291 悪意、目覚めの時
あけましておめでとうございます
そして、大変お待たせして申し訳ありませんでした!
今日からまた更新していきますのでよろしくお願いします
イビルとの繋がりを断ち切られ、鎖の一本が崩れ散っていく。
そして、鎖が消滅した瞬間、立っているのもやっとなほど、空間が激しく振動した。
「今のは……」
「十中八九、鎖を切ったのが原因でしょう。先ほども言いましたが、この空間はわたしの魔力で保たれていますので」
「なるほどな。つまり、この鎖を全部断ち切りゃ良いってことだなっ!」
俺は、天華に魔力を流すと、そのまま二本目の鎖を断ち切る。今度は、鎖を断ち切った瞬間に振動が起きた。それも、先ほどよりも強く。
「うぉっ!?……っと」
「……本当、貴方は何を考えているのですか?」
「何をって、なんだ?」
「こんなことをする理由です。今貴方が行っている行為は、貴方には何一つ特の無いもの。貴方が偽善で行動しているのなら、今すぐ止め――」
「んなもん、考えてすらないな」
「――っ」
「助けたいから助ける。偽善じゃない、俺の我が儘だ」
「……それは、ただの屁理屈ですよ?」
「それで結構」
空間が振動するのも気にせず、三本、四本と鎖を切っていく。
ただ、予想通りというべきか、片側だけを率先して切ったところで、対して意味が無いことは分かった。
それに加え、少しずつだが鎖の強度と言えばいいのか、抵抗する力が高まっているような気がしていた。恐らく、鎖を断ったことで、流れる魔力のバランスが崩れたのだろう。
「あぁ……愚か、実に愚か。そんなことをしても、後で後悔するだけですよ?」
「やらずに後悔するよりも、やって後悔した方がいい。俺がそう思った、それだけだ」
「その結果が、絶望と知っているのに?」
「なら、乗り越えるだけだ」
「……」
イビルの言葉は、まるで心の弱みに漬け込むようなものばかり。相手を不安にさせ、負の感情をむき出しにしようとしてくる。
だが、俺は止まらない。助けると決めた以上、最後まで貫き通す。少なくとも、今はそれでいいと思った。
そうして、鎖も残り三本となった瞬間、それは訪れた。
「うおっ!?こっ、れは……!?」
強い振動が空間を揺らす。それは止むことなく揺れ続け、立っているのもやっとだった。
それだけではない。それまで、先の見えないほど広大に感じていた空間が、狭まって来ているのだ。
「くそっ……!」
俺は悪態をつくと、踏ん張りながら、再び鎖を断ち切ろうとする。が、揺れの影響もあってか、上手く力が入らない。
それでも、なんとか一本断ち切ったところで、次なる変化が訪れた。
「あれは……!」
「……まぁ、当然でしょうね」
イビルの視線の先。そこには、不自然な亀裂があった。それも、一つや二つではない。
その亀裂は徐々に広がり、数を増やし、少しずつ崩れていく。
「元より、この空間はわたしの魔力で維持していたもの。その繋がりが弱まった今、この空間は崩壊し始めている。それだけのことです」
「くっ……!」
「どうしますか?諦めちゃいますか?」
「今さら、諦めろってか?そんなの、お断りだっ!」
イビルにそう返すも、この揺れの前では、立っているのですらやっと。
それでもやらねばと、足を踏み込もうとしたその時、強い揺れが襲いかかってきた。
「しまっ……!?」
強い揺れを受け、僅かに片足だった俺は体勢を崩す。もし、今倒れてしまえば、まともに立っていられなくなる。
なんとか立て直そうとするも、一度崩れた体勢を、それも、この揺れの中立て直すのは不可能に近い。
地面が少しずつ近づいてくる、その事実に悔しさを覚えたその時、それは突然現れた。
「ケインー!!!」
空中に穴が空き、その穴から何かが飛び出す。そして、現れるや否や、俺の姿を捉えると、即座に空中へと避難させる。
俺は、彼女の方を向き、その姿を見た。
「……レイラ!?」
「こやつだけではないぞ?」
「パンドラまで……」
そこに居たのは、レイラとパンドラ。
どうやら、今俺は、レイラの念力によって、浮いた状態になっているらしい。
おかげで、倒れこまずに済んだようだ。
「お前ら、どうしてここに?」
「説明は後!それより……」
「うむ。ここから脱出する方が先であろうな」
「……まだだ。まだあいつを救えてない!」
「あいつって……っ!?」
レイラがイビルを見つけた瞬間、レイラは思わず体を震わせた。
無理もないだろう。こんな状況だというのに、イビルの目は、未だ変わらずにあるのだから。
パンドラは、そんなイビルに不信感を覚えたらしく、険しい表情を見せた。
「ケイン、あやつは何者だ?」
「イビル。この空間の核にされていた天使だ」
「えっ……!?」
「天使……?あれがだと?」
パンドラの顔が、より一層険しくなる。
そんな顔を見れたのが嬉しかったのか、イビルが笑みを浮かべ、話しかけてきた。
「あら?貴方の仲間、という者たちですか。幽霊に精霊とは、面白いですねぇ……壊したら、どんな顔を見せてくれるんでしょうか?」
「壊っ……!?」
「……」
イビルの狂気的な発言に、思わずたじろぐレイラ。だがパンドラは、特に乱すことなく、ただじっとイビルを見つめていた。
「……成る程、大体の事情は分かった。ケインよ、この崩壊の間接的な原因はあの天族。わざわざ助ける理由があるのか?」
「……理由なんてない。ただ、俺がそうしたいと思っただけだ」
「くっくっくっ……成る程、実にお主らしい。よかろう、儂も手を貸そう。霊少女よ、お主にも協力して貰うぞ」
「えっ……ほ、本当にやるの?」
「お主は知っておるだろう?こやつがどんな性格をしておるのかくらい」
「……わかった。やるよ、私も」
レイラは震える体を静め、イビルと向き合う。
イビルはただ、ニタリとした笑みを浮かべ続けていた。
「良いか?今から儂が、あの鎖の裏側に穴を作る。お主らは、その穴に勢いよく飛び込め。そして、飛び込んだそのすれ違い様にケイン、お主は鎖を断ち切るのだ」
「「分かった」」
「ただし、チャンスは一度きり。穴を無理矢理こじ開けるが故に、空間が不安定になる。その上で鎖を切るとなれば、空間は一気に崩壊、最悪戻れなくなるかもしれぬ。故に、結果がどうであれ即座に飛び込むことだ。良いな?」
「あぁ」
パンドラは俺が頷いたのを確認すると、その場から離れ、鎖の裏側に待機した。
残された鎖は二本。離れた位置にあるわけではないが、一振では片方しか断ち切れない。
俺は、左手にそれを手にするイメージを浮かべる。次の瞬間、俺は創烈を左手に握っていた。
俺は、目を瞑り、大きく深呼吸をする。
恐らく、抵抗力はこれまでの比にならないほど強い。故に、こちらも最大出力を出さなければ、断ち切ることなど不可能だろう。
「……行くぞ!」
「うん!」「うむ!」
目を見開き、天華と創烈にこれまで以上の魔力を込める。それと同時に、レイラが俺と共にパンドラの元へと一直線に突っ込み、パンドラは空間に干渉し、巨大な穴を空ける。
空間が大きく揺れる。崩壊が速度を上げる。だがそんなこと、今はどうでもいい。
二人が作ってくれたこのチャンスだけは、絶対に逃してはならない。その一心で、目標だけを見つめる。
瞬間、二刀が炎に包まれる。より強く、より激しく。二刀と通じあったような感覚が、俺に産まれる。
そして、その時は来た。
「〝双炎斬〟っ!!!」
速度の乗った二刀が、二本の鎖を捉える。その瞬間、ぶつかり合った魔力が衝撃波となり、空間を震わせる。
強い衝撃を受けたのは、空間だけではない。鎖の抵抗を受け、俺自身にも衝撃が襲いかかってきた。
――全身が痛い。意識が飛びかける。それでも俺は――
「っあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
叫ぶ。叫ぶ。ただただ叫ぶ。自分を信じて、相棒達を信じて、仲間達を信じて。
そんな叫びが、無意識に反撃を発動させた。
俺が受けた衝撃が、俺の体を通じて反対の刃へと流れ、二刀をさらに燃え上がらせる。
――次の瞬間、俺の体は、パンドラの開けた穴の中にあった。
それと同時に、俺の意識はそこで途絶えた。
*
「ふ、ふふふ……まさか、このような日が来るなんて思いもしていませんでした」
崩壊する空間で、イビルは一人呟く。その目に、焼き切られた二本の鎖を映しながら。
「……ケイン・アズワード」
ケインの名を口にし、イビルは笑みを浮かべる。ケインたちに見せたものとは違う、別の狂気を宿した笑みを。
「嗚呼……ようやく見つけた!ようやく出会えた!貴方こそが、わたしの――」




