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冒険者のパーティーにモンスターが居るのはおかしいですか?  作者: 華心夢幻
三十三章 運命の分岐点(ターニングポイント)
306/413

さn ビャ zEろ

『死ね、人間!』



 ケイン目掛け、黒いブレスが迫り来る。

 先ほどの咆哮の影響は、各々個人差がある。ガラルのように、すぐに持ち直す者もいれば、ウィルのように、持ち直すのに時間がかかる者もいた。

 そしてケインは、前者だった。



(――っ、マズい!)



 ケインの体は、硬直から持ち直し、迫り来るブレスを見た後、即座に回避しようと試みる。

 今の距離であれば、完全に回避することは出来なくても、直撃だけは免れる。仮に貰ったとしても、中心からは外れるので、被害は最小限で抑えられる。

 ケインのこれまでの経験が、無意識のうちにそう判断し、行動に移したのだ。


 とはいえ、蒼龍にトドメを刺そうと駆け出していたのなら、恐らく間に合わなかっただろう。

 そういった意味では、咆哮による制止は、ケインにとっては救いだったとも言えた。


 ――だが、



「――っ!?」



 ケインの体は、再びその動きを止めてしまう。

 まるで、石にでもなってしまったかのように。



 *



「――うっ!?」



 メリアは、突然放たれた咆哮に、思わず息を飲んだ。そして、他の仲間と同じように、体がすくみ、思うように動かなくなってしまった。

 しかし、幸いと言ってもいいのか、メリアは地上の面子としては遠い位置に居たため、硬直が解けるまでの時間は短かった。


 だが、メリアの場合、そこでは終わらなかった。



「……え?」



 突然、メリアの視界が、めまいを起こしたかのようにぐにゃりと歪む。

 色の識別がはっきりとせず、また、距離感や形状も掴めない。

 しかし、それだけでは終わらない。



「ぇあっ、ぐぅっ!?」



 めまいの次は、頭痛が襲いかかってくる。

 まるで頭を両側からえぐられるような痛みが、頭全体を包み込む。

 そして――



『――』

「――っ!?」



 ()()は、突然メリアに語りかけてきた。

 勿論、メリアはその声の主を知らない。どこかで見たこともなければ、聞いたこともない。

 けれどその声は、メリアの不安と恐怖を一気に増大させてきた。

 そして、声が聞こえた瞬間、ほんの一瞬ではあるが、めまいが収まる。

 そのたった一瞬で、メリアは無意識のうちに、ケインの姿をその目に映す。


 ――否、ケインの姿を()()()()()()



「ぇ、あっ……!?」



 メリアがケインを視線に捉えた瞬間、再び視界が歪む。そして、ほんの一瞬、メリアは意識を刈り取られた。

 ――その一瞬に、()()は表に現れた。

 メリアの―否、それの口元が、僅かに上がる。

 そして視線の先―ケインに向けて、無理矢理()()()()()目を使った。

 その瞬間、ケインの動きが止まる。


 それは、目が機能したことを確認すると、白い歯を僅かに見せるような笑みを浮かべながら、メリアに意識を手渡す。

 意識の戻ったメリアが、()()()()()()と、そう錯覚するように……



 *



(なんっ、だこれ、は……っ!?)



 ケインは、突然体が動かなくなったことに困惑する。

 それは、ほんの一瞬のことではあった。しかし、生死を左右するこの状況において、この硬直はあまりにも致命的だった。

 例え、今から回避したとしても、限りなくブレスの中心に近い場所で、ブレスを受けることになる。

 それは、限りなく〝死〟に近い行為だ。


 だからこそ、ケインは考える。どうすればいいのか、何をすれば、生存できる可能性があるのかを。

 そして、ブレスが目前に迫る中、硬直が解けた瞬間、ケインは覚悟を決めた。



(……やるしかない!)



 ケインは、手にしていた二刀に、一気に魔力を流し込む。ケインの魔力を受け、それぞれの刀身が強い輝きを放つ。



双炎斬(クロスファイア)!)



 天華と創烈、二刀の刀身が炎を纏う。

 その炎は、普段のそれよりも強く、激しく燃え上がる。



「うぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁっっ!!!」



 迫り来るブレスに向け、ケインは二刀を振るう。

 ――だが、ケイン渾身の双炎斬(クロスファイア)も、龍王が放つブレスの前では灯火当然。

 当然の如く、ケインはブレスの炎に飲み込まれた。



「ぐっ!?うっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」



 ケインの体が、高熱の炎を受ける。一瞬のうちに火傷を負うも、痛みすら感じる暇もない。

 ――だからこそ、ケインは残った魔力の全てを使い、最後の切り札を切った。



「〝反撃(カウンター)〟ッ!!」



 ()()()()()()()()()()()()()()。それが、反撃(カウンター)の能力。

 故にケインは、この一手に全てを賭けた。


 受けたのは、最強の存在からの一撃(ブレス)

 込めたのは、今ケインが持てる全ての魔力。

 反撃(カウンター)で返す力は双炎斬(クロスファイア)に流れ、それまでブレスに飲まれていた炎が、息を吹き替えす。


 己の主を生かすために、それらはその身をかける。焼けつくような炎に耐え、流れ込む強大な力に耐え、その身に纏った炎を燃え上がらせる。



 そして、閃光と共に、大爆発が巻き起こった。



 *



「「「きゃあぁぁっ!?」」」

『『『ぐぅぅっ!?』』』



 とてつもない熱量を含んだ爆風が、メリア達を襲う。

 爆発は主に上空へ向かっているため、メリア達には実害はほとんど無かったものの、余波で吹き飛ばされてしまう。

 邪龍は爆発のほぼ真上にいたため、爆発の衝撃をもろに受け、二体の龍王と共に吹っ飛んでいた。



「……っ、そんな……」



 爆発が止み、耳や視界が正常に戻りつつある状況で、ナヴィはその惨状の一端を垣間見る。

 爆発が起きた範囲、そこに含まれていた草木は一つ残らず焦土と化し、かなりの火の粉が飛び散ったのか、火事になるほどでは無いにしろ、周囲はところどころ燃えている。

 そして、爆発の側に居た蒼龍は、跡形もなく消え去っていた。

 ――こんな状況で、生きているとは思えない。

 誰しもがそう思い、メリア達は次々と顔を青ざめさせる。


 しかし、爆発によって上がっていた煙が晴れ始めた時、その中心に、小さな人影が現れた。



「っ!ケイン!?」



 レイラのその言葉に反応し、絶望しかけていたメリア達が揃って同じ一点を見つめる。

 まだ煙も強く、はっきりとした姿は見えない。

 それでも、確かにそこに人影があった。

 メリア達は安堵した。


 そして、今度こそ絶望した。



「――ぇっ……?」



 煙が晴れ、ケインの姿が見える。

 服や防具は、そのほとんどが焼け落ち、僅かに残っているのみ。

 露出した肌、その上半身を中心に、痛々しい火傷の痕が全身に広がっている。

 ケインの両手はだらんと下がっており、その足元の地面にに、二刀が突き刺さっていた。


 そして、何よりも――右の腹部、そのほんの一部が――消滅していた。



「あ、やっ、いぁ……っ!」



 叫びにならない声が漏れる。

 息をすることすら忘れ、ただ唖然となる。



「嫌あぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」



 メリアの叫びに呼応するかのように。

 ケインの体は、まるで糸が切れた人形のように、その場に倒れ込んだ。

300 絶望

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