276 土の精霊
黄色の扉の先。そこにあったのは、見渡す限りの砂地だった。立っている場所も、遠くに見える小高い丘も、全てが砂。
そんな場所にやって来たのは、ケイン、アリス、ライアー、ルシアの四人。
今回別れて挑戦するにあたり、ケインはまず、ライアーとルシアをメンバーに選んだ。
クレリオタウンやディヲルエーラでのいざこざはあったものの、ケインは二人との連携を取れたわけではない。
そのため、二人の戦い方や、どう連携を取るかを知るために、真っ先に選んでいた。
と、そこまではスッと決まったのだが、最後の一枠を狙ってひと悶着があった。
原因は言わずもがな、ケインの恋人達である。
五人は我先にと立候補し、対立。激しい激闘を繰り広げた末、アリスが最後の一枠を勝ち取ったのだった。
「ふふふ……これでまた一つ、あの子たちより先に進めるわ……ふふふ……」
「わーお、ヤバめな笑顔だよアレ。ねぇケーちん、ホントにダイジョブなの?」
「……もう慣れた」
「慣れってコワ」
「すな、いぱい!」
「そだねールーちん」
「……呑気、だね」
呆れたような声と共に、四人の近くに一人の少年が現れる。
身長はかなり低く、1mあるかどうかくらい。かなり厚手の服を纏っており、見方によっては太っているとも取れてしまう。
「……お前は」
「ぼくはノーム、土の精霊。君たちに、試練を与える者、だよ」
ノームと名乗った少年は、じっとケインを見つめる。そんなノームの視線に気がついたのか、アリスがケインの前に出た。
「誰の許可を得てケインをじろじろと見ているのかしら?」
「あ、やっぱりそうだったんだ。さっきは、姿までは見れなかったから、確信はなかったけど……それに、ぼくのとこに来るなんて、思ってなかったから」
「……?それってどういう……」
「なんでもないよ。じゃあ、試練、始めようか」
ノームがそう告げた途端、四人の視界が歪み、一瞬のうちにノームが遥か遠くに移動した。
一瞬の出来事だったため、思わず目を疑う四人の元に、前の部屋で聞いたようなノームの声が届けられた。
【ぼくの試練は……んーと、だるまさんがころんだ、って分かる?】
「へ?あ、まぁ、一応知っているが……」
「ケーちん、それナニ?」
「なにー?」
「あぁ、ライアーとルシアは知らないか。だるまさんがころんだってのは、複数人でやる遊びの一種だ。一人が鬼役、それ以外は子の役になって、離れた場所からスタートする。で、鬼の元に子がたどり着いたら子の勝ち、って感じなんだが、少しだけ特殊なルールがある」
「ルール?」
「子が動いていいのは、鬼が背を向けて「だるまさんがころんだ」と言っている間だけなんだ。鬼が台詞を言い終わって子の方を見ている間は、子は動いちゃいけない。もし動いてしまったら、その子は失格。まぁ、ざっくり説明するならこんな感じだな。分かったか?」
「わかた!」
「ウチもオーケー!」
【説明、ありがと】
「別に、お礼を言われるようなことじゃないけどな」
【謙虚、だね】
ノームはケインにそんなことを言うと、再び話し始めた。
【まぁ、本当にそれをやるわけじゃないんだけど、ぼくの試練に近かったから、想像しやすいように、言っただけなんだけどね】
「……で、肝心の内容は?」
【そこから、ぼくの所まで来て、ぼくに、人間基準での〝致命傷になる一撃〟を与えること、だよ。先に、言っておくけれど、ぼくたちは半分くらい、実体を持ってない存在。だから、気にせず攻撃してね】
「えーっと、それだけ?なぁんだヨユーじゃん!」
「……いや、そんなことはない。なぁノーム、これはだるまさんがころんだ、ではないんだろ?」
【うん】
「つまり、お前の干渉を受けないわけではない。違うか?」
【正解。ぼくは、ただじっと待つわけじゃない。君たちが、ぼくの元へ来れないよう、妨害させてもらう。君たちは、ぼくの妨害を乗り越えて、ぼくに攻撃しなきゃいけない】
「なるほどね……」
【……それじゃあ、始めるよ】
ノームがそう告げた瞬間、周囲の砂が湯水のように沸き上がり、槍のような形となってケイン達を襲う。
ノームの試練、その幕はすでに開けられた。
主人公が居ますが、試練は一律第三者目線で書きます
前回の忘れ物
嵐
暴風の進化スキル。嵐と思えるほどに荒々しい風を発生させ、全てを破壊し吹き飛ばす。




