表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
278/415

272 精霊の試練

《【〔〖なにをしに来た。人間〗〕】》


『――っ!?』



 突如として聞こえてきた声に、全員が警戒心を露にする。しかし、この場所に俺達以外は誰もいない。

 メリア達が声の主を探す中、声の主はどこかおかしいとでも言うように言葉を続けた。



《もう一度聞くよ?なにをしに来たの?》

「俺達は、パンドラに会いに来た」

【……会って、どうする?】

「俺達の中に一人、呪いで苦しんでるやつがいる。それを、治してもらいたい」

〔ふぅん……ここにパンドラ様がいる保証が無いのに、わざわざ来たのかしら?〕

「お前達が俺達に話しかけた、それが答えじゃないのか?」

〖ははっ、違いねぇ!〗



 無邪気、控えめ、冷静、豪快。

 聞こえてくる声に、俺は迷うことなく答える。

 何人かは未だ困惑している様子だが、ナヴィやユア、イルミス辺りは落ち着きを取り戻していた。



「……それで、貴方たちは何者なのかしら?」

《わたしたちは、この遺跡を守護する者》

【遺跡に眠るパンドラ様を、守る者】

〔力を望む者に、試練を与える者〕

〖それがオレサマたち、四大精霊の役目〗

「四大精霊……って、まさか!?」



 やはり精霊族だからか、ナーゼが四大精霊という言葉に反応した。



「ナーゼ、四大精霊って?」

「……パンドラ様とアテナ様が、産まれてからすぐに産み出した、四人の精霊のことだよ。風の精霊シルフ様、土の精霊ノーム様、水の精霊ウィンディーネ様、火の精霊サラマンダー様」

〔へぇ……よく知ってるじゃない〕

「成る程な……それで、俺達はどうすればいい?」

《ここに来たからには、答えは二つに一つ。全てを忘れてここから去るか、それとも試練を受けて、なにも得られずに去るか、だよ》



 無邪気な声が、俺達に選択肢を与える。しかし、与えられた選択肢には、どちらも何一つとして得るものがない。

 余程パンドラに会わせたくないのか、はたまた、試練の内容に自信があるのか。――だが、



「俺は、どちらも選ばない」

〔……じゃあ、どうするのかしら?〕

「試練を受ける。受けて乗り越え、パンドラに会って、呪いを解いてもらう。それが、俺が選ぶ選択肢だ」



 俺は、そう力強く宣言する。俺の言葉を聞いた精霊達が、一瞬黙り込む。だが、その静寂はすぐに壊された。



〖くっ……くくくっ……いいじゃねぇかその度胸!おもしれぇ!〗

【初めて。そんなこと言われたの】

〖おい人間!テメェ、名は?〗

「ケイン。ケイン・アズワードだ」

〖ケイン……いい名だ!〗



 豪快な声がそう叫ぶと同時、部屋にあった四つの扉が色づき、輝き始めた。


 一つは、森羅を駆け抜ける風のような緑色に。

 一つは、大地を造り出した土のような黄色に。

 一つは、恵みを与え続ける海のような青色に。

 一つは、全てを焼き付くす火のような赤色に。



「っ、これは……!?」

〖これは試練への道導!オレサマたち四人が、この扉の先に一人ずついる!全ての試練を乗り越えた時、テメェが求めるパンドラ様に会えるってわけよ!〗

〔こらっ!全部言わない!まったく……とにかく、それぞれの扉に入ったら最後、その試練が終わるまで出ることはできなくなるわ〕

【試練、全部で四つ。全員で一つの試練に挑んでもいい。四手に別れて、それぞれ挑んでもいい】

《まっ、どう挑むとしても、わたしたちは乗り越えさせやしないけどね!》



 無邪気な声が、またまた挑発な言葉を告げる。

 よほど自信があるのか、俺達が試練を乗り越えられないと確信しているようだ。

 俺達は一度集まり、話し合うことにした。



「それで、どうするんですの?」

「イブは、ぜんいんでいきたいです」

「そうですね……なにがあるのか分かりませんし、纏まって行った方がいいかもしれません」

「ケインは、どうしたい?」

「俺は……」



 どうやらメリア達は、全員で行く方向で賛成しているらしい。

 だが俺は、それに賛同できなかった。

 なにも、全員で行くことが悪いと思っているわけではない。ただ、それではいけないと思ってしまっている自分がいた。



「……俺は、四手に別れた方がいいと思う」

「ふむ、どうしてなのじゃ?」

「どうして、って言われると、俺にもわからない。ただ、このままじゃいけないと思った。お互いに助けあって、補いあって……でもそれに府抜けていたら、今後どこかで必ず躓く。そんな気がした。だから、四手に別れたい」



 俺にとって、仲間は家族。それは変わらない。

 だが、それに甘えるようになった俺は、仲間達と、メリアと出会う前よりも、生きるために必死になれているのだろうか。

 仲間を守るために死ぬわけにはいかない。そう考えれば、必死になっているだろう。

 だが、自分以外に構っていられなかった、明日を生きることしか考えていなかったあの頃よりは、必死になんてなれやしない。


 今さら、昔の自分に戻りたいなんて思わない。だが今だけは、昔の自分にならなくてはいけない。

 失うことを恐れていた、あの時の自分に。



「……わかったわ。それじゃあ、四手に別れましょう」

「いいのか?」

「何言ってんだ?ご主人サマが別れると決めた。なら、オレたちはそうするだけだ」

「そうだね。ケイン君、君はボクたちのリーダーだ。君がそれを望むなら、ボクたちはそれに従い付いていく。それだけだよ」

「……ありがとう」



 何気ない一言に、少しだけ気持ちが和らぐ。俺達は、誰がどの扉の先に向かうかを話し合った。



《おっ?決まったのかな?》

「あぁ」

〖なら、その扉を開けるがいい!〗

〔そうすれば、ワタシ達の試練が始まるわ〕

【試練が始まったら、終わるまで戻ってこられないよ】

「望むところだ」



 俺達は、それぞれの扉に手をかける。


 ――さぁ、試練の始まりだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ