254 証言の違い
心の支えにしてたグループの一人が卒業すると聞いて心苦しくなりましたが、今日も今日とて元気です
「父様、失礼します!」
「……フェム、お前また無実の人を連れてきたのか……」
「例えそうだとしても!事件解決のためには必要なことです!」
「全く……探偵に憧れるのはいいが、どうしてこう無鉄砲なんだ……」
フェムが入っていった扉の先にいたのは、三十代くらいの男性だった。どうやら、フェムの父親―つまり、この町の町長らしい。
「君たちもすまないね。娘の我が儘に付き合ってもらって」
「我が儘ではありません!それに、まだ犯人だという可能性も――あぎゃっ!?」
……この父親、娘に容赦ねぇ……帽子の上からとはいえ、おもいっきり拳骨落としたぞ……
「見苦しいところを見せてしまって申し訳ない。わたしはロンリー。このクレリオタウンの町長であり……この残念娘の父親だ」
「ケイン・アズワードだ。不抜の旅人というパーティーで世界を回っている」
「ケイン君だね。この度は本っ当に、非っ常に申し訳ない」
「い、いや、そこまで謝られることはしてないし、されてないんだが……」
なんの躊躇いもなく頭を下げるロンリー。どうやら相当苦労しているらしい。
と、そこで、うずくまっていたフェムが立ち上がった。ただ、頭は非常に痛そうにしているが。
「父親!頭を上げいっ……!?上げてください!」
「……フェムよ、誰のせいだと思っているんだい?」
「へ?あ、いや、その……それは……」
「お前が「犯人を連れてきた!」と言って連れてきた人数を覚えているか?五人だぞ五人!しかも、その全てがなにも関係のない人たちだったじゃないか」
「で、でも!そうでもしなきゃ、いつまでも解決しないじゃないですか!」
「なぁ、冒険者ギルドは無いのか?」
「いや、この町にも冒険者ギルドはある。ただ、この辺りは平和的でね、Cランクの依頼が稀に来るけれど、基本的にはEランク程度の依頼ばかりがあるんだ」
「……なるほど、高ランクの冒険者があまり来ないから、食い逃げに対しての手が打ちづらい、と」
「否定はしないよ」
確かに、低ランクの依頼しか無いとあれば、高ランクの冒険者がこの町にわざわざ来る理由は無い。
それに、町の様子からして、冒険者もあまり滞留していないと見た。そうなれば、後は見張りをしていた守り人くらいしか、事件が起きた時に動けないだろう。
「まぁ、捲き込まれていると知った以上、とことん手を貸してやるよ。疑われっぱなしは嫌だからな」
「いいのかい?旅の途中なんじゃ……」
「別に急ぐほどでもないさ。それで?食い逃げってどのくらい前から起きてるんだ?」
「かれこれ一週間くらいだよ。これまでそんなこと起きてこなかったのに、突然起き始めたんだ。一応、ギルドに依頼として置いてもらってはいるんだが……この通り、と言うわけだ」
「一週間か……それで、そっちはどうだった?」
俺は、自身の左手前に視線を向ける。直感だが、そこに現れるような気がしたからだ。
そして、俺の言葉に応じるかの如く、ユアがその場に現れた。
「はい。いくつか有益な情報が手に入りました」
「うぉっ!?君、どこから……!?」
「あー、気にしないでほしい。それで?情報っていうのは?」
「まず、食い逃げされた商品というのは、どれも一口で食べられる商品ではありませんでした。そして犯人の姿についてですが、どうやら外から来た人物に化けているようです」
「町長、これまで、彼女が連れてきたのは?」
「……そういえば、確かに全てこの町の住人ではないな」
一口では食べられないものばかりを狙う、町の住人には化けてこない。どちらともいい情報だ。
つまり犯人は、外から来る人物を見て、その姿に変化し、商品を食い逃げしていることになる。
ただ引っ掛かるのは、一口では食べられないものを狙っているということだ。もし俺が食い逃げ犯の立場なら、どちらかと言えば一口で済ませられるものの方を狙う。
あえて一口で食べきれない商品を狙う理由がないのだ。
「……ユア、他には?」
「はい。どうやら犯人は、一言も喋ることなく犯行に及んでいるそうです」
「……?それは、変装スキルを使っているから、バレないようにしているだけじゃないのか?」
「いいえ、犯人は変装スキルを使っていません」
「……どうしてそう思う?」
「犯人の容姿について聞いて回っていた際、身長のことについても聞いていました。ですが何人か、身長にズレがあることが確認できました」
「なっ……!?」
さすがに、聞き捨てならない情報が出てきた。
フェムは俺が突然困惑を露にしたことに疑問を抱いているらしく、俺に声をかけてきた。
「な、なんですか突然……まさか!?」
「お前は、今のを聞いてなにも思わないのか?」
「なにもって……たかが身長が違ったくらいで大袈裟な」
「それが問題なんだよ」
「……へ?」
「どういうことだい?」
どうやら、フェムもロンリーも、この情報の重大さに気がついていないらしい。
いや、そもそも変装スキルについて知らない、といった方が正しいだろう。
「この町に来て、食い逃げのことを知らされた時、俺は真っ先に変装スキルのことを思い出した。変装であれば、どんな人物にもなれるからな。ただ、いくつかの欠点を除けば、の話だが」
「欠点……?」
「一つ目は、声を変えることができないこと。そして二つ目は、身長を変えることはできないことだ」
「身長を変えられない……ってあれ?さっき確か身長が違うって……」
「ようやく気づいたか」
そう、本来変装スキル持ちが犯人ならば、身長に関しては、全て同じ証言でなくてはならない。
だが、ユアの集めた情報では、何人かの身長が異なっていた、というより、変装した相手と全く同じ身長へと変化を遂げていたことが判明したのだ。
変装スキルについて、確たる情報があるわけではないが、少なくとも、変装スキル持ちではないことが判明したのかもしれない。
「でも、それならどうして……」
「……うーん、一つ思い付いたことがあるんだけれど、いい?」
「なんだ?言ってみてくれ」
「その犯人って、もしかしたらモンスターなのかもしれない」
「「なっ、モンスター!?」」
「モンスターの中には、ミミックっていう、宝箱や床に化けて襲ってくるモンスターがいるわ。もしそういった類いの能力を持つモンスターだったとしたら……」
「……確かに、一理あるな」
ナヴィの上げた可能性。確かに、無くはない。変装スキルではなく、変身能力を持つモンスターなら、身長すらも変えられるだろう。
ただ、その仮定にも疑問は残る。
もし本当に、ミミックのようなモンスターが犯人だったとして、わざわざ危険を犯してまで食い逃げをする理由がない。
むしろ、擬態して待ち伏せ、そして襲った方が安全だ。
「なら、とりまその方向で試すのアリじゃね?」
「ライアー?その方向って、もしかしてモンスターだという仮定のことか?だが、なにを試すんだ?」
「それはウチに任せるっしょ!ゼっちー」
「……へ?あ、ゼっちーってボク?」
「そーそー」
独特な自分の呼び方に、ナーゼも少し困惑する。だが、ライアーは全く気にしていない様子で、そのまま続けた。
「ゼっちー、ウチを見て」
「見て……?もしかして、解析のことかな?それは別に構わないけれど……どうして?」
「まーまー、そこは気にしなくていいから!」
「わ、わかったよ。〝解析〟」
ナーゼが、ライアーに対して解析を使う。
どうしてライアーが、突然自身を見るよう頼んだのか疑問だったため、その場にいた誰もがナーゼとライアーのことを見ていた。
「えぇと……大地の槍、人化、それと―――」
「……にひっ」
それを聞いたライアーが、悪戯にほくそえむ。
作戦決行は……明日だ。




