表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
260/413

254 証言の違い

心の支えにしてたグループの一人が卒業すると聞いて心苦しくなりましたが、今日も今日とて元気です

「父様、失礼します!」

「……フェム、お前また無実の人を連れてきたのか……」

「例えそうだとしても!事件解決のためには必要なことです!」

「全く……探偵に憧れるのはいいが、どうしてこう無鉄砲なんだ……」



 フェムが入っていった扉の先にいたのは、三十代くらいの男性だった。どうやら、フェムの父親―つまり、この町の町長らしい。



「君たちもすまないね。娘の我が儘に付き合ってもらって」

「我が儘ではありません!それに、まだ犯人だという可能性も――あぎゃっ!?」



 ……この父親、娘に容赦ねぇ……帽子の上からとはいえ、おもいっきり拳骨落としたぞ……



「見苦しいところを見せてしまって申し訳ない。わたしはロンリー。このクレリオタウンの町長であり……この残念娘の父親だ」

「ケイン・アズワードだ。不抜の旅人というパーティーで世界を回っている」

「ケイン君だね。この度は本っ当に、非っ常に申し訳ない」

「い、いや、そこまで謝られることはしてないし、されてないんだが……」



 なんの躊躇いもなく頭を下げるロンリー。どうやら相当苦労しているらしい。

 と、そこで、うずくまっていたフェムが立ち上がった。ただ、頭は非常に痛そうにしているが。



「父親!頭を上げいっ……!?上げてください!」

「……フェムよ、誰のせいだと思っているんだい?」

「へ?あ、いや、その……それは……」

「お前が「犯人を連れてきた!」と言って連れてきた人数を覚えているか?五人だぞ五人!しかも、その全てがなにも関係のない人たちだったじゃないか」

「で、でも!そうでもしなきゃ、いつまでも解決しないじゃないですか!」

「なぁ、冒険者ギルドは無いのか?」

「いや、この町にも冒険者ギルドはある。ただ、この辺りは平和的でね、Cランクの依頼が稀に来るけれど、基本的にはEランク程度の依頼ばかりがあるんだ」

「……なるほど、高ランクの冒険者があまり来ないから、食い逃げに対しての手が打ちづらい、と」

「否定はしないよ」



 確かに、低ランクの依頼しか無いとあれば、高ランクの冒険者がこの町にわざわざ来る理由は無い。

 それに、町の様子からして、冒険者もあまり滞留していないと見た。そうなれば、後は見張りをしていた守り人くらいしか、事件が起きた時に動けないだろう。



「まぁ、捲き込まれていると知った以上、とことん手を貸してやるよ。疑われっぱなしは嫌だからな」

「いいのかい?旅の途中なんじゃ……」

「別に急ぐほどでもないさ。それで?食い逃げってどのくらい前から起きてるんだ?」

「かれこれ一週間くらいだよ。これまでそんなこと起きてこなかったのに、突然起き始めたんだ。一応、ギルドに依頼として置いてもらってはいるんだが……この通り、と言うわけだ」

「一週間か……それで、そっちはどうだった?」



 俺は、自身の左手前に視線を向ける。直感だが、そこに現れるような気がしたからだ。

 そして、俺の言葉に応じるかの如く、ユアがその場に現れた。



「はい。いくつか有益な情報が手に入りました」

「うぉっ!?君、どこから……!?」

「あー、気にしないでほしい。それで?情報っていうのは?」

「まず、食い逃げされた商品というのは、どれも一口で食べられる商品ではありませんでした。そして犯人の姿についてですが、どうやら外から来た人物に化けているようです」

「町長、これまで、彼女が連れてきたのは?」

「……そういえば、確かに全てこの町の住人ではないな」



 一口では食べられないものばかりを狙う、町の住人には化けてこない。どちらともいい情報だ。

 つまり犯人は、外から来る人物を見て、その姿に変化し、商品を食い逃げしていることになる。

 ただ引っ掛かるのは、一口では食べられないものを狙っているということだ。もし俺が食い逃げ犯の立場なら、どちらかと言えば一口で済ませられるものの方を狙う。

 あえて一口で食べきれない商品を狙う理由がないのだ。



「……ユア、他には?」

「はい。どうやら犯人は、一言も喋ることなく犯行に及んでいるそうです」

「……?それは、変装スキルを使っているから、バレないようにしているだけじゃないのか?」

「いいえ、犯人は変装スキルを使っていません」

「……どうしてそう思う?」

「犯人の容姿について聞いて回っていた際、身長のことについても聞いていました。ですが何人か、身長に()()があることが確認できました」

「なっ……!?」



 さすがに、聞き捨てならない情報が出てきた。

 フェムは俺が突然困惑を露にしたことに疑問を抱いているらしく、俺に声をかけてきた。



「な、なんですか突然……まさか!?」

「お前は、今のを聞いてなにも思わないのか?」

「なにもって……たかが身長が違ったくらいで大袈裟な」

「それが問題なんだよ」

「……へ?」

「どういうことだい?」



 どうやら、フェムもロンリーも、この情報の重大さに気がついていないらしい。

 いや、そもそも変装スキルについて知らない、といった方が正しいだろう。



「この町に来て、食い逃げのことを知らされた時、俺は真っ先に変装スキルのことを思い出した。変装であれば、どんな人物にもなれるからな。ただ、いくつかの欠点を除けば、の話だが」

「欠点……?」

「一つ目は、声を変えることができないこと。そして二つ目は、身長を変えることはできないことだ」

「身長を変えられない……ってあれ?さっき確か身長が違うって……」

「ようやく気づいたか」



 そう、本来変装スキル持ちが犯人ならば、身長に関しては、全て同じ証言でなくてはならない。

 だが、ユアの集めた情報では、何人かの身長が異なっていた、というより、変装した相手と()()()()身長へと変化を遂げていたことが判明したのだ。

 変装スキルについて、確たる情報があるわけではないが、少なくとも、変装スキル持ちではないことが判明したのかもしれない。



「でも、それならどうして……」

「……うーん、一つ思い付いたことがあるんだけれど、いい?」

「なんだ?言ってみてくれ」

「その犯人って、もしかしたらモンスターなのかもしれない」

「「なっ、モンスター!?」」

「モンスターの中には、ミミックっていう、宝箱や床に化けて襲ってくるモンスターがいるわ。もしそういった類いの能力を持つモンスターだったとしたら……」

「……確かに、一理あるな」



 ナヴィの上げた可能性。確かに、無くはない。変装スキルではなく、変身能力を持つモンスターなら、身長すらも変えられるだろう。

 ただ、その仮定にも疑問は残る。

 もし本当に、ミミックのようなモンスターが犯人だったとして、わざわざ危険を犯してまで食い逃げをする理由がない。

 むしろ、擬態して待ち伏せ、そして襲った方が安全だ。



「なら、とりまその方向で試すのアリじゃね?」

「ライアー?その方向って、もしかしてモンスターだという仮定のことか?だが、なにを試すんだ?」

「それはウチに任せるっしょ!ゼっちー」

「……へ?あ、ゼっちーってボク?」

「そーそー」



 独特な自分の呼び方に、ナーゼも少し困惑する。だが、ライアーは全く気にしていない様子で、そのまま続けた。



「ゼっちー、()()()()()

「見て……?もしかして、解析(アナライズ)のことかな?それは別に構わないけれど……どうして?」

「まーまー、そこは気にしなくていいから!」

「わ、わかったよ。〝解析(アナライズ)〟」



 ナーゼが、ライアーに対して解析(アナライズ)を使う。

 どうしてライアーが、突然自身を見るよう頼んだのか疑問だったため、その場にいた誰もがナーゼとライアーのことを見ていた。



「えぇと……大地の槍(グランドランス)、人化、それと―――」

「……にひっ」



 ()()を聞いたライアーが、悪戯にほくそえむ。

 作戦決行は……明日だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ