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289 崩壊、絶滅、その真実

「そもそも、天族は神の使徒なんて呼ばれていました。わたしからすれば、吐き気がするような肩書きですけれど……まぁ、今は我慢しておきましょう。とにかく、天族にとってその肩書きは名誉あるものだそうで、その肩書きに恥じない行動を心がけていたそうです。気持ち悪いですね」



 露骨なまでに嫌そうな顔を見せるイビル。

 天邪鬼、というわけでは無さそうだが、やはり感性は常人とは真逆らしい。



「そんなわけで、わたしのような天族は意味嫌われていたわけです。まぁ、わたしからすれば他者なんてどうでもいい存在でしか無いですし、どう思われていようが構わなかったんですけれどね?」

「……その割には、俺とは話してくれるんだな」

「まぁ、誰かと会うのも久しぶりですし、サービスというものです。先程も言いましたが、わたしは他人に全くと言っていいほど興味がありません。正義を語るのなら、尚更ですね」



 ただの気まぐれにしては、よく話してくれるイビル。……まぁ、二百年も一人で拘束されていれば、少しは人と話したくもなるだろう。そう思うことにした。



「話を戻しますけれど、嫌われていたわたしは常に孤立していました。そんなある日、気まぐれで天族の機密情報の集まった書庫に潜入した時、一枚の紙を見つけました。それは、天族にとっては災厄で、わたしにとっては最高のものでした」

「その紙には、なにが書いてあったんだ?」

「一種族選択の狂気化術式です」

「――っ!?」

「うふふ……面白いですよね?神の使徒だと唄われている天族が、他の種族を凶暴化させる研究をしていたんですから」



 ……なんとなく、結末は分かってしまった。だが、それはイビルの口から聞いた方がいいだろう。

 俺は、黙ってイビルの話を待つことにした。



「勿論、それを見つけわたしは、すぐに発動させようとしました。ですが、それはとてつもない魔力を消費するものでして、まだ小さかった頃のわたしでは、使うことはできませんでした。なので、わたしは来るべき日のための準備をすることにしました」

「準備?」

「魔吸石、ご存知ですか?」

「え?あぁ、まぁ……」



 魔吸石。まだ魔導具が普及していなかった時代に使われていた、()()()()()()()性質を持つ鉱石。

 質にもよるが、小さな欠片一つでも何十人もの魔力を一度に溜め込めるという、とてつもない代物である。

 そんな魔吸石だが、問題もある。溜め込んだ魔力を使うには、魔吸石を壊す必要がある。つまり、魔吸石は使い捨ての道具なのだ。

 そんな性質も相まってか、今や魔吸石は存在すら危ぶまれるほどの希少鉱石となっている。



「わたしは、同じく書庫に置いてあった魔吸石を幾つかくすね、わたししか知らない場所に隠しました。そして、毎晩魔力が無くなるまで、魔吸石に魔力を溜め込んでいきました。まぁ、わたしの魔力も、日に日に強大になっていったのは嬉しい誤算でしたけれど」

「今はそうは見えな……あぁいや、確かに強大だな」



 イビルが言い張るほど、強大な魔力をイビルからは感じない。

 しかし、この空間を維持しているのは、イビル自身の魔力であることを思い出すと、自然と納得できる。



「そんなわけで、貯めに貯めこんだ魔吸石が二十個を超えた辺りで、先の出来事が起きました」

「先のって、お前が同族を殺したっていう……」

「えぇ、そうです。正直、あの場で虐殺するのは簡単でした。ですが、どうせなら……と、わざと捕まってあげました。……まぁ、綺麗事を吐き気がするほど言われ続けたのは、酷でしかありませんでしたが……あぁ、気持ち悪い」



 確かに、綺麗事を言われ続けるのは俺でも面倒だとは思う。しかし、イビルが言うほど酷ではない。

 結局のところ、価値観は人それぞれでしかないのだから。



「んんっ……話を戻しますが、捕まったわたしに下された判決こそが、今のわたしの状況、終身刑でした。対象を結晶の中に封じ込め、精神を縛り、魔力を吸い上げ続け、()()()()()。天族が行う、最上級の判決です」

「……そしてお前は、その終身刑が執行される直前に、さっき言ってた術を使った」

「えぇ、その通りです。あえて捕まり、終身刑という判決が下され、いざ執行となった時、わたしは全ての魔吸石を砕き、狂気化術式――パンデミックを発動させました。……とはいえ、執行中の一瞬の隙をついて放ったので、成功したかの確信はありませんでしたが……貴方のおかげで無事成功したことが分かりました。ありがとうございます、ね?」

「……」



 かつて、世界を揺るがした大事件、天族の反乱。

 その背後にあったのは、たった一人の邪悪な思想だったのだ。

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