292 My god is you
最近職場で一番働いてる人がダウンしてしまい、余計忙しくなってしまった今日この頃
皆さんは体調管理、気をつけてくださいね
―数分前、水晶前。
メリア達は、倒れ、返事の無いケイン。そして、水晶の中で眠るように存在している天使を前に、言葉を失っていた。
そんな中、一人冷静にケインを見ていたパンドラが、メリア達に向けて叱咤を飛ばした。
「お主ら、一度落ち着け」
「パ、パンドラ、さん……?」
「驚く気持ちも、焦る気持ちも分かる。しかし、今のお主らでは、本来見えるものも見えておらぬ」
「……そうね」
パンドラの言葉を受け、深呼吸をしながらなんとか落ち着きを取り戻すメリア達。
とはいえ、すぐに気持ちを切り替えられるわけでもなく、多少なりとも心配や混乱は残っていた。
「……それで、パンドラ。ケインはどうして目を覚まさないのかしら?」
「うむ。儂が見た限り、今、こやつの精神に強い力が干渉して、昏睡状態になっておる。まぁ、精神が閉じ込められている、と言えばいいかの。その強い力と言うのは、恐らく……いや、紛れもなく天使であろうな」
「なら、今すぐこれを壊せば……」
「戯け。そんなことをすれば、むしろ悪化するに決まっておろう」
「ならどうすれば……!」
「こやつが目覚めるのを待つか……あるいは、こやつの精神に入り込み、連れ戻すのが一番手っ取り早いであろう。とはいえ、今のこの状態では、どちらも厳しいかの」
「なによそれ……それじゃあ、ケインは目覚めないって言いたいの!?」
「ちょ……ア、アリス、落ち着いて?」
パンドラに殴りかかるような勢いで詰め寄ろうとするアリスを、メリアが止める。
「メリア!貴方はなんとも思ってないの!?ケインが目覚めないかもしれないのに!」
「それは、嫌だけど……でも……」
「人間よ、先も言うたであろう。焦り、怒り、事を急ごうとすれば、見えるものも見えぬと」
「くっ……!でもひゃうっ!?」
唐突に冷たい風を受け、アリスは思わず叫んでしまう。アリスがその風を受けた方向を見ると、そこにはアリスに向けて手をかざすビシャヌがいた。
「少しは落ち着きましたか?」
「ビ、ビシャヌ、貴方ねぇ……でもまぁ……そうね」
「さて、進めていいかの?」
「……えぇ、お願いするわ」
「心得た。とはいえ、今は待つ他無い……が、この状況が続くとは思わぬ。故に、必必ず好機は訪れるであろう。その時に、儂と霊少女の二人でこやつの中に入り込――」
「ちょいと待ったぁー!」
パンドラの言葉を遮るように割り込むレイラ。
その勢い故に、パンドラも少しばかり体を跳ねさせた。
「うぉっ!?……急にどうした?」
「いやさらっと言ってるけど、私ケインの中に入るなんて聞いてないし、ましてや入り方なんて知らないんだけど!?」
「む?お主のような高位幽霊ならこの程……いや、成る程そうか……」
「おーい?なに一人で勝手に納得してるの?」
「いやすまぬ。今の常識との食い違いに慣れておらぬのでな」
「えぇ……なにそれ……?私たちが馬鹿だとでも言いたいわけ……?」
「いや、そういう訳では無いのだがな」
(……とはいえ、常識すら衰退しておるのは確かな事。本当、儂の居ぬ間になにが起きたのだ?)
パンドラは疑問符を浮かべるが、その問いに答えられる者はこの中には居ない。
パンドラは一先、この問いの答えを考えるのを辞めた。そして、レイラにケインの中に入る方法――憑依を教えた。
その後、パンドラの言う好機――ケインがイビルの鎖を断ち切り始めたのは、それからすぐのことであった。
*
「――ン―――ケイ――」
「――っ……」
頭が痛い。思うように動けない。
そんな中、僅かに聞こえてくる声に、沈みきった意識が少しずつ戻ってくる。
そして、戻りつつある意識と共に、鉛のように重たい瞼を少しずつ開けると、そこには一人の少女――メリアの顔があった。
『……ケイン!』
「っぁ……すまん……ちょっと、うるさい……」
「ぇあっ、ごめんなさい……」
俺が目を覚ますと、一斉に呼び掛けられる。
意識もまだ覚醒しきっていない中で大声で呼び掛けられたため、頭が響いて痛くなる。
……まぁ、それくらい心配させてしまったということだろう。
しかし、意識が戻ってくるにつれて、それまで自分が何処にいて、誰と話していたのかを思い出していく。
「……そうだイビルは……っ!?」
「っ、まだ動いちゃダメ……!」
イビルの事を思い出し、すぐに体を起こそうとするも、やはり上手く動かせず、メリアに肩を押さえられた。
そんな中、アリスが俺の目線に来るように屈みこんできた。
「……ケイン。イビルってもしかして、あれのこと?」
「あれ……?」
アリスが指差す方向に体を向ける。そこにあったのは、巨大な水晶。そしてその中に、イビルは居た。
だが、俺がイビルの存在に気が付いたその時、部屋が大きく揺れ始めた。
「そうだ、なっ……!?」
「なんじゃ!?この揺れはっ……!?」
「みんな!ここは一旦避難を――」
「……ダメだ!」
「ケイン……?」
メリアに肩を借り、なんとか起き上がった俺は、じっと水晶を見つめる。
もしこの揺れが、俺が―イビルが原因で起きているものならば、ここで逃げるわけにはいかない。
そんな思いで立ち止まっていると、水晶の一部が、光を放ちながらひび割れた。
「なっ、なに!?」
「……」
水晶に出来たひびは、一気に広がり、それに呼応するかのように光も強くなっていく。
そして、光が部屋全体を包み込もうとしたその時、水晶が爆発するかのように弾け飛んだ。
水晶の一部が、四方八方に飛び散っていく。もちろんこちらにも飛んできたが、メリアが咄嗟の判断で防壁を展開してくれたおかげで、無傷で済んだ。
そして、水晶があった場所に、それは居た。
腰まで届きそうなほどに長い、僅かに黒の混じった白い髪。
光こそあれど、深淵を見つめていると錯覚してしまう青紫色の瞳。
ワンピースに似ているが全然違う、ボロボロな白い服。そのボロボロな部分の一部は、なぜか赤く染まっている。
そして何よりも、白く美しい羽。だがその羽も、よく見れば羽の先が、一部黒くなっている。
初めてその全身を見たが、間違いない。目の前に居る少女はイビルである。
イビルを目の前にして、メリア達は言葉を失う。
そんな中、イビルは俺を見つけると、ニヤリと笑みを浮かべる。そして次の瞬間、俺の目の前に一瞬で移動した。
「っ、主――」
ユアが駆け寄ろうとしてくれたのだろう。だが、俺は掌で待ての指令を送った。それを受け取ったのか、ユアはこちらに来るのを止めてくれた。
改めて、俺はイビルと向き合う。
あの空間で出会った時には感じなかった、異様なまでのプレッシャー。
下手をすれば、一瞬で消されてしまうと嫌でも理解させられてしまうほど重く、そして強い魔力。
そんなイビルを目の前にして、俺はただじっとイビルを見つめ返していた。
すると、イビルはより一層深く、不気味な笑みを浮かべると、それまで力なく下ろしていた両手を上げ――両膝で地面に立ち、胸元で祈るように手を重ねた。
「……ん?」
「お待ちしておりました!我が君、ケイン様!」
『はいっ!?』
「嗚呼、なんと素晴らしいお姿なのでしょうか!我が君の真の姿を見ることができ、このイビル、誠に感激しております!」
「ちょっ、イビル!?イビルさん!?」
「我が君が、わたしの名を……!?なんという、ことでしょう……!このイビル、感激のあまり、涙が出てきてしまいました……!」
「って、ホントに涙出てるし!?ちょっ、まっ」
「……ねぇ、パンドラ」
「……うむ」
「あれ、どう思う?」
「儂にも分からぬ」
「だよねー……」
「嗚呼、ケイン様!貴方の志と救いだしてくれた恩義に報いるべく、このイビル、貴方に永遠の忠誠を誓いましょう!我が君のためならば、国であろうと世界であろうと、何千、何万でも殺して差し上げましょう!」
「いやそんなこと望んでなっ……あぁもう!どうしてこうなったんだぁぁぁぁっ!?」
これにて三十二章「歪んだ純白」編完結です。
このイビルというヒロイン……というより、今後出てくるキャラの大半は、実は書き始めた頃には居なかったキャラだったりします。それに纏わる設定も然り。
そういう意味では、勇者もIなかったんですけどね。実は。
先にiっておきますが、この作品における残酷な描写の大半はイビルが原因です。
iTi応、心しておいてくださI。
では次回、三十三章もよろしくおねGa、a、i、iiiiiii……
壱




