253 クレリオタウン
ブックマーク100人突破!
これからもこの作品をどうぞよろしくお願いします!
では改めて、二十九章開幕です。
地図スキルに、次の町が映った頃合い。俺は、今後どのような振る舞いをすべきかを考えていた。
「うーん……」
「む?どうしたのじゃご主人よ。そんな唸り声を上げて」
「いや、今後はどういう方針で進んでいくかを考えていてな……特に宿関係」
「あぁ……まぁ、確かにのぅ……」
「まーまー、そこは決まってるっしょ!」
「うおっ!?」
悩む俺の背後から、突然誰かが抱きついてきた。……いやまぁ、口調で誰なのかは分かっているのだが。
「高い宿とってぇ、悠々快適贅沢三昧!」
「……で、本音は?」
「にひっ、ウチはケーちんたちと一緒ならどこでもいーし。だから別に、無理して宿止まらなくてよくね?」
「……そういう軽はずみなことを、簡単に言えるのはお前くらいだぞ。〝ライアー〟」
「そマ??ウケる!」
先日出会った、褐色肌が特徴的なラミア。
元ダンジョンマスターであり、誰彼構わず嘘をついてはその反応を楽しむという、一風変わった性格を持っている彼女。
そんな彼女だが、今は俺の新たな従魔として共に旅をすることになった。
与えた名は「ライアー」。文字通り嘘つきを意味する名だが、本人はものすごく気に入っていた。
そんなライアーだが、今は人化により、人の形を保っている。
上半身はそのままに、下半身は女性らしいスラッとしたものを持っており、ナヴィ達が生唾を飲んでいた。
そして肝心の服装だが、これはある意味で難航していた。
というのも、ライアーはなにとは言わないが、大変立派なものを持っている。故に、ナヴィ達の服ではサイズが合わないのだ。
そのため、今はその場しのぎとして、イルミスの寝間着を着てもらっている。
「……とりあえず、次の町につかないことには始まらないし、行くか」
「そうじゃの」
「にしし、『面白いこと起きてないかなぁ』ー!」
「……」
たわいない会話をしつつ、俺達は目前に迫った町へと向かう。
町の名はクレリオタウン。規模としてはあまり大きくなく、むしろ村程度しかない。建物も木造がほとんどで、自然の中で暮らしているような印象を受ける町である。
町の入り口にいた守り人らしき人物にギルドカードを見せ、町に入る許可を得る。そして、中に入ろうとした時、守り人に呼び止められた。
「っとそうだ。伝えておくことがあった」
「伝えておくこと?」
「あぁ。ここ数日、この町で食い逃げが発生していてな。今犯人を探しているんだが……不思議なことに、情報が全て違うんだ」
「情報が違う?同じ人物が食い逃げをしているわけじゃないのか?」
「あぁ。中には町に来た商人だったり、冒険者だったり……とにかく、毎回姿が違うんだ」
「姿を変えての犯行……変装やその類いか?」
「俺達もそう睨んでいる。もしかしたら、お前達の誰かに化けて、また食い逃げが起きるかもしれない。一応、全員の動きに注意しておいてくれ」
「わかった。忠告感謝する」
どうやら、この町では食い逃げ事件が起きているらしい。しかも、姿は毎回異なると来た。
思い当たることと言えば〝変装〟のスキルくらいだろうか。
変装はその名の通り、自分の姿を別の誰かに変えるスキル。ただし、声や身長まで完璧に変えることはできない。
だが、犯罪やその他に使われることを防ぐために、冒険者ギルドや王族は変装のスキルロールの作成を禁止。また、処分ないし回収している。
ただ、変装のスキルロール自体が滅多に見つからない代物。おまけに、所持している者まで検挙することは無理がある。
そのため、全てを対策できているわけではないのが現状である。
とはいえ、スクロールも所持者も、少ないのも事実。恐らく犯人は、その少人数の一人なのだろう。
まぁ、注意しておくに越したことはない。
「とりあえず服屋は……あったあった」
小さいながら、一件だけあった服屋に入る。全員で入るわけにはいかないので、俺とナヴィ、ライアーだけで入ることにした。
しかし……
「ンー、どれもイマイチかなー」
「ずいぶんと拘るんだな」
「ま、ケーちんにゃわからんかもね」
「とりあえず寝間着と下着は買えたし、よしとしていいんじゃないかしら?」
「だねー……ン?なんか騒がしくない?」
「……外だな。行こう」
店内にいる俺達にも、誰かが言い争いをしている声が聞こえる。店の外に出ると、ガラルが誰かと言い争いをしている声が聞こえてきた。
「話が通じない相手ですね!いいから彼女を引き渡してください!」
「だから、やってねぇって言ってるだろうが!メリアはずっとオレたちと一緒に居たぞ!」
「例えそうだったとしても、一度詳しく話を聞く必要があります!さぁ、早く!」
「おい、なんの騒ぎだ?」
ガラル達の元へと向かうと、そこには見かけない少女がいた。先程の言い合いからして、メリアに用があるらしい。
「むっ、貴方は?」
「ケイン・アズワード。不抜の旅人のリーダーだ。そういうお前は?」
「私はフェム。探偵です」
「探偵?探偵がメリアになんの用だ?」
「この町に来たと言うことは、貴方も食い逃げが起きていることは聞いているハズです。そして、今日も今しがた食い逃げ事件が起きたんです」
「……それで?メリアと食い逃げ犯にどんな関係性が?」
「察しの悪い人ですね。今回の犯人は、その少女の姿をしていたんですよ。私がこの目でバッチリ見ましたから、間違いありません」
探偵を名乗る少女。彼女がメリアに固執していた理由は、どうやら食い逃げの犯人ではないか、という疑いから来るもののようだ。
それにしても、まだ来たばかりだと言うのに、すでに事件に巻き込まれてしまったあたり、今日は運が悪いらしい。
「だ、そうだが……メリア、心当たりは?」
「……ううん、ない」
「だろうな。フェムだったか?お前が見たのは本当にメリアなのか?」
「私を疑うつもりですか?残念ながら、間違いなくその少女です」
「ふむ……となると、やはり変装のスキルを持っているのか?ユア」
「はい」
「食い逃げにあった店、それと犯人の姿に関しての情報を」
「了解しました」
ユアに、食い逃げ事件に関する情報を集めるよう頼む。ユアは迷わず承諾し、そのまま姿を消した。
「へっ?えっ、なっ!?」
「とりあえず、ユアに任せておけば問題ないな……というわけで、連れていってくれ」
「……え?私?」
「お前以外誰がいるんだ?さっき、メリアをどこかに連れていこうとしたんだろ?なら、そこに連れていってくれ」
「ご主人サマ!?」
「大丈夫だ。メリアが無実なのはわかってる。だが、巻き込まれていると知った以上、無視をする方がかえって疑われるぞ。それなら、むしろ無実を証明する意味でも大人しくついていった方がいい、だろ?」
「むっ……確かに……」
「ってことで、頼んだぞ」
「わ、わかりました」
少女が先行して歩き始め、俺達はその後を追う。
そして、歩き始めて数分。俺達の目の前に、一際大きな家が姿を現した。
「ここは?」
「この町を治める町長の家です。そして、私の家でもあります」
ライアー
種族:ラミア
性別:女
年齢:不明
所持スキル:大地の槍、人化、???
嫉妬の従魔。嘘をつくのが好きで、敵味方問わず嘘をついてはその反応を楽しんでいる。
ラミアとしては珍しい褐色肌の持ち主であり、独特の口調やセンスを持つ。




