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265 いじめの報復

ユアという、ある意味ジョーカー的存在を使ったせいで、話の流れを作りづらくなってしまった……反省

「そんなことが……」

「あれ以来、リリムは私以外の夢魔族と関わるのを嫌うようになった。……いや、本当は私のことも嫌だったのかもしれない。それほどまでに、彼女の心は壊れていた」

「でも、今のリザイアは……」

「……まぁ、私も正直驚いた。ある日突然、それまで暗かった表情が、嘘のようにギラギラとし始めて……初めは空元気なんじゃないかと疑ったさ。でも、ずっと見ていたから気づいた。あの子はあの子なりに、前に進もうとしていたんだって」



 メフィロアンナから、リザイアの過去を聞いたメリア達。

 当然、彼女達も最初は驚きこそしたが、すぐに受け入れていた。



「それじゃあ、リザイアがあまりここに来るのに乗り気じゃ無かったのは……」

「十中八九、ヘレンだろうね。あの子は昔っからリザイアを虐めていたからね。苦手意識が残っているんだろうよ」

「とりあえず、あいつ一回〆とこうかしら」

「……気持ちはわかるけどやめなさい」

「……ふふっ、愛されているな」



 リザイアのために怒るメリア達を見て、メフィロアンナは安堵の声を漏らした。

 だが、その安堵も長くは続かなかった。



「……っ!?」

「メリア?どうし――」


 ドカァァァンッ!


『――っ!?』



 メリアがなにかを察知し、店の外を見る。それに気がついたナヴィが声をかけたその時、突然外から爆発音が聞こえた。



「な、なに!?」

「爆発だと!?」

「みなさん、落ち着いてください!ここは一旦冷静になって避難を……」

「……そう、も、言って、られ、ない、かも」

「……メリアさん?」

「……気配、増えた。多分、モンスター」

『なっ……!?』



 元々、メリアの五感は常人の域を越えている。その五感が、モンスターの出現を感じ取ったのだ。

 まぁ、それを知らないメフィロアンナは、なぜそう言い切れるのか疑問なようだが。



「ま、待ちなさい!町中にモンスターだと?どうしてそれが分かると言うのだ?」

「……私、五感、強い。だから、気配、で、なん、となく」

「なんとなっ……!?……正確率は?」

「ほぼ百ですわ」

「……つまり、本当ということか……!」



 メフィロアンナは頭を抱えた。

 町中にモンスターが現れるなど、前代未聞。先程の謎の爆発を含め、突然襲いかかってきた驚異に、目眩と頭痛を覚えた。

 だが、それごときで倒れるような彼女ではない。仮にも、彼女はこのこの町の長なのだから。



「メ、メフィロアンナ様!先程の爆発は――」

「……セルリア、至急全員を集めなさい」

「……え?は、はい!」



 セルリアと呼ばれたサキュバスは、突然言い渡された言葉に困惑を露にするも、すぐに行動を開始した。

 メフィロアンナはその様子を見つつ、今度はメリア達の方へと体を向けた。



「君たちは冒険者だったな。一つ、依頼を受けて貰えないだろうか?」

「どんな依頼かしら?」

「住民の避難誘導、モンスターの殲滅と発生原因の調査及び処置だ。報酬は、()()()()()()()()()払おう」

「了解。その依頼、確かに受けたわ」



 白金貨三枚、金貨で換算すれば三百枚になる。普通ではありえないような額だが、それ以上にこの町のことを思っているということでもある。

 そんな額を提示されては、メリア達でも無下にはできない。……まぁ、報酬が無くても動くつもりではあったのだが。


 依頼を受け、散々になるメリア達。

 その裏で、一人の少女が脱走を図っていた。ヘレンである。



「今のうち……今のうち……」



 ヘレンは連れていかれた後、スイートナイトメアの奥にある一室に、ほぼ監禁のような形で放り込まれていた。

 だが、先程の爆発、そしてメフィロアンナの召集により、ヘレンを見張る人物は一人も居なくなっていた。



「ふっふ~ん、案外楽勝じゃない」



 見張りが居なくなったことにより、簡単に部屋を抜け出したヘレン。周りに誰も居ないことを確認すると、そのまま出口に向かってこそこそと歩き始めた。

 そして出口……もとい、入り口まで来たヘレンだったが、そこに居たのは



「……ヘレン、なぜここにいる?」



 スイートナイトメアの入り口で、ヘレンに背を向けたまま仁王立ちしているメフィロアンナであった。

 ヘレンは体を震わせた。なにせ、メフィロアンナは一度もヘレンがいる方向を見ていない。つまり、ヘレンの気配を感じ取って話しかけてきたのだ。



「なぜって、そりゃあ不当に放り込まれたんだし、逃げるに決まってるじゃない」

「今外に出るのは危険だ。さっさと部屋に戻れ」

「イヤよ。せっかくここまで来たのに戻るなんて」



 ヘレンは開き直ると、堂々とメフィロアンナに近づいていく。

 そして、ヘレンが入り口の手前まで来たその時、メフィロアンナは眉をしかめた。



「……誰だ?」

「誰、とは心外ですね、メフィロアンナ様」



 メフィロアンナの前に現れたのは、インキュバスの三人。その三人に、メフィロアンナは見覚えがあった。

 彼らは、リリムとヘレンの同期。そして、かつてのリリムと同じく、ヘレンに嫌がらせを受けていた者達であった。



「それで、なんの用だ?今は緊急事態だ。君たちも早く逃げるべきだろう」

「心配には及びませんよ。なぜなら、この騒動を起こしたのはボクたちなんですから」

「……なんだと?」



 悪びれる様子もなく言い切る三人に、思わず眉をしかめるメフィロアンナ。その後ろから、なにも分かっていないヘレンが姿を現した……現してしまった。



「ひゃうっ!?」

「やはりここに居ましたか、ヘレン」

「ちょっと!なにするのよ!危ないじゃない!」

「なにって、キミを狙っただけなんだけど?」



 ヘレンの姿を見た瞬間、後ろに立っていた二人が、ヘレンめがけて攻撃を仕掛けた。

 ヘレンはとっさに身を引いて攻撃を躱すと、彼らに向かって文句を言った。だが、当の本人達は平然とヘレンを狙ったことを告げた。



「はぁ?なんで?ワタシなーんもしてないんだけど?」

「はぁ……やはり自覚はありませんか。ですが、それも今日までです」



 三人が、ヘレンに向けて歩み始める。ヘレンはメフィロアンナの背後に隠れた。

 メフィロアンナは一瞬どうするべきか迷った。だが、ここで彼らを見過ごす訳にもいかず、渋々といった様子でヘレンを守る体勢を取った。



「メフィロアンナ様、失礼とは存じ上げておりますが、そこを退いてくださ――」

「……成る程、主様(マスター)の予想通りでしたか」

「――っ!?」



 歩み寄る三人の前に、突如として一人の少女が現れた。ユアである。

 ユアは一瞬のうちに状況を把握すると、武器を構えた。



「あんた、どうしてここに……」

主様(マスター)から、すぐにこちらに向かうよう命令を受けましたので。時期に主様(マスター)もこちらに到着致します」

「彼が……そうか」



 メフィロアンナは、ユアが来たことに驚きを露にした。だが、それ以上にユアをこちらに向かわせたケインの観察、判断力に驚かされた。

 少なくとも、ケインは彼女が出した依頼の内容を知らない。良くて、ユアから少し聞いた程度であろう。

 だが、それだけで元凶の居場所を見抜き、すぐに援軍を寄越してくれた。この混乱の中で、それを冷静にこなせるものは中々いない。

 メフィロアンナはそう納得すると、拳を構えた。



「……」

「退いてくれないかな?用があるのはキミじゃなくて、そこにいるヘレンなんだからさ」



 ユアが現れたことに驚きこそしたものの、変わらず三人が歩み寄ってくる。

 だが、そんな三人の不意を突くように、背後から人影が現れた。



「「「――っ!?」」」



 突然襲いかかってきた人影に、思わず散々になるインキュバス達。そして、現れたその人物は素早くユア達の元へと移動した。



「ふぅ……間に合ったようだな」



 現れたのは、不抜の旅人のリーダー、ケインであった。



 *



 予想通りと言うべきか、やはり中央側にモンスターはあまり沸いていなかった。

 そして、ユアと対峙していた三人組を見つけ、あえて殺気を放ちながら不意打ちを仕掛けた。

 インキュバス達は俺の殺気に反応し、散々になって躱した。その隙に、俺はユアの元へと即座に移動することができた。



「ふぅ……間に合ったようだな。それで、こいつらは?」

「……いきなり現れておいて、こいつ呼ばわりですか」

「こんな状況下で、計ったような行動をしてる方がおかしいと思うけどな?」

「……まぁいいでしょう。キミたちに構っているほど時間があるわけではないのでね」

「残念だがこっちにはある。お前らだろう?こいつをばら蒔いたのは」

「へぇ……よく見つけたね」



 壊れた簡易召喚具を見せると、一人のインキュバスが感心したような声をあげる。やはり、彼らがこの騒動の犯人と見て間違いないらしい。



「こんなことをする目的はなんだ?」

「……そこで隠れているヘレンだよ」

「だから、アタシはなんもやってないって言ってんじゃん!」

「はぁ……アナタならわかりますよね?メフィロアンナ様?」

「……ケイン、彼らはリザイアと同じだ」

「っ……そういうことか」



 リザイアと同じ――つまり、彼らもまたヘレンの虐めの被害者、というわけだ。そこから察するに、彼らは復讐のためにこの騒動を起こしたのだろう。

 町中にモンスターが現れたとなれば、そちらに注意が向けられる。そうなれば、たかが一人のことを見ている者は少なくなる。

 そうして他ごとに気を取られている隙に、ヘレンに復讐を決行する。そういう算段だったのだろう。

 ……なんというか、全部ヘレン(こいつ)のせいじゃないか?



「……お前らの事情は大体わかった。復讐だろうがなんだろうが勝手にすればいい。だが、それで他人を巻き込むのは見過ごすわけにはいかない」

「ちょっ!?」

「キミの許しを得るつもりはないけれど……邪魔をするというのなら、ここで消えてもらうよ!」



 インキュバス達が、こちらに向かって駆け出してくる。俺達は彼らを迎え撃つべく、武器を構えた。

 しかし、一人のインキュバスが腰からなにかを手に取ると、こちらの足元に向かって投げ付けてきた。

 次の瞬間、地面に叩き付けられたそれから、大量の煙が勢いよく放たれた。



「あぐぁっ!?」

「っ、〝暴風(ストーム)〟!」



 その煙が目に入った瞬間、とてつもない刺激が目を襲ってきた。ユアが素早く暴風(ストーム)で煙を吹き飛ばすも、すでに涙で目がぼやけ始めていた。


 冒険者や商人が、逃走する際に使う催涙球というものがある。掌サイズの球に催涙効果のある煙を内蔵したもので、使い方は地面に叩き付けるだけと至ってシンプル。

 そのかわり、かなり高額なもので、安くても金貨五枚は下らない。そう簡単に作れるものではないのと、安易に犯罪で使われないようにするためだ。

 だが、値が張るぶん性能は破格で、軽く目に触れただけでも効果が現れる。下手をすれば、涙で目が枯れてしまうほどだ。


 そんな催涙球を食らい、視界が涙でぼやける。涙でよく見えないが、ユアとメフィロアンナ、ついでにヘレンも、同じく催涙球を食らってしまったのだろう。

 とにかく、視界に頼れない今、俺達になす術はない――などと思っているようだが、さすがにそれは甘すぎる。



「はっ、貰っ――」

「――そこですか」

「ぐぁっ!?お前、催涙球は――」

「食らいましたが、()()()()()()?」

「っ!?」



 ユアが声のする方角へ飛び、一瞬のうちに背後に回ると、そのまま流れるようにして地面に組み伏せさせた。

 彼らは知らないだろうが、ユアは元々暗殺者として生きてきた。そのため、いつ如何なる状況でも、最善手を選択できる技能を持ち合わせている。

 ユアは涙で見えづらい目のかわりに、相手の声や足音を頼りにして飛び、見事一人を捕らえることに成功したのだ。

 だが、そこまでだった。



「ならっ……〝沈黙(サイレンス)〟!」

「っ、し――」



 声に反応したことに気がついた彼が、周囲の音を遮断する沈黙(サイレンス)を発動する。

 ユアも、すぐに離れられればよかったのだが、今彼を離しては、すぐに追うことができなくなってしまう。

 ユアとしては不服だろうが、上手く拘束できない今、手を離すわけにはいかなかった。



「くっ、ロジット!」

「わかっている!」

「――そこかっ!」

「「なっ!?」」



 残り二人がこちらに向かってくる。それを察知できた俺が、彼らに向かって波斬(スラッシュ)を放つ。

 恐らく躱されてしまっただろうが、牽制にはなっただろう。



「なっ、なぜだ……!?」

「焦らないでください。焦ったら、それこそ相手の思うツボです」



 相手の一人が慎重な性格だったのが幸いしたのか、思惑通り動きを止めてくれた。


 二人を察知できたカラクリは、魔力眼。

 魔力眼で見られる視界は、実は目で見る視界とは少しだけ異なっている。そのため、強い魔力の反応があれば、そこに誰かがいる、ということになる。

 まぁ、あくまでも予想に過ぎず、半分ほど賭けではあったが、成果はあったようだ。

 しかし、依然として厳しいことにはかわりない。

 ユアは動くには難しく、俺とメフィロアンナは視界がぼやけて見えづらい。後――



「あぐっ!あだっ!?」



 恐らく、かなりの煙に当てられたのか、ヘレンが後ろで騒いでいる。



「いきますよ!」

「あぁ!」



 策を講じたのか、二人がこちらに向かって駆け出す。一応、この時間である程度の視界を取り戻すことはできている。しかし、まだ完全に戻ったわけではない。

 魔力眼を使い、二人の行動に警戒をしたその時、二人の掌に強い魔力を感じた。



「「〝(フレイム)〟!」」

「なっ……!?」



 二人は発動した(フレイム)を、催涙球の時のように俺達の足元に向かった放ってきた。

 恐らく、ユアの時と同様に、視力ではない〝ナニカ〟で居場所を悟られたことに気がついたのだろう。

 実際、かなり不味い。魔力眼は、魔力に強く反応する。一応、人体を流れる魔力にも反応こそするが、大気を流れている魔力に比べれば微々たるもの。

 そして、(フレイム)は魔力によって作られたもの。つまり、魔力眼が最も反応するものである。

 おまけに、音や嗅覚も潰された。もし、頼れるものがあるとすれば、それは……第六感だろう。


 炎を抜け、二人の気配が近づいてくる。賭けるなら、今しかない。



「っ、らぁっ!」

「ぐぉっ!?」



 気配がすぐ側まで来たその時、俺は気配を感じた方向へ体当たりを噛ます。外せば終わりの一発勝負だが、なんとか当てることはできた。

 ……しかし、それは一人だけ。残ったもう一人までは、俺ではどうしようもなかった。



「貰った!」



 メフィロアンナも、俺と同じように賭けたようだが、残念ながら外れたらしい。包囲網を抜けた一人が、ヘレンの元へとたどり着いてしまった。

 今の俺の体勢では、もう間に合わない。そう思いながら、ヘレンがいる方角を見ようとした俺に――突如として、水の塊らしきものが投げつけられた。

 よくわからぬまま、一人を押し倒しながら倒れ込む。ふと気が付くと、先程までぼやけていた視界がクリアになっていた。恐らく、先程の水で催涙球の効果がかなり弱まったのだろう。

 しかし、今そんなことはどうでもいい。

 俺は後ろを振り返る。


 そこには、二人の人物が存在していた。

 一人は、首輪のようなものを手にした腕を突き出したインキュバス。

 そして、もう一人は――



「うぐっ……あ、がっ!?」



 男の腕を掴みながら、首にはまってしまった首輪が締まらないようにしている、リザイアの姿だった。

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