299 天上の挑戦 ③
サブタイの数字表記を変えます
理由:見栄え
『あぁもう、イライラするぜ!』
『……同感です』
「あらあら、そんなにカッカしないでください。龍王さん?」
『『ッ――!!』』
「うふふっ!」
幾度とない挑発を受け、苛立ちを隠せない緋龍と天龍の同時攻撃を、軽々と躱すイビル。
「はぁっ!」
『フンッ!』
ブレスと竜の息吹、互いの技をぶつけ合う邪龍と聖龍。
それぞれの戦いは一歩も引かず……否、一向に進展せず、停滞を繰り返していた。
『……やはり気に食わん。その姿で、それだけの力を持ちながら、なぜ我々の邪魔をする?』
「言ったはずです。わたしは、人間が好き。だからこそ、人間たちを害そうとする貴方たちとは相成れません」
『そのようだな』
お互い、相手の思想に共感できないことを悟り、再びぶつかり合う。
しかし、邪龍は内心で考え込んでいた。
(やはり、この二体を出し抜くのは難しい。しかし、聖龍を正しき道に戻すには、あの人間を殺さねばならん!)
偏った思想は、時に何よりも恐ろしい方向へと動き出す。
しかし、真に恐ろしいのは、当の本人は全く悪びれることなく「それが正しいこと」であると認識していることだ。
そして、邪龍の頭の中で、一つの作戦が浮かび上がった。それを実行するために、邪龍はイルミスにもイビルにも悟られない、独自の方法で、二体の龍王に念話を送りつけた。
【緋龍、天龍。俺が合図をしたら、同時に咆哮を使え】
【あぁ!?んだよそれ!?】
【……何か策があるのですね?】
【そうだ。これが決まれば、聖龍も考えを改めるだろう!】
【蒼龍はどうしますか?】
【あ?……あぁ、アイツには別の役割がある。構う必要など無い】
【そうですか、わかりました】
【……チッ、わかったよ。やりゃあいいんだろやりゃあ】
天龍は即座に、緋龍は納得がいっていないようだが、渋々といった感じで了承した。
それを確認した邪龍は、もう一体の龍王に目線を向けた。
(ふん、手数が多いだけの相手に苦戦するなど、龍王の風上にもおけん。アイツは用済みだな)
邪龍は興味が失せたように蒼龍から目を離すと、三度イルミスと対面する。その顔には、分かりにくいほど邪悪な感情が現れていた。
『最後の通告だ。俺たちの元へと来い。お前の進むべき道は、俺たちの道だ』
「何度でも答えましょう。邪龍、貴方と共に歩むつもりはありません」
『そうか、残念だ。非常に残念だ!』
邪龍はイルミスの意思を確認すると、笑みを浮かべながら下降。緋龍と天龍の側へと降りる。
突然現れた邪龍に、イビルは一瞬だけ考える素振りを見せるも、大したことではないと判断し、纏めて相手する体勢を取ろうとする。
だが、それよりも早く、邪龍の指示が飛んだ。
『やるぞ!』
「っ、何を――」
『『『グォォォォォォォォォォォッッ!』』』
「「――っ!?」」
三体の龍王が、その咆哮に最大級の威圧を乗せ放つ。
その威圧は、龍王であるイルミスでも無効化出来ず、また、先ほどまで優位に立っていたはずのイビルですら、不意打ち、かつ至近距離で受けたがために、その動きを止め、軽く吹き飛ばされてしまった。
さらに、咆哮は地上にも影響を及ぼす。
蒼龍を追い詰め、いざトドメを刺そうとしていたケイン達に、強烈な威圧が襲いかかる。
距離があったため、イルミス達よりは影響が少なかったものの、それでも動きを止めてしまうには十分なものだった。
そして、誰よりも早く次の行動に移ったのは、他でもない、邪龍である。
邪龍は、咆哮を放った体勢のまま、その口内に魔力を集める。その魔力が集約し、全てを滅する黒き炎となる。
邪龍は、炎を含んだその口を、自身の首を、真下に向けた。
『死ね、人間!』
そして、目下の標的―ケインにむけて、邪龍のブレスが放たれた。




