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冒険者のパーティーにモンスターが居るのはおかしいですか?  作者: 華心夢幻
三十三章 運命の分岐点(ターニングポイント)
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297 天上の挑戦 その1

「おっしゃあ!いくぜぇぇぇっ!」



 最初に駆け出したのはガラル。愛用の金棒を手に、蒼龍の懐目掛けて飛び込んでいく。

 だが、地に落ちれど、敵は龍王。そう簡単にはいかない。



『ふんっ!』

「うぉっと!?」



 蒼龍はおもむろに上げた前足を、ガラル目掛けて振り下ろす。力自慢のガラルとあれど、流石にマズいと判断したのか、急停止しそのまま回避する。



「ふぃー、あぶねぇあぶねぇ」

『所詮人間、この程度――グァッ!?』

「いまです!」

『チッ……!?舐めるなっ!』



 ガラルの回避を見て、余裕そうに語ろうとした蒼龍だったが、直後にイブの爆炎が直撃。そして、蒼龍が怯んだ隙に、ケインとユア、アリスが追撃を仕掛ける。

 だが、蒼龍もただではやられない。

 ボロボロになった翼を、体を覆うように閉じ、三人の攻撃を受け止める。

 そして、そのまま勢いよく翼を広げ、三人を飛ばしつつ、強風で他の追撃を阻んだ。



「っ、と……流石は龍王なだけはある」

『数だけは立派な貴方たちに言われる筋合いはありませんがねっ!』

「させっかよっ!」



 蒼龍が尻尾を使ったなぎ払いを繰り出すが、そこに鬼人としての姿を解放したガラルが割り込む。そして、迫り来る尻尾を鷲掴みにした。



「ぐぅぅぅぅぅっ!?」

『……何っ!?』

「はっ!どうよ龍王サン?」

『貴様……ッ!』



 足を地面にめり込ませ、踏ん張りを見せるガラル。その踏ん張りが功を奏し、蒼龍の攻撃を止めることに成功した。

 しかし、あくまでも尻尾によるなぎ払いを止めただけに過ぎない。蒼龍は体勢を変えると、そのままガラルを前足で踏み潰そうとする。

 だが、蒼龍の目線の裏に、一つの影が現れる。



「隙ありじゃ!」

『なっ……!?』



 蒼龍の背後から、重なりあった糸がまるで投網のように広がり、蒼龍を捕える。

 振り下ろそうとした前足は糸に絡まり、体も一方行に引っ張られる。

 その先に居るのは、アラクネとしての姿を解放したベイシアである。



『ぐっ……ですが、この程度で止まると思わないで欲しいですねっ!』

「っ……!そのくらい、承知の上じゃ!」

「だから、『ベーちんが勝つ』!」

『何っ!?』



 ベイシアの糸を引きちぎろうと、蒼龍が動く。

 アラクネも力がある方のモンスターではあるが、ドラゴンと比べればその比は歴然。そのため、ベイシアが一方的に引っ張られる形になる――はずだった。

 しかし、いくら蒼龍が動いても、中々引きちぎれない。それどころか、動くことすらままならない。

 蒼龍にとって、アラクネに力比べで負けるなど、前代未聞の出来事であった。


 ただ、これはベイシアの力が蒼龍を上回ったが故の出来事ではない。むしろ、ベイシアには蒼龍を引き留めるだけの力はない。

 では何故引き留められているのか。

 その答えは、ライアーの〝言葉遊び〟である。


 言葉遊びの能力の一つ〝逆説〟。

 結論を逆転させる能力であり、今回の場合、ベイシアと蒼龍との力関係を逆転させたのだ。

 しかし、言葉遊びとて万能ではない。特に今回のような、大規模に対して機能させようとすれば、莫大な魔力を消費するのは目に見えていた。

 だがそれでも、今動きを押さえておくことに、意味があった。



「ケーちん、皆!イマっしょ!」

「任せろ!」

「付与、〝鋭利〟」

『ぐぁっ!?』



 動きが止まったのを見て、ケイン達が再び蒼龍に攻撃を仕掛ける。そして、糸の合間から見える胴体目掛けて、各々の武器を突き刺した。

 ユアの概念付与によって鋭さを増した武器は、スムーズに入り、そして抜ける。

 ケイン達は、それを何度も繰り返し、蒼龍の体に刺し傷を作っていった。



 *



 一方空では、二人と三体が互いに削りあいをしていた。



『くっ、このっ、ちょこまかと!』

「ふふふっ、どうされましたか?先程より動きが鈍っていますよ?ふふふっ」


『聖龍!この裏切りもんがぁ!』

「その言葉、そっくりそのままお返しします!」



 天龍が噛みつきを仕掛けるも、イビルはぬるりと躱す。緋龍がブレスを吐くも、イルミスがそれを相殺する。

 まさに一進一退、と見えるだろうが、その実、イルミス達の方が優勢だった。

 というのも、イルミス達は徹底して防御に専念していた。それは、自分たちに三体の注意を引かせるため。

 ケイン達が蒼龍を倒すまでの時間稼ぎをするためである。

 実際、緋龍と天龍は地上の光景に目もくれることなく、イルミスとイビルを狙っていた。


 だが一体だけ、邪龍だけは、二人の行動に少しずつ違和感を覚えていた。



(こいつら、全っ然攻撃を仕掛けてこねぇ。仕掛けたとしても、虫が止まった程度のヌルい攻撃。何を狙ってやがる?)



 邪龍は他の二体と同様、頭に血が上りやすい性格ではある。しかし、怒りとは、ある一定値を越えると、途端に冷静になる。

 その証拠に、邪龍は先程から大した攻撃を仕掛けておらず、僅かに考え込むような姿勢を見せていた。


 勿論、そのことにイビルが気付かないはずがない。

 邪龍に考える時間を与えまいと、可能な限り、邪龍に集中して気を散らせる攻撃していた。

 それを受け、天龍は、イビルが自分に関心がないと誤解をしているのだった。



『無視をしないでいただきたいですね!』

「おや、そう思うのなら黙って攻撃したらどうですか?先に言ってしまっては、何も得られず躱されるだけですよ?」

『くっ……!』


『人の姿を取るなんぞ、弱者に成り下がったも同然!聖龍!貴様に龍王としての威厳は無いのか!』

「威厳なんて必要ありません!」



 緋龍にとって、人間とは弱者である。

 己と違い、群れねば何もできない人間が、なぜ世界に蔓延っているのか、理解ができなかった。

 故に、人の姿へと成っているイルミスに、多大な怒りを覚えているのだった。



(聖龍、貴様は何故敵対する?何故我らを理解しない?何故だ?)



 邪龍は考える。

 何故二人は、大きな攻撃を仕掛けてこないのか。

 何故、聖龍が自分たちに賛同しなかったのか。


 暫しの長考の後、邪龍は、忘れかけていた存在に目をつけた。



(……そうか、あの人間か。あの人間が、聖龍を誑かしたのだ。そうに違いない!)



 それは、回答としては的外れもいいとこではある。しかし、邪龍はケインの存在に気がついてしまった。



(あの人間さえ消せば、聖龍は考え直すだろう。なに、相手は人間。あの天使さえどうにかしてしまえば、簡単に消せる。さて、どうするか……)



 傲慢で、邪悪な思考が邪龍の頭を巡る。

 その矛先が向けられていることを、ケインはまだ知らない。

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