28 ナヴィと影の槍 その2
「それで、あの子が俺の影の槍を継承できるかもしれないって、どういうことだ?」
「ナヴィは闇のスキルを持っているんだ。確証はないが、もしかしたらと思ってな」
「闇…闇属性のスキルか。影の槍も闇属性のスキルだし、確かに適正があるのかもしれん」
まぁ、あくまで可能性の話だ。
この影の槍チャレンジに、これまでにも多くの人が挑戦してきた。
その中には、闇属性に耐性のある人物もいたかもしれない。
だからといって、ナヴィがそうとも限らないのだが…
「…それで、どうする?やってみるのか?」
「継承できる可能性がある。なら、一度挑戦してみるのもアリだろ?」
「…分かった。挑戦料金貨1枚だ。もし適正がなくても返金はしないぞ」
「問題ない」
「それで、ここに連れてこられた、と」
「あぁ、店でやるには危険すぎるからな」
「えっ…なに?いきなり連れてこられて、危険なことやるはめになってるの私」
店主に金貨1枚を払い、ナヴィ達とともに連れてこられたのは店の地下室だった。
明かりもそこまで強くなく、少し薄暗い感じの部屋だ。
広さは上の店より少し大きいくらいだろうか。
「さて、これから嬢ちゃんにやってもらうのはコイツに魔力を流してもらうことだ」
「コイツって…そのスキルロールの事かしら?」
「あぁ。コイツ自体にスキルはセットされていないが、とある魔術回路を組み込んである」
「魔術回路?」
「魔術回路は簡単に言えばスキルの代用品。普通のスキルロールと違って魔力を流してもスキルを習得できないけど、魔術回路を介せば何度も繰り返し使えるのよ」
「まぁ間違ってない。そんで、コイツには影の槍の魔術回路を組み込んである。ただし、暴走している状態に近い状態の物を、だがな」
「暴走状態に近い…だって?」
「あぁ。影の槍は使い手を選ぶ。暴走するのは、使い手が未熟だったりする場合が殆どだ」
「己の実力を過信して、無謀な相手に戦いを挑むような感じか」
「そんな感じだ。コイツは適正があればなんとか制御できるギリギリのラインで設定してある。適正が無かったり、制御を誤れば即暴走だ」
確かに強すぎる力は、時に己の身を滅ぼす。
影の槍も、その一つなのだろう。
「時間にして10分間、ソイツを制御し続ける事ができれば合格だ」
「分かったけど…なんで皆離れてるのかしら?」
「念のためだ。近づきすぎると暴走時に巻き込まれて、余計に対処が遅れやすいからな。」
「あ、うん…」
なんか納得いってない顔だが、我慢してくれ。
俺達だって、無理矢理離れさせられたんだがら。
それにしても10分か…
俺達人種だとかなりギリギリのラインだが、ナヴィは大丈夫だろうか…
「ソイツに魔力を流し込んだ時から、この部屋が自動で計測を開始する。それじゃあ、準備はいいか?」
「えぇ、大丈夫よ」
「それでは、始めてくれ」
ナヴィは大きく呼吸を整え、スキルロールに魔力を流し始めた。
その刹那、とてつもない瘴気が辺りを包み込んだ。
「…!メリア!」
「…分かっ、た。「防…」
「心配するな」
メリアが瘴気を防ぐために防壁を展開しようとしたが、店主に止められた。
というのも、瘴気は一定の距離で留まり、それ以上向かってこなかった。
「この部屋は特殊なものでね。さっきも言った時間計測ができるだけでなく、あれから出てくる瘴気を、一定領域から漏れさせないようにする結界の役割も果たしてくれるのさ」
「じゃあ、ナヴィは…」
「常にあの瘴気にあてられる。あの瘴気には、暴走しているような感覚を起こす作用があるのさ。つまり、制御を維持するための最大の関門というわけだ」
「最大の、関門…」
「瘴気自体に暴走させる効果があるわけではない。だが、暴走している感覚に飲まれ、制御を誤れば、本当に暴走してしまう」
俺は、少し辺りを見回した。
この部屋、よく見ると一部の壁や床の色が黒くなっている箇所がある。
それは、ペンキ等ではない。
(血の跡…)
暴走した奴等が暴れた結果、宥めるまでに流れた血が今でも色濃く残ってしまっているのだろう。
少し、この挑戦を甘く見ていたのかもしれない。
(ナヴィ、頑張ってくれよ…!)
元々前編と後編で分けるつもりでいましたが、まだ長くなりそうなので、もう少しだけ続きます。




