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259 疼く記憶

三十章、開幕。

 ――パパ!ママ!


 ――ねぇ起きて!起きてよ!


 ――逃げろ「●●●」!こっちに来てはいけない!


 ――そうよ!せめて、貴方だけでも……!


 ――でも!


 ――っ、「●●●」!


 ――ッ!?パパ、なに、する、の……ッ!?


 ――ゴハッ……!?


 ――い、いや……


 ――逃げ、ろ……「●●●」……


 ――イヤっ、いやっイヤッ嫌っ……


 ――嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!






「――っ!?」



 その日、リザイアは弾かれるようにして飛び起きた。久しぶりに見た、その夢の光景を思い出し、リザイアは嗚咽感を覚えた。



「……少し、外の空気に当たるとしよう……」



 リザイアはテントを抜け出し、外へと出る。



「……む?リザイアか、どうしたのじゃ?」



 外には、見張り番として立っていたベイシアがいた。ベイシアはリザイアの存在に気がつくと、すぐ側まで寄ってきた。



「……いや、少し外の空気を吸おうと思ってな」

「……顔色が悪いの。なにか悪いものでも見たのか?」

「……」

「言えぬようなこと、か……なら、無理して言わんでもよい」

「……ありがとう」



 リザイアはそう呟くと、一人、暗い森の中に消えていく。その後ろ姿を、ベイシアはじっと見つめていた。



 *



「――ぬるい!」

「ギャウンッ!?」



 クレリオタウンを出て三日目。今日はどういうわけか、朝早くから、リザイアが積極的にモンスターを狩っていた。

 その姿は、まるでなにかを忘れようとしているような、そんな雰囲気を感じた。



「リザイアさん、どうしたんでしょうか……」

「なんかー、コワーいカオしてるし。怒ってる、トカ?」

「だとしたら、わたしたちになにか文句の一つでも言うと思うけど?」

「だよねー、わかりみ」



 アリス達も、リザイアのことが気になるのか、時折心配そうな目でリザイアのことを見ていた。

 そんな中、ベイシアだけは違う心配をしているように見えた。



「……ベイシア、なにか知っているのか?」

「いや、なにも知ってはおらぬ。じゃが……」

「だが、どうした?」

「ご主人よ、あやつは一度でも己のことを話しておるのかの?」

「……そういえば、あまり聞いたことないな」

「そうか……」



 それだけ聞くと、ベイシアは再びなにかを考え込んでしまった。


 確かに、リザイアはあまり自分のことについて語らない。

 過去になにをしていたのか、その二丁(ヴァルドレイク)はどこで手に入れたのか、どうして常に右目を眼帯で隠しているのか。

 それらを、リザイアは頑なに話そうとしない。

 恐らく、ナヴィやウィルのような、過去に辛いことがあったケースだと思うのだが……



「……ところで、お前はなにをしてるんだ?」

「……う?」



 俺の目線の先、そこには、リザイアが倒したモンスターの近くに座り込んでいるルシアの姿があった。

 ルシアはモンスターの死骸を指で突っついたり、ペタペタ触ったりと、幼児によくある、あらゆるものが気になる時の行動をしている…「ぁーう!」…かと思いきや、突然腕をスライムの状態に戻し、そのままモンスターを取り込んだ。

 同じように、モンスターの死骸をいくつか取り込むルシア、暫くして、トテトテとこちらに走ってきた。



「あうじ、て!」

「手って……こうでいいのか?」

「あぃ!」



 そして、右手を差し出してきたので、恐る恐る俺も右手を出してみると、ルシアの掌から俺の手の中に、取り込まれたモンスターの魔石が次々と現れたのだった。



「……えっと、ありがとう?」

「~♪」



 無邪気に喜ぶルシアだが、やっていることは中々にエグい。まぁ、これがルシアの従魔スキルの力なのだが。


 ルシアの従魔スキル〝悪食(グラトニー)

 文字通りあらゆるものを喰らうスキルで、人間やモンスターといった生き物だけでなく、大気中に存在する空気や魔力といった、形の存在しないものすら食べることができる、というものだ。

 しかし、ただ食べるだけのスキルではない。このスキルの真骨頂は、()()()()()ことにある。

 喰らったものは、ルシアの中に常に保管されている状態となり、先程手から魔石を出したように、食べたものを吐き出すことができる。

 さらに、分解、融解、合成、消化、吸収と、一つのスキルでやっていいことではない。そう言わざるを得ないスキルとなっているのだ。


 そんな無邪気なルシアとは対照的に、リザイアは今も、どこか張りつめたような顔でモンスターを狩っていた。

 とはいえ、さすがにこれだけ暴れれば、モンスターの数も減っていくし、モンスターも恐れを成して逃げていく。

 やがて、俺達の近くから、モンスターの反応は消え去った。



「リザイア」

「……ケインか、どうしたのだ?」

「それはこっちの台詞だ。どうしていきなりこんなことをしたんだ?」

「……それは言えぬ」

「どうしてもか?」

「……」

「……わかった、無理に聞いて悪かったな。でも忘れるなよ?俺達は一人じゃないってことを」



 やはり、リザイアはなにかを話すのを躊躇っている。いや、隠そうとしている。

 いつか、ちゃんと話してくれる日が来るのだろうか……そんなことを思っていたが、その時は意外と早くに訪れた。



地図(マップ)に反応が……ディヲルエーラ?」

「――っ!?」

「リザイア?どうした?」

「い、いや……なんでもない」

「なんでもなくはないだろ……どうしたんだ?」



 明らかに動揺を見せたリザイアに、あえて強く聞いてみる。リザイアは迷いながらも、諦めたようにその口を開いた。



「……そこは、我の故郷だ」

悪食(グラトニー)


暴食の力と、スライムの「なんでも食べられる」特性が混ざり合って生まれた従魔スキル。

形の有り無しに関わらず、あらゆるものを食べることができ、食べたものは体内にストックされていく。

ストックできる上限はなく、また、吐き出したり取り込んだりすることも可能。


食べるためには、体のどこかに触れる必要があるが、ルシアの場合、着ている服を含め、全てが擬態で作ったものであるため、実質全ての攻撃を食べられる、という、ほぼ無敵のスキルとなっている。

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