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245 終結もたらす雨

 ―同時刻、アルテレジオン。町の人々は怯えながら、今も燃え続けている森を、港からただ呆然と眺めていた。

 そして同時に、この森火事の原因もなんとなく分かっていた。

 だからこそ、自分たちにはどうしようもないと、怯えて見ているしかなかったのだ。住む場所を失うとしても、せめて己の身だけは安全を確保するために。

 そんな中、言い合いを始める親子がいた。



「ちくしょう!あいつらさえ来なけりゃ……!」

「あいつらってのは、あの冒険者たちのことか?」

「そうだよ!あいつらさえ来なきゃ、こんなことにはならなかっただろ!?」

「バカを言うな。あの冒険者たちは、確かに原因の一つかも知れぬ。だが、望んでこんなことをしていると思うか?」

「うぐっ……でもよぉ!」

「言いたいことは分かる。だが、ワシらにはどうしようもできんよ」



 ケイン達を知らない者の大半はケイン達が悪であると叫び、そうでない者たちは、あくまでも巻き込まれただけと語る。

 双方の言い分は最もであり、どちらが間違っているとも言えない。

 ケイン達がこの町に来なければこんなことにもならなかったし、偶然の不運が重なって、こんな大事になってしまったのだから。



「くそっ!」

「おい!どこへ行くつもりだ!」

「どこって、森ん中に決まってんだろ!文句の一つでも言わねぇと気がすまねぇんだよ!」

「馬鹿者!今森に入ったら、死んでしまうぞ!」

「うるせぇ!じゃあ、このイライラはどうすりゃ――」

「おいテメェら!」



 言い合う二人の頭上から声が聞こえ、思わずその場にいた人々が顔を上げる。

 そこにいたのはガラルであった。側にはレイラにイルミス、ベイシアもいる。



「っ、おまえは……!おまえらが来なけりゃ、この町は――!」

「文句なら後で聞いてやる!それより――」

「ワシらは、なにをすればいいんじゃ?」

「親父!?なにあいつの言うこと聞こうとしてんだよ!?」

「壊れたやつで構わねぇ!誰も使ってない小型の船を二つよこせ!」

「はぁ!?なにを言って――」

「そ、それならこっちにあるぞ!」

「なぁっ!?」

「案内しろ!レイラ、そっちは任せた!」

「任された!」



 ガラルの言葉を受け、思い当たることがあったのか、一人の男が声を出し、ガラル達をそこへ案内しようとする。

 だが、口論をしていた青年の方は、その行動に納得がいかないようだった。



「なんで……なんでだよ!なんであんな奴らに手を貸そうとすんだよ!」

「じゃあ貴方は、なにかをしたのかな?」

「あぁ?なんだ――っ!?」



 青年が振り替えると、そこには目前に迫ったレイラがいた。青年は思わず引き下がったが、すぐに怒りを露にした。



「もっ、もとはと言えば、おまえらが来たのが悪いんだろ!?」

「そうかもしれないね。でも、貴方もなにもしていないでしょ?目の前で起こっていることに文句を言うだけで、手足はなーんも動いてない」

「っ、テメェ――っ!?」

「あぁごめん、私ゴーストだから」



 レイラの散々な言葉に、青年は拳で返そうとする。だが、拳はレイラの体をすり抜け、失敗に終わった。



「死んでる私が言うのもなんだけど、なにもせず、ただ悪態をついてなにもしないのは、ただの生き恥だよ。そんな暇があるのなら、人助けくらいしたらどうかな?」

「んだと!?じゃあおまえらは、なにしに戻ってきたんだよ!」

「決まってるでしょ?あの火事を止めるためだよ」

「あっ、おい待て!」



 レイラはそう言い残し、港の方へと飛んでいく。青年も、言われっぱなしが癪に触ったので、レイラの後を追っていった。



「うーん……ねぇ!ここら辺の船、少しどかしてもいいかな?」

「へ?そりゃあ構わねぇが……一体どうやって?」

「こうするんだよ……えい!」

『なぁぁっ!?』



 レイラが念力(サイコキネシス)で船を浮かび上がらせる。

 船が宙に浮く。見たことのないその光景に、思わず驚きの声が上がる。



「んー、こんな感じでいいかな」

「おっ、丁度よかったみたいだな」

『はぁぁっ!?』



 レイラが船を動かし終えたところに、ガラル達が合流する。ガラルの手には、糸で無理矢理修復された小舟が二艘あった。

 小舟とはいえ、どちらも人が持つには相応しくないほどの大きさを誇る。だがガラルは、それらを片手で軽々と持って走ってきたのだ。



「ベイシア、あの船の固定をお願い」

「うむ、任されたのじゃ」



 ベイシアが糸を掌から放出する。その糸は、まるで生きているかのように船の元へと向かうと、そのまま波止場に船を固定するかのように絡まり付いた。



「よっし、それじゃあ……やるよ!」

「おうよ!」

「はい!」

「な、なにを――って、はぁぁぁっ!?」



 レイラが叫んだ瞬間、海が渦を巻くように、天を目指して上り始めた。それは、ある程度の高さまで来ると、今度は球体の形を作り始めたのだ。

 さらに、驚くことはそれだけではなかった。



「ふっ、ぬぉラァァァァァ!!」

「んっ……はぁっ!」



 波止場の先に立っていたガラルが、手にした小舟の一艘を振りかぶったかと思うと、そのまま海へと突っ込ませた。そしてそのまま、力任せに沈めた船を引き上げた。

 さらに、もう一艘の船を手にしたイルミスは羽を出現させると、こちらは船を沈め、そのまま引き上げた。

 どちらの船にも、大量の水が入り込んでいる。



「おっし……行くぜぇ!」

『なっ……!?』



 ガラルは水で満たされた船を手にしたまま、森の方角へ軽々と跳び跳ねる。その普通ならばあり得ない光景に、町の人々は驚きと困惑の声を上げた。

 そんなガラルの後を追うように、イルミスも水でいっぱいになった船を持って飛んでいく。

 そして二人は、森に近い場所まで来ると、再び大きく振りかぶった。



「そぉらよっ!」

「はぁぁっ!」



 船を満たしていた水が、勢いよく森へと放たれる。しかし、水は森の木々に落ちるよりも早く、空中で静止した。

 そしてそれらは、そこより少し奥に生まれていた、風のドームのようなものに吸い込まれていく。



「うっし、次行くぞ!」

「急ぎましょう!」



 それを見届けたガラルとイルミスは、再び波止場へと向かう。

 そして入れ替わるように、今度は巨大な水球を作り上げたレイラが、同じく森の方へ水球を投げ込む。

 その水球も、同じように静止し、竜巻に巻き込まれていく。



「うん、大丈夫そうかな?じゃあ次だ!」



 同じく見届けたレイラが港へ戻る。

 そして再び水球を作ろうとした時、背後から青年の声が響いた。



「おい、おい待て!おまえら、一体なにをしようとしてんだよ!?」

「雨だよ。雨を降らせようとしてるんだ」

「は、はぁ?んなもん、できるわけねぇだろ!」

「それは、やってみないとわからないよ?」



 レイラは、森の方を指差し、青年がそちらの方を見る。そこには、擬似的な雨が降り始めていた。



 *



「っ……!」

「うっ!?いきなり、こんな量をっ……!?」



 所変わって森の中。ウィル達は、擬似的な雨を作成し、今降らしている真っ最中であった。

 タネはこうだ。


 まず、レイラ達が海の方から、大量の水を森の方へと運び込む。

 運び込まれた水は、ウィルが全て回収し、ユアが暴風(ストーム)で作り出した風のドームへと入れる。

 そして、ドームに入った水は暴風(ストーム)によって撒き散らされ、擬似的な雨となる。

 これが、ビシャヌの立てた作戦だった。


 だが、こんな大がかりなことをすれば、すぐに二人の魔力がつきてしまう。

 しかし、ビシャヌがその問題を見過ごす訳がなかった。



「イブ様!」

「うん!つかって!イブのまりょく!」



 ユアが叫ぶと、背後に控えていたイブが、ユアの背中に触れる。すると、イブの魔力がユアへと流れ込んでいく。

 ウィルの方も同様に、こちらはメリアにリザイア、ナーゼにビシャヌと、四人がかりで魔力を分け与えていた。

 先の戦いで、魔力を消費していたアリス。それとソルシネア、テリューズは、森の様子を伝える係りに付いた。


 擬似的な雨は、風のドームを中心に、次第に森の全体へと広がっていく。


 そして、その雨はやがて、ケインとナヴィ、二人の元へと届く。

 この戦いの決着は、もうすぐそこまで迫ってきていた。

水質操作

水を操るスキル

他のスキルが「魔力で作り出したもの」を操るのに対し、こちらは水であれば凝縮、凝固、融解、蒸発など、自由自在に操ることができる

また、天候すら支配するスキルへと至ることができる

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