261 色無き瞳
「やぁっぱり♪右目のこと言ってなかったんだ~♪仕方ないよね、だってあんなの見られぅにっ!?」
「お前、もう黙ってろ」
「ひひゃよ。ぷはっ……アナタも見たでしょ~?あれがリリムの本当のス ガ オ。どう?醜かったでしょ~?」
ほぼ反射的に、ヘレンの頬を鷲掴みにして黙らせようとする。だが、ヘレンは悪びれもせず、俺に同情を求めてくる。
……いや、こんなことをしている場合じゃない。
「……ナヴィ、この場は任せる」
「え?ちょっ、ケイン!?」
ナヴィにこの場を任せ、俺も娼館を飛び出した。
ディヲルエーラは、常に夜のように暗い。この暗闇の中から、リザイア一人を見つけるのは困難を極める。
……だが、俺にはなんとなくリザイアが居る場所が分かった。
夢魔達は暗闇を好む。故に、日の出る外には殆ど出てこない。
――そして、リザイアは今、誰とも顔を合わせたくない、そう思っているハズだ。
町の外に出た俺は、周囲を探る。誰にも会いたくないとはいえ、そこまで遠くには行っていないと思ったからだ。
その予想は的中し、町からさほど離れていない、他より一回りほど大きな木の枝の上に、リザイアが踞るようにして座っていた。
*
「ありゃりゃ?なんで行っちゃうの?」
ケインが出ていったことに、あてが外れたといった顔をするヘレン。
ヘレンの予想では、リザイアの素顔を見たケインが、リザイアのことを気持ち悪がると思っていた。
だが実際はそんなことはなく、むしろ探しに出ていってしまった。
「んー……まぁいっか~。だってリリムが隠してるのが悪いんだも~ん」
「そんなわけがあるか馬鹿者!」
「ぎゃうっ!?メ、メフィロアンナ様!なんでワタシを殴るの!?」
「ヘレン、お前と言う奴は……お前ら!」
『はっ!』
「へ……?な、なに!?」
「さすがに、あれはやり過ぎよ」
「えぇ、あの子のあんな顔……もう見たくなかったのに」
「ちょっと!離して!ワタシはなにもしていないのに!」
「反省の色なしか……お前ら、暫くの間頼んだぞ」
『はーい』
メフィロアンナ以外のサキュバス達は、ヘレンの動きを封じると、そのまま奥の方へと消えていった。
そして、その場には、メリア達とメフィロアンナだけが取り残された。
「……うちの町の者が、すまなかった」
「い、いいですわ。そんなこと……それよりも」
頭を下げるメフィロアンナ。
だが、メリア達はそんなこと、今はどうでもよかった。
なぜなら、彼女達も見たからだ。リザイアが出ていくその時、瞳の無い真っ白な右目を……
「……分かっている。あの子には申し訳ないが、私の口から話させてもらうとしよう」
*
「……リザイア」
俺は、リザイアに声をかける。だが、リザイアは返事を返さない。やはり、誰とも顔を合わせたくないのだろう。
……だが、リザイアはなにも言わずに立ち上がると、そのままゆっくりと降りてきた。
リザイアは俺の正面に降り立ち、そして、俺の顔を見た。……やはり、リザイアの右目には、俺はおろか、背景すら何一つとして映っていなかった。
「……どうだ?気持ち悪いだろ?」
「いや、別にそんなことは……」
「分かっている。貴様がそういう男だということくらい……だが、怖かったのだ」
目を閉じ、空を見上げるリザイア。
その体は、未だ僅かに震えていた。
「我が右目を見てなんと言われるか、どう思われるのか……私は怖かった。だから、見せたくなかった。隠していたかった」
「……リザイア」
リザイアは顔を下ろし、目を開く。そこに、いつものリザイアはおらず、かわりに居たのは、押し潰されそうなほどの痛みを抱えた少女だった。
「……でも、もう隠せない。だから、聞いて欲しい。……我がまだ、私だった頃の話を」
前話や次話が長くなるので、今回は短め




