294 激闘と絶望の始まり その2
「そういえば、イビルはどんなスキルを持っているんだ?……禁術以外で」
「色々とありますが、基本的にはこれでしょうか」
そう言って、イビルは人差し指をつき出すと、その指先に小さな光の球を作り出す。
「明り……じゃないよな?」
「もちろんです」
『――っ!?』
イビルは指を動かし、迷うことなくそのまま背後に打ち出した。
その行動に、思わず声を出しそうになったが、イビルの背後を見て、全員が息を飲んだ。
俺達のいる場所から、そこそこ離れた場所。そこに、脳天を貫かれた獣が一匹倒れ混んでいた。
(……なんて奴だ)
光球を打ち出す時、イビルは顔や目を一切動かしていない。だと言うのに、光球は一切のズレなく眉間を貫通しているのだ。
今まで色々な人を見てきたが、イビルはその比ではない。
裏表の区別がつかない態度、狂気的な性格、底知れぬ魔力、敵を見ずとも遠距離の敵を正確に撃ち抜く技能。
どれも、常軌を逸していると言っても良いだろう。
だからこそ、皆の不安が取り除けないわけなのだが。
「見てもらった通り、わたしは光に纏わるスキルが使えます。他にも持っていますが……まぁ、ここで使うのは控えておきます。なにせ、加減が効かないものでして」
「加減……?もしかして、さっきの光球って……」
「勿論、加減しましたよ?ケインがそう望んでいましたので」
「さ、さっきので、加減……」
イビル曰く、先の技能ですら加減の範疇。どうやら、今は己の全てをさらけ出す気は無いらしい。
それは一見、こちらを信用していないようにも見えるのだが、実際のところ、本当に加減しているだけだ。
それこそ、今この場で力を解き放ってしまえば、俺達に多大な被害が及んでしまうくらいに。
それを分かっているからこそ、誰も強く言えなかった。
「とまぁ、わたしの事はこのくらいにしておきましょう。わたしも貴方たちと同じ、我が君に魅せられ、惹かれた者。仲良くしましょう、ね?」
『……』
笑顔を見せるイビルに対し、メリア達は心配そうな、諦めたような、何も考えていないような、様々な顔を見せる。
……ほんと、大丈夫なのか?
「ところでケイン、一ついいですか?」
「……なんだ?」
「いえ、近くに村があるのに、どうして向かわないのですか?村の中なら、先ほどのような危険も少ないでしょうし」
「そこまで大きくない村ってのもあるが、今は目立つようなことを避けたい、ってのが一番強いな」
「目立つ、ですか?あぁ、なるほど。確かにケイン様の素晴らしさは押さえきれないほど偉大で、圧倒的ですものね」
「……まぁ、ある意味間違ってはいないんだが……正確には、人数の問題だな。冒険者っていう肩書きがあったとしても、数十人がいきなり来たら警戒されるだろ?」
あまり納得させられるような理由では無いが、実際、今は目立つことは避けておきたい。
パンドラとイビル、どちらも歴史的に見れば、良い印象を持たれていない二人がいる。
将来的にはどのみちバレることではあるだろうが、その時が今かと言えば、そうではない。
だからこそ、今は少しでも目立つようなことを避けておきたかった。
「なるほど、そう言う事ですか。さすがはケイン、後の事まで考えているだなんて……このイビル、感激致しました!」
「感激されるようなことではないんだが……」
やはり、イビルの感性が分からない。今のどこに感激する要素があったのだろうか?
しかし、等の本人は至って普通の笑顔を浮かべながら、村とは真逆の方角をチラッと見た。
「しかし、残念です。世界は、安息を許しはしないようですよ?」
「なに?」
「――っ!?」
意味深なイビルの発言。それと同時に、イルミスが動きを止めた。
瞳は激しく揺れ動き、あり得ないとでも言いたげな顔で固まっていた。
「イルミス?どうした?おい!」
「――っ、ケインさん……すみません……」
「どうして謝る?何があっ――」
そう言いかけたところで、それは突然現れた。否、それの気配を感じ取った。
俺は、気配のする方―イビルが見ている方角を見た。
そこに見えるのは、四つの影。
それは次第に大きくなり、その姿をはっきりとさせていく。
巨大な翼を広げ、強大な威圧感を放ちながら、優々と空を飛ぶその姿は、人々に絶望をもたらす。
その正体は――ドラゴンだ。
『見つけたぞ、聖龍』
現れた四体の内の、黒い鱗に身を包んだドラゴンが、イルミスを呼ぶ。
その姿を見たイルミスは、
「ヴェルドラッヘ……」
そう、僅かに呟いた。
ここ一週間ほど、精神的に病んでました
次は、なるべく早く更新したい所存




