282 抑制の解放
―遡ること数週間前―
「……え?自分たちも見て欲しい?」
「あぁ」
食事の準備中、ナーゼの元にガラル、ベイシア、ソルシネアが訪ねてきた。
そして、自分たちを解析で見て欲しいと頼み込んできたのだ。
「それは、あの二人みたいに特別なスキルがあるかを確認したいってことかな?」
「そうじゃ。残念なことに、妾たちには全く感じとれぬのでな。それに、あの二人にあって、妾たちに無いとは思えぬしの」
「うーん……じゃあ見てみるけど……何も無くても怒らないでよ?」
「ウン、だいじょーブ!」
ナーゼは、三人に向けて解析を発動させる。
それから程なくして、その結果は出た。
「……うん、心配いらないよ。君たちにも、見たことの無いスキルがある」
「本当か!?それはどんな能力だ!?」
「おお落ち着いて!?順番!順番に伝えるから!」
「わ、わりぃ……」
「全く……それじゃあ、そんなせっかちなガラル君から教えるね。君のスキルは――」
*
「あぁ――じゃあいくぜ?〝激震〟」
「――ッ!?」
ガラルがその名を口にした瞬間、サラマンダーは全身で感じ取った。あれはマズイ、と。
だが、次の瞬間、サラマンダーの目の前にガラルが現れた。サラマンダーの体が回避しようと動くよりも早く、ガラルの拳がサラマンダーに直撃した。
ガラルの一撃を受けたサラマンダーは、一瞬で壁に叩きつけられる。しかし、それで勢いが止まる訳ではなく、そのまま壁を掘るように体が奥へ奥へと埋まっていく。
「ぐぉっ!?はぁ……はぁ……」
「ガラルさん!?大丈夫ですか!?」
「心配はいらねぇ……聞いちゃいたが、反動もすげぇな……」
ガラルに与えられた従魔スキル、激震。
能力は主に二つ。
非発動時の戦闘能力を大幅に低下させ、その分をストックする能力。
そして、激震発動時にストックした分を消費し、爆発的な力を発揮する能力である。
ただし、約一週間分のストックを、たった一秒使うだけでも消費する上、使用時に肉体に対して強力な負荷がかかる。そのため、使用後にとてつもない反動が襲って来る。
常人なら、腕が潰れてしまいかねない程強力な反動だが、ガラルの強靭な肉体であれば、ある程度押さえ込むことができる。
言うなれば、諸刃の剣のようなスキルである。
「ぐぁっ、くっ……」
「……やっぱ、耐えてやがったか」
「一応、オレサマらは半分魔力でデキてんだが……やっぱ、修復すら出来ねぇか」
埋め込まれて出来た穴から、サラマンダーが小さな爆発と共に現れる。その体はボロボロで、立っているのすらやっとな程だった。
サラマンダーは、実に二十メートル以上埋め込まれており、精霊の肉体を持ってしても、ガラルの一撃を受けきることはできなかった。
「……だが、まだオレサマは立っている!まだ負けちゃいねぇ!」
「っ!?まだ、やる、つもり……!?」
「当たり前だッ!こんな楽しい喧嘩、辞める訳ねぇだろッ!」
「――あぁ、そうだなっ!」
同時に飛び出した二人の拳が、互いに、何度もぶつかり合う。負傷している者同士とは思えない衝撃波が、メリアたちを襲う。
能力など無い、真向勝負の殴り合い。両者共に負傷しているが、サラマンダーは先の一撃が相当響いているらしく、先程までの攻撃を読むような行動ができていない。
そんなことは、ガラルも分かっていた。だが、だからこそ、ガラルは今出せる全力を以てサラマンダーと向き合っている。
「「うぉぉっ!」」
ガラルとサラマンダー。二人は種族も、肉体も、なにもかもが違う。だが、性格だけはよく似ている。
だからこそ、例えどちらかが負傷していようと、相手が望む限り、全力で相手をしていた。
そんな二人の邪魔をしまいと、メリアたちは離れてその様子を見届ける。
――しかし、それは永遠ではない。必ず終わりはやってくる。
「やるじゃねぇか……サラマンダー」
「ははっ、テメェこそな……だが」
「あぁ、分かってるよ」
「「この一撃で、終わりだッ!」」
ガラルの右腕が、サラマンダーの左腕が、同時に放たれる。お互いの拳がかすめ合い、相手の顔面目掛けて迫る。
「……」
「……」
「……ぐっ……」
「ふっ……っあ……」
サラマンダーの拳は、ガラルの頬を掠めた。
ガラルの拳は、サラマンダーの頬に直撃した。
もし、最後に拳が掠めていなければ、結果は違っていただろう。
だが、決着はついた。
「……くっ、くくくっ、アーハッハッハッ!」
「……」
「負けた負けた!オレサマの負け!」
「サラマンダー、強かったぞ」
「それを言うなら、テメェもな」
倒れこんだサラマンダーにガラルが手を伸ばす。サラマンダーはその手を取り、立ち上がった。
「え、えっと……」
「んぁ?……あぁ、忘れてた。試練は合格だぜ」
「あ、うん……えっと、大丈夫、です、か?」
「ははっ、オレサマの心配はいらねぇよ。それより、こっちの兄ちゃんの手当てをしてやんな」
「……オレ、雌だが?」
「……は?えっ、マジ?」
「マジだ」
「マジかよ……」
激震
傲慢の力と、力を抑えるという意思が混ざりあって生まれた従魔スキル
非発動時において、戦闘能力を弱体化させるかわりにその分をストックとして保持。発動時にストックしていた分を消費し、爆発的な攻撃力を得る
ストック消費量は、一秒間につき約一週間分
また、発動中は体に多大な負荷がかかるため、使用を止めた瞬間に、強烈な反動に襲われる




