『『なっ――』』
突然の投げ飛ばされた邪龍に、思わず怯む緋龍と天龍。しかし、イルミスは待ったをかけず、容赦なく竜の伊吹を連発する。
二体は、避けようにも邪龍の体に阻まれ上手く動けず、邪龍共々竜の伊吹の雨に撃たれることとなった。
一発一発が、災害級の威力に相当する攻撃。それを、地面に叩きつけられるまでの数秒間、連続して食らう三体。
地面に落ち、攻撃が止んだ後も生きているのは、彼らが龍王だから、としか言いようがない。
『かはっ……くっ、この――』
「――遅い」
『ガッ!?』
イルミスにしては珍しい、酷く低い声。そのイルミスの右腕が、邪龍の首―竜の伊吹を直接受けた部分に突き刺さる。
それは、邪龍が初めて体感した「己の肉体を抉られる」という感触。
龍王となり、自分こそが世界の王だと慢心していた邪龍にとって、初めて味わう屈辱。
イルミスは、突き刺したままの掌を閉じ、そのまま引き抜く。閉じた掌が掴んだ肉片や、付着した血を気にすることなく。
普段のイルミスを知る者からすれば、あまりにも非情とも呼べる行動に、邪龍たちはなんとも言えない表情を向けるしかなかった。
*
イルミスが、邪龍たちと戦う中、イビルは一人、空へと上がっていた。
そして、かろうじて邪龍の巨体が見える位置まで来ると、ある一点を見たまま静止した。
「……さて、覗き見とはずいぶんと余裕そうですね?龍王さん?」
イビルは、何もない空間に向けて、そう言い放つ。
その瞬間、何もなかったはずの空間が、まるで光が屈折するかのようにして歪み――
――煌龍 エルルメントが、その姿を現した。




