閑話 近づく審判の時
シュシュを仲間に加えた勇者一行。
彼らは今、冒険都市サンジェルトまでやってきていた。
サンジェルトまで来れば、デュートライゼルまでもう少し。健也達の目的は、物資の補給や魔石の換算、休息を取ることだった。
というのも、健也達は道中に現れるモンスターを殲滅、と言ってもいいほどに狩り尽くしており、その魔石の量はかなりのものになっていた。
その中には、Aランクのモンスターのものまで含まれている。しかもそれは、健也が一人で討伐したものだ。
ちなみに、ケイン達と健也達では、エルトリート王国前後で進んだ道が大きく異っている。
健也達は曲がること無くほぼ一直線にサンジェルトに来たのに対し、ケイン達は大きな寄り道をしてエルトリート王国に来ていた。
健也達が通ったルートは、あらゆるモンスターが蔓延る無法地帯。だが、健也はあえてそこを選んで進んでいった。
理由は単純、八つ当たりだ。
健也にとって、この世界は自分の思い通りになるものだと思っていた。だが、ケイン達は健也の思い通りにはならず、勇者である自分に恥をかかせた。
その事実が、健也にとって最大の屈辱で、最悪の汚点だった。
そこで、健也は考えた。どうすればケインを絶望させられるのか、あの顔を歪ませられるのかを。
そうして浮かび上がった結論は、今よりも強い力を求めることだった。
力さえあれば、全てをねじ伏せられる。力さえあれば、全てを支配できる。
その考えは、勇者としては間違ったものだろう。だが、健也はそれが最高の答えだと信じて疑わなかった。
そんな考えが功を奏したかはわからない。
だが、今や健也は、世界が相手になろうと止められない、そう思わせるほどの力をつけていた。
そんな健也は今、目の前にいるギルド職員に対し、苛つきを隠せないでいた。
「はぁ!?たったこれっぽっちだと!?」
「確かに、貴方にはAランク相当の実力があるのでしょう。ですが、貴方が冒険者でない以上、減額の対象となります」
「ふざけるなっ!俺は勇者だぞ!?お前達は、勇者よりも冒険者を優先するのか!?」
「その通りです。私たちギルドは、ここにいる多くの冒険者たちの命を預かっている、と言っても差し支えありません。故に、冒険者に所属していない方との取り引きは、この程度で済まさせていただきます」
健也はギルドに入り込むと、換金場所へ向かい、見せつけるように大量の魔石を取り出した。
しかし、ギルドが買い取り額として提示した金額は、健也の予想を遥かに下回るものだった。
冒険者ギルドでは、魔石や素材を換金することができる。その制度は、冒険者として登録していない一般の人も利用することができる。
ただし、ギルドにとって重要なのは、冒険者からの信頼。
そのため、冒険者でない者からの買い取りは、例え王族であろうと、冒険者を相手にする時よりもかなり差っ引いて行うのだ。
とはいえ、健也達も冒険者になれば、魔石を換金して得られるお金を減らすことなく換金することができた。
だが、今冒険者になっても、ランクは低ランクから始まる。つまり、自分がケインより格下であるということになる。
健也にとって、それは屈辱以上の何者でもなかった。故に、冒険者にはならず、そのまま換金しようとしたのだ。
ちなみに、この場にいるのは健也とムーのみ。シュシュは、サンジェルトに入るや否や、どこかへフラッと行ってしまった。一応、夜には合流すると言ってはいたが。
「おまっ、ふざけ――」
「やめてください勇者様!今ここで問題を起こしたら、買い取ってすらもらえなくなりますよ!?」
「――クソッ」
「では、こちらが報酬となります」
「チッ!」
差し出されたお金を、健也は舌打ちをしながら手にする。そして不機嫌なまま、ギルドを出ようとした。
その時だった。
「おい!そこのお前!」
「……あ?」
「お前、勇者らしいな?勇者様が、こんな場所に一体なんの用だ?」
健也達の前に現れたのは、赤い髪をした、黄色い眼を持つ少年。
彼は、健也をただじっと見ながら、返事が帰ってくるのを待っていた。
「決まっているだろう。勇者の町を滅ぼし、今なおこの世界を脅かす害悪を倒すためだ」
「へぇ……んじゃあ、オレを仲間にしろよ」
「は?」
「おいウィン!?なにを言ってやがる!」
彼―ウィンは、健也の答えを聞き、ニヤリと笑うと、自分を仲間に加えるよう言ってきた。
健也は、突然のことに思わず声を洩らす。
そして、ウィンの元には、師であるバジルがやってきていた。
「お前、自分がなにを言ってるのか分かって――」
「うっせぇな!オレは今勇者様と話してんだよ!邪魔すんじゃねぇ!」
「……ほぅ?」
「ぅぐっ……!?ウィン、お前……!」
バジルがウィンを止めようとするも、ウィンの一撃がバジルを吹き飛ばす。その一部始終を見ていた健也は、ウィンのことを見た。
(……なるほど、スキルこそ目立つようなものは無いが、身体的な能力は高い。上手くいけば、駒として活躍はしそうだな)
ウィンが持つスキルに、健也は引かれなかったが、かわりに興味を抱いたのは、その身体能力。
ウィンは、いわゆるパワータイプ。スキル等の搦め手ではなく、武器や拳でごり押すタイプだ。
そして、そういった駒はとても扱いやすい。
「お前、ウィンとか言ったな。お前は素晴らしい力を持っている。その力、俺のために使うがいい」
「っ!く、くくく……あーはっはっは!流石は勇者様、オレの力を見込んでくれるとは……いいぜ、お前のために戦ってやる!」
「ウィン!」
「バジルゥ……テメェとは、これでおさらばだ」
「おい待て!おいったら!」
「待たねぇよ。んじゃな」
バジルが叫ぶも、ウィンは聞く耳を持たず、健也達と共にギルドを出ていってしまう。
その様子を見ていた、健也を相手にしていたギルド職員改め、ユミナは一人、ギルド長室へと来ていた。
「……どう思われますか?主」
「……」
ユミナからの報告を受け、外の様子を見るユリスティナ。彼女の目に、健也達が映し出された。
「……あれは、本当の勇者かもしれない。だが、あまりにも問題が多すぎる」
「では、こちらで排除致しましょうか?」
「やめておけ。お前達で相手できるような輩じゃない。……とりあえず、この町で悪さをしないよう見張っておいてくれ」
「はっ……」
ユリスティナの言葉を受け、ユミナはギルド長室を後にする。
そして、再び一人となったギルド長室で、ユリスティナは静かに呟いた。
「傲慢な態度に、我欲の塊……あんな者を、本当に勇者と呼んでいいものか?」
そんなユリスティナの呟きは、誰かに届くわけもなく、そっと消え去った。
健也達は、まもなくデュートライゼルにたどり着く。
世界が真実を知る日まで。
健也が歓喜する日まで。
ケインの絶望の日まで。
残る時間は、あと僅か。




